2016/10/18
[第4回] 社会人は、自らの大学教育の経験を通した成長をどのように認識しているのか —若年層の「ゼミ・研究室活動」経験の自由記述回答から見えてきたこと [3/6]
Ⅲ.「ゼミ・研究室活動」のどのような経験・活動から成長を実感しているのか
3-1)成長経験の内容要素と類型—学び方や学び合いの経験による成長実感
自由記述の内容分類対象回答データ1,079名分を、含まれる内容要素毎に分解し分類整理して、その中から、社会人若年層が「ゼミ・研究室活動」の、どのような経験や活動を通して、成長を実感したのかを拾ってみた。その結果、以下の表2の①~⑰にあるように、17個の項目が抽出できた。
さらに、これらは、大きくA~Cの3つのカテゴリー、すなわち、A「学習の仕方(姿勢)に関わる経験」、B「他者との協働学修・交流に関わる経験」、C「学修対象やその深さと幅に関わる経験」に大別でき、整理分類できる。
表2:若年層「ゼミ・研究室活動」における成長経験の内容要素・類型と該当件数・回答順位一覧
中でも、全体としてのべ件数の小計が多かったのは、カテゴリーA【学習の仕方(姿勢)に関わる経験】群であり、のべ720件以上の事例が拾い出せた。また、これらに続いて多かったのは、カテゴリーB【他者との協働学習・交流に関わる経験】群であり、のべ435件以上の事例があった。カテゴリーC【学修対象やその深さと幅に関わる経験】にかかわる事例は、のべ290件以上であった。
カテゴリーAは、実習・フィールドワーク等の実体験的学習、継続学修、ハードワークへのチャレンジと達成、自主的・自発的学修や思考など、一人ひとりの学習への向き合い方や学習方法に関わる項目であり、カテゴリーBは、教員はもとより他の学生や学外者も含めた多様な他者との学び合い・関わり合いの経験に関わる項目である。また、これらのカテゴリーAとBにおける12項目は、いずれも学生の能動的あるいは自主的学習経験・活動に関わる項目である。カテゴリーCにあるような、学修対象自体やその深さや幅による成長実感も一定程度あるものの、やはり「ゼミ・研究室活動」におけるアクティブ・ラーニングによる経験・活動から成長したことを、実感している大卒社会人が多いことが確認できる。すなわち、学ぶ内容も重要であるが、それ以上に、成長実感につながるのは、学び方や学びへの向き合い方、他者との学び合いの経験であると言えよう。
3-2)具体的内容要素とその複数の組み合わせによる成長実感
事例の具体的内容要素としては、A-①フィールドワーク・実習など、教室内の座学ではない実経験やアクティブな活動や経験を伴う学びによる成長実感事例が最も多かったが、A-②1つのテーマについてじっくり学び考え、一連の作業を自分なりにやり遂げまとめ上げる経験も大きな成長実感につながっている。また、これ等に次いで、A-③自分なりに考える思考経験やB-⑦複数の他者との協働学習・学び合いの経験(グループワークやディスカッション等)、さらにはB-⑧多様な他者との交流経験・相互理解の経験などからも多くの若年層社会人が成長を感じ取っている。そして、上述のA-②1つのテーマをやり遂げまとめ上げる経験とも近いが、A-④ハードワークへのチャレンジや困難な経験とその達成経験(=大変な作業に挑戦したりやり遂げたりし点について言及している事例を拾い上げた分類項目)とC-⑬テーマや専門分野の知識および思考や分析の方法を深く学習・研究も成長実感と大きく関わっている。
A-①実習・フィールドワーク等の実体験的学習の具体的な事例の内容としては、各種専門分野における実験やフィールド調査・インタビュー調査、専門資格取得のための実習なども多く含まれているが、専門分野に関連したボランティア経験や職場経験・社会経験・海外経験なども挙げられていた。
A-②では、卒業論文やゼミ論文・研究プロジェクト等を、じっくり時間をかけて、データを取ったり徹底的に資料を集めたり読み込んだり考えたり何度も書き直したりして、まとめ上げた経験が多く挙げられていた。この項目は、とくにA-③の自分なりに考える思考経験やA-④の困難な経験の達成感、A-⑤自主自律の学修経験、A-⑤自発的課題発見解決、さらにはB-⑦複数の他者との協働学習・学び合いの経験やB-⑧多様な他者との交流経験・相互理解の経験等と合わせて記述されていることも多く、A-②の項目にあてはまる事例の約4分の3の事例が、A-②以外の複数の項目との組み合わせによる記述となっていた。A-②の自由記述事例の複数の項目との組み合わせの例は、表3の通りである。
表3:A-②と他の内容要素との組み合わせの自由記述事例の例