2015/07/01
[第1回] 「ポリメディア環境」での中学生におけるネットアクセス機器が持つ意味 [4/5]
4.「PC利用のみ」の中学生
■ 「PCのみ」利用者の特徴
これまで議論してきたように、保護者にとって、PCによるネット利用、モバイル機器によるネット利用の、どちらも、子どもたちにとって必要な側面と、潜在的リスクの大きさがあり、いかにその利用をコントロールするかが課題となっている。こうした観点から、前節では、中学生におけるモバイルネット利用をコントロールする上で重要な役割を果たすPMPについてみた。そして、「PMP+PC」のようにPCとの併用がネット利用の仕方や勉強、成績と関連していることもみた。
では、PCでのネット利用はどのような効果をもつのだろうか?ここでは、モバイルによるネット利用のリスクを遮断すると考えられる「PCのみ」のネット利用者(中学生の9.1%)を他の利用・非利用と比較することで、この論点を考えてみたい。具体的には、「PCのみ」以外のネット利用者を大きく「モバイルのみ」(ケータイ、スマホ、タブレット、PMP、ゲーム機のいずれかを利用)と「モバイル+PCによる利用」に分け、「①PCのみ」、「②モバイル+PC」、「③モバイルのみ」、「④ネット非利用者」の4者で分析比較した。
その結果が表4-1にまとめられている。まず、「①PCのみ」についてみると、顕著な特徴の一つは、学習面で、ながら勉強が限られ、勉強時間が長く、成績が良い(項目21、22、23)。保護者の観点からみれば、良い子の典型といってよいだろう。
そして、ネット利用、メディア利用の面では、相対的にきわめて抑制的傾向が際立っている(項目1~20)。テレビ視聴時間(項目18)、ネット動画利用率(項目10)、ゲーム利用率(項目19)など相対的に低く、ネット利用時間(項目1)の平均がわずか68.7分とモバイルネット利用者の半分に留まる。その中でもとくに留意したいのは、SNSなどのオンラインコミュニケーション利用率、時間である(項目2~9)。例えば、86.0%が、LINE、twitter、facebookのいずれも利用しておらず(項目8)、オンラインコミュニケーション利用時間は平均わずか15.7分(項目2)に過ぎない。LINEは中学生のネット利用者全体でみると、利用率が58.9%に達している。LINEのPC版は、スマホでの登録を前提とするため、PCのみのネット利用者にはハードルがあるが、twitter、facebookよりも低い利用率(5.5%)というのは、保護者の意図と子どもの順応があると考えられる。
表 4-1 中学生のPCによる利用類型別のネット利用、メディア利用、学習、社会的関係関連データ
例えば、自室PC(項目15)は、PCとモバイルの併用者(「②モバイル+PC」)が2割近いのに対して、「①PCのみ」は1割に満たない。また、本調査では、「使用する時間を決めておく」などネット利用時の規範意識をたずねているが、使用時間、場所は、モバイル利用者(「②モバイル+PC」「③モバイルのみ」」が2割前後に対して、「①PCのみ」利用者は4割以上、「SNSサイトを利用しない」という項目についても「①PCのみ」利用者は半数近くがそうした規範意識を持つと回答している(項目12~14)。つまり、保護者が子どもの情報メディア環境をコントロールする強い意図を持っており、子どももその環境に適応している様子が窺えるのである。
■ PCのみでのネット利用中学生に潜むリスク
ここまで見てきたように、PCのみのネット利用者は、学習面では積極的、ネット・メディア利用面では抑制的であり、保護者からみると安心できる子どものように思われる。他方、ただちに懸念すべきということはないが、別なリスクが潜んでいるように思われる面もある。
一つには、ネット利用が抑制的であることから、情報リテラシーが十分に涵養されないリスクである。調査では、情報リテラシーについて、表4-1の項目24~27の4項目をきいている。データが示しているように、「①PCのみ」利用者は、「③モバイルのみ」利用者よりやや高いが、併用者(「②モバイル+PC」)に比べると相当低い(項目24、27は数値が高ければリテラシーも高く、項目25、26は数値が低ければリテラシーが高いと解釈する)。これは、抑制的利用と関連していると考えられるだろう。もちろん、高校以降で十分接する機会はあるので、ただちに懸念されることではないが、これからの社会では、グローバル化の進展もあり、ネットワークを積極的に活用し、情報を取捨選択、加工発信する力が求められる。その意味では、抑制的利用が内面化され、強い規範として働くまでに強化されるのは、望ましいことではないだろう。
もう一点は、社会的関係について、「話す・遊ぶ友だち」「悩みを相談する友だち」が、「PCのみ」利用者は、相対的にやや少ないということである。本調査では、「話をしたり一緒に遊んだりする友だち」、「悩みごとを相談できる友だち」の有無と、いる場合の人数を聞いている。人数は自由回答のため、度数分布から、表4-2にあるような段階に分け、それぞれの割合をまとめた。表をみると、モバイルを利用している者に比べPCのみ利用者は「いない」という回答が多く、人数も相対的に少ない。これももちろん、人数が多ければよいというわけではなく、ただちに懸念されるものではないが、ネット活動が抑制的でトラブルに巻き込まれる可能性は少なく、勉強をしっかりし、成績は良いが、友だち関係が豊かではなく、困難に直面した時に保護者にも、友だちにも言えず、孤立する傾向を持つ子どもがいることも念頭に置いた方がいいのではないか。
表 4-2 中学生のPCによるネット利用類型別の友人数
この社会的関係については、話す・遊ぶ友だちがいないと回答する「ネット非利用者」が7%にのぼる点も留意すべきだろう。本調査はネット利用を主題とするため、非利用者について十分なデータはなく、これ以上、本章で検討できないが、非利用者を利用者と比較すると、学習面や社会心理的態度で大きく異なることはないにもかかわらず、情報機器保有とこの社会的関係の低さが顕著であった。家庭の社会経済的環境が影響を与えている可能性は否定できず、「デジタルデバイド」という観点から留意しておく必要があるだろう。