2015/07/01

[第1回] 「ポリメディア環境」での中学生におけるネットアクセス機器が持つ意味 [1/5]

木村 忠正●きむら ただまさ

立教大学社会学部 教授
ニューヨーク州立大学バッファロー校、東京大学大学院総合文化研究科にて文化人類学を専攻。Ph.D.(文化人類学)  早稲田大学理工学術院教授、東京大学総合文化研究科教授などを経て、現職。専門は、ネットワーク社会論、デジタル社会学。インターネットを中心としたデジタルネットワークの社会的普及に伴う社会文化の変容を複合的に探究している。内閣府国民生活審議会臨時委員、総務省「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」構成員、Yale大学客員研究員、CS朝日ニュースター「ニュースの深層」キャスターなどを歴任。主著に、『デジタルデバイドとは何か』(岩波書店、2001年、日本社会情報学会優秀文献賞、電気通信普及財団テレコム社会科学賞)、『ネットワーク・リアリティ』(岩波書店、2004年)、『デジタルネイティブの時代』(平凡社、2012年)などがある。

要約

 中高生を取り巻くメディア環境は「ポリメディア化」(複数のマルチメディア機器と多様なアナログメディアが生活空間に併存している状況)が進展し、ネットへのアクセス手段もまた多様化している。しかし、ポリメディア環境で、具体的に何を利用するかは、個々人により大きく異なる。とくに中学生の場合には、保護者が子どもの情報メディア環境をコントロールしようとする意図が強く働き、独特のアクセス手段のパターンが形成される。本章では、iPod touchなどのPMP(ポータブルメディアプレイヤー)とパソコンに関係するアクセスパターンと、ネットワーク利用、学習、社会的関係の連関(例えば、SNS利用と結びつくパターンと阻害するパターン)を具体的に明らかにした。

1.「ポリメディア化」する情報メディア環境

 筆者は、文化人類学、社会学を基盤とした情報ネットワーク研究を専門としており、学習、教育(中等教育)が専門ではない。中高生を含めた「デジタルネイティブ」への関心も、学習、教育ではなく、青少年における情報ネットワーク利用、サイバースペース拡大に伴うメディア環境、生活環境の変化とそれに伴う行動様式、価値観の変化が主たる関心である。そこで本章では、生活空間でのメディア環境と中高生の利用行動という観点から本調査データ(「中高生のICT利用実態調査2014」)にアプローチするが、この観点からみて、最も強く印象づけられたことの一つが、中高生を取り巻くメディア環境の「ポリメディア化」である。「マルチメディア」とは、ある単一のメディアが、文字、音声、音楽、画像、動画など、複数の様相をもった情報を扱うという概念に対して、「ポリメディア」1)とは、複数のマルチメディア機器と多様なアナログメディアが生活空間に併存している状況を指す。
 もちろん、アナログメディアの時代にも、新聞、ラジオ、テレビなどが併存し、テレビのついている部屋で、ウォークマンを聴きながら読書し、勉強する、といった「ながら行動」も珍しくはなかった。しかし、デジタルネットワーク技術の発展は、生活空間をさらに複合的、多元的にしている。現在の中高生は、ネット接続テレビで視聴者として番組に参加しながら、スマホのLINE、twitterでチャット、携帯ゲーム機でオンライン対戦、Wifi接続の携帯音楽プレイヤー(iPodなど)で音楽を流しつつ、PCのスカイプによるビデオ会議で学校の友人と課題を議論して、電子書籍とPCで資料を検索、閲覧する、といった情報行動が可能となるポリメディア環境に生活しているのである。
(注記)本章では、Wifiでのネット接続機能付き携帯型音楽プレイヤー(iPod touch、walkman Zシリーズなど)を「PMP」(Portable Media Playerの略記)と呼ぶことにする。
1)「ポリメディア」という概念については、Alm, A., and Ferrell Lowe, G. (2001) Managing transformation in the public polymedia enterprise: amalgamation and synergy in Finnish public broadcasting. Journal of Broadcasting & Electronic Media, 45(3), 367-390、Horst, H. A., & Miller, D. eds. (2013) Digital anthropology. Berg.を参照。