2015/07/01
[第1回] 「ポリメディア環境」での中学生におけるネットアクセス機器が持つ意味 [2/5]
2. 中学生におけるポリメディア環境~保護者によるコントロールの意図とPMP・PC~
■ 進展するポリメディア環境
では、具体的に中高生は、どのようにポリメディア環境に接し、利用しているのだろうか?本調査では、メディアデバイスとして、ケータイ(いわゆる「ガラケー」)、スマホ、PC、タブレット、PMP(ポータブルメディアプレイヤー)、ゲーム機の6種類について、利用機器保有(自分専用、家族共用、非保有)とインターネットへのアクセス手段としての利用(この場合は「その他」を含めると7種類)をきいている(それぞれ複数回答)。この選択肢の多様性自体がポリメディア状況を反映するとともに、6種類のデバイスにおける、保有/非保有、ネット利用/非利用それぞれの可能な組み合わせ64種類の内、保有では中学60種類、高校63種類、利用では中学57種類、高校46種類にあてはまる生徒がいたことにもまた、現代社会におけるポリメディア状況が端的に表れている。
もちろん、これら選択肢の組み合わせは均等に分布しているわけではない。機器保有、ネット利用の分布と組み合わせの状況を分析すると、多様な論点が浮かび上がるが、中学生におけるネットアクセス手段の観点から興味深いのが、PMP(ポータブルメディアプレイヤー)とPCである。
■ 中高生におけるネットアクセス手段の現状
表2-1は、中学、高校に分け、種類毎の機器保有率、ネット利用率を単純集計したものである。表で機器保有率をみると、中学、高校を問わず、家族共用を含めて、PCとゲーム機が8割前後以上と広汎に普及している。他方、スマホは高校になると8割以上が自分専用で利用するようになる一方、中学ではまだ3分の1程度に留まり、家族と共用も5%程度ある。高校生と比較すれば中学生でのスマホ、ケータイ普及は限定的であり、この観点から興味深いのがPMPなのである。
表 2-1 情報機器の保有とネットアクセス手段としての利用(中学生、高校生)
表 2-2 携帯・スマホ保有形態別の専用・共用保有、ネットアクセス利用の割合(中学生、高校生)
■ 中学生におけるPMP利用の普及
表2-1から明らかなように、iPod touchやウォークマンZシリーズなどのPMPは、タブレット以上に中高生に普及している。中学生で専用44%、共用を含めれば約半数、高校生では専用だけで55%達する。共用を含めてもタブレットが中学で28%、高校で2割に留まるのと対照的である。もちろん、こうした普及は、PMPが音楽プレイヤーとしてまず利用されるからだが、ここで着目したいのは、中学生におけるネット接続端末としての役割である。ネット接続手段として、中学ではほぼ4人に一人がPMPを利用しており(表2-3、A列)、しかも、ネット利用者においてPMP利用/非利用で大きく異なるのが、LINEの利用率である。表2-3(B~D列)では、PMPによるネット接続利用者(他の手段との併用を含む)(「①PMP利用」)、PMP非利用のネット利用者(「②PMP非利用」)、ネット非利用者(「③ネット非利用者」)の3グループに分けて、LINE利用に関するデータをまとめている。表をみると、PMP非利用のネット利用者でLINE利用が約半数に留まるのに対して、PMP利用者では8割を超えていること(B列)、中学生におけるLINE利用率自体は51.4%とほぼ半数だが、LINE利用者の約4割がPMPネット利用者であること(C列)が示されている。
表 2-3 PMP利用/非利用、ネット非利用によるLINE利用(中学生)
中学生におけるこうしたネット接続手段としてのPMP利用は、保護者が子どものネット利用をコントロールしようとする意図の表れであることは間違いない。ポケベル、ケータイ話、スマホと移動体通信の発展は、子どもたちの生活に大きな変化をもたらしてきた。これらの情報機器は、連絡や情報伝達、検索、収集などにおいて、時間や空間の制約を取り除き、大きな利便性をもたらすが、そのパワーの大きさゆえに、使い方を誤ると子どもたちに深刻な悪影響を及ぼす可能性もまた大きい。とくにスマホは、ケータイと異なりインターネットの膨大な情報の海にたやすく接することが可能であり、潜在的パワーが巨大なだけに、利用に伴うリスク、懸念も大きなものとならざるをえない。
このような観点から、PMPというデバイスは、スマホと同様の機能をもちながら、自宅のWifi接続でしかネット接続できないため、保護者からみて、家の内外問わずスマホを利用させるよりも利用をコントロールしやすいと考えられる。さらに、地域、学校、クラス毎の状況にもよるが、中学生においてもLINEがクラスメートや部活の仲間とのコミュニケーションで必須とされ、自宅でアクセスできないと不利に働く場合もある。そのため、中学生の間はスマホを一切認めないという立場もありうるが、一気にスマホにはいかず、自宅でネットに接続する手段として、PMPが利用されることになる。
■ PC利用と保護者のコントロール
こうしたネットワーク利用をコントロールしようとする意図はPCでも明確である。PCはスマホ、携帯、タブレットに比べると携行性、モビリティに劣るが、データ処理能力が格段に高く、情報検索やデータ編集加工などの作業がはるかに容易であり、PCの利用スキルは社会的に重要であろう。しかし、スマホと同様、その巨大な潜在的パワーは、計り知れないリスクを秘めてもいる。筆者が別の機会に明らかにしているように、日本社会では「不確実性回避傾向」が強く、実際には何らトラブルを経験していないにもかかわらず、トラブルが起きることを不安に思い、利用すること自体を躊躇する傾向がある(木村忠正『デジタルネイティブの時代』2012、平凡社)。そのため、保護者は子どものPC利用を予めコントロールしようとする。
表2-1を再びみると、スマホは、機器保有率とネット利用率とに大きな乖離はないのに対して、PCの場合大きな乖離がみられる。家族共用も含めれば、PC保有率は中学で8割、高校で9割近いが、専用保有は11%、16%に過ぎず、ネットアクセス手段としても45%前後と半数に満たない。中学はネット非利用者が13%いるので、それらを除いた、中学のネット利用者に占めるPCによるネットアクセスは54.6%と半数を越えるが、それでも半数近くはネット利用にPCを用いない。
これは、「自室PC」を中学、高校では認めず、リビングでの共用PC利用で、子どものPC利用、PCネット利用をコントロールしようとする保護者の傾向を反映している。表2-4は自室にTV、PCがある生徒の割合をまとめたものだが、中学、高校いずれも、85~90%の生徒は自室PCを持っていない。筆者が2013年に日米で青少年を対象に行ったウェブ調査2)では、13歳から17歳の回答者において、自室にPCがないのは、アメリカ26.3%に対して、日本46.8%であった。この調査では、自室PC利用者については、開始時期もたずねており、アメリカでは、小学以前0%、小学校7.9%、中学36.8%、高校26.3%、日本では小学以前3.6%、小学校13.5%、中学18.4%、高校15.6%である。筆者は質的調査で延べ200人以上の青少年にネットワーク利用に関する細密インタビューを行ってきているが、日本では高校生まではリビングの共用PC利用にとどめ、大学から自分専用PC、自室でのPC利用を認める傾向が強く、それ以外は、社会的規範(いつからPCを自律的に使わせるべきか、使わせた方がいいのかに関する社会的モデル)はほとんどないため、親の考えによるところが大きい。それに対して、アメリカでは、小学校はまだ早いが、中学ないし高校で自分用PCを与えるのが一定の社会的規範となっている。
表 2-4 自室TV、自室PCの有無(中学生、高校生、中学生のPMP利用形態別)
■ 中学生ゆえのポリメディア環境の形成
このように、日本社会における中学生にとってのポリメディア環境と具体的な利用は、中学生たち自身の好みや意思よりもむしろ、保護者のコントロールする意図が強く働き、その意図が、子どもの意思、情報技術・ネットワークがもたらす便益とせめぎ合う中で具体的なポリメディア利用状況がつくりだされる。その結果、ポリメディア環境にありながら、中学生たちのネットアクセス手段は、「タブレット+PC」のような組み合わせではなく、「スマホのみ」「PCのみ」「PMPのみ」といった「モノメディア(単一メディア)」も大きな割合を占める状態となっている。
ネットアクセス手段6種類(PC、ケータイ、スマホ、タブレット、PMP、ゲーム機)の組み合わせをみると、「スマホのみ」が1位だがわずか13.1%、2位が「PCのみ」で9.1%に過ぎない。それ以下は、6種類の組み合わせに細分化されている。これまで議論してきたとおり、保護者はリスクを回避しようとし、専用PCではなく共用PCにとどめ、他方、モバイルに関しても、スマホを始めから利用させるのではなく、PMP、タブレット、ゲーム機など、自宅でのWifi接続に限定しようとする。こうしたPCとモバイルをめぐる状況から、「スマホのみ」、「PCのみ」などのモノメディアや、「PC+PMP」「PC+ゲーム機」といったPCとモバイルが併存するポリメディア環境が多様化するのである。
では、こうした保護者のコントロールする意図によりつくりだされているポリメディア環境は、中学生たちのネットワーク利用や学習、社会関係などにどのような影響を与えているのだろうか?これまでの議論から明らかなように、中学生たちの情報メディア環境では、スマホを制約したい保護者の意図に伴う、PMPによるネット利用に特徴が見られるとともに、PCに関しては、アメリカのように中学から専用PCを自室で利用させるのではなく、そのパワーを活かせるように願いながら、同時にリスクを懸念し利用をコントロール下に留めようとする保護者たちも多い。そこで、以下では、中学生を対象に、1)PMPでのネット利用と、2)PCでのネット利用(とくに「PCのみ」の場合(9.1%に上る)を他の場合と比較する)について、具体的なネット利用の仕方、学習、社会関係への影響を具体的に検討したい。その検討を通して、ネットへのアクセス手段が利用行動をいかに形作るかについて考えることにしよう。