ICT教育のメリットとデメリット 導入する際の課題や取り組み事例も紹介

ICT教育とは、情報通信技術を活用した教育のことです。その主な目的はICTを活用した授業、情報を活用する能力の育成、学校業務のデジタル化などが挙げられます。ここでは、ICT教育のメリットやデメリット、導入するための課題などについて紹介します。

この記事のポイント

ICT教育の概要

ICTとは、情報通信技術(Information and Communication Technology)の略語です。
ICT教育は、これら情報通信技術を取り入れ活用した教育のことを指します。たとえば、電子黒板を使って授業を行ったり、児童生徒がひとりひとりタブレットを使って勉強することもICT教育の一環と言えます。

ICT教育の主な目的

ICT教育が目指すものは、情報教育による情報活用能力の育成、教科指導における情報通信技術の活用、校務の情報化の3つです。具体的には、情報化が進む社会に対応できるような情報活用能力を子どもたちが身につけること、わかりやすい授業の実現のために学校の授業に情報機器を活用すること、教員の負担を減らすために情報を共有しやすい環境にすることです。

ICT教育の導入が進む理由

情報化が進んだ新しい時代では、「何を知っていて、何ができるか」だけでなく、「持っている知識をどのように使うか」「どのように社会や世界と関わるか」などの能力も求められます。 そのためには、学習の中で自分で問題を発見し深く学べるか、他者との協働など対話的な学びができるか、といったアクティブラーニングの視点が必要です。 ICT教育では、多くの情報を集めて整理・分析や、時間や場所を問わずデータや音声・映像を送受信ができます。そして距離と関係なく多くの人とやり取りすることが可能です。ICTを活用することは、深く対話的で主体的な学びの実現につながります。また、個性や能力に応じた学びや、過疎地や離島などでも環境に左右されない学びにも貢献し、情報活用能力の育成にもつながるでしょう。 そのため、学校のICT環境整備や教員のICT活用指導力の向上などが教育現場での大きな課題になっているのです。

政府や文部科学省によるICT教育の推進について

平成28年に文部科学省から出された「教育の情報化加速化プラン 」では、具体的な施策が提示されています。まずは、教員がICTを活用し授業を行えるよう、児童生徒ひとりに一台教育用パソコンを持つことを目指して段階的に整備を行うという、次世代の学校や地域におけるICT活用のビジョンが提示されています。 次に、授業・学習面でのICT活用の施策として、デジタル教材の開発、ICT機器使用のためのガイドライン策定、ICT機器調達のための環境整備、情報モラルに関する教材や研修の充実、人材に対する支援などが挙げられています。 また、教員の業務の効率化や質の向上のため、校務におけるICT活用やICTを使った地域との連携なども挙げられています。

ICT教育を導入する効果とメリット6つ

教育の情報化を進めるために、教育用パソコンの導入や授業でのICT活用などの施策がとられています。 学校でICTを活用することにはさまざまなメリットがあります。次に、ICT教育を導入することによる効果やメリットについて6つ紹介します。

【1】授業がわかりやすくなり学習の効率が上がること

たとえば電子黒板を使うと、写真を大きく拡大したり、その画面に書きこむことが可能になります。また、授業において映像や音声なども使えます。これらを活用することで、よりわかりやすく、子どもたちの興味や関心を引く授業にすることができ、その結果子どもたちの理解につながるという効果があると言えます。

【2】個別学習がしやすくなり個性に合わせた学習ができること

ICT教育の導入には、ひとりひとりの理解や関心に合った学習を進められるというメリットがあります。たとえば、タブレットを使ったドリルでは、問題を解いた後に採点するだけでなく、自分がつまずいた問題がもう一度出題され復習することができます。また、学習記録や成績を使って教員がその後の指導に活かすことができます。 さらに、インターネットを活用することで自分が疑問に思うことをもっと深く調べたり、タブレットやパソコンを使って自分なりの資料や作品を調べたりすることも可能です。

【3】対話や協働による学習ができ深い学びにつながること

ICTを活用することは、授業において一斉に学ぶだけでなく、子どもたちがお互いに教え合い学び合う協働学習にもつながるでしょう。たとえば、タブレットや電子黒板などを使って、授業で学んだことや自分たちが調べたことについて資料を作成し、発表、グループごとの意見交換、遠方の学校との交流などを行うことができます。

【4】場所を問わず授業に参加でき効率よく学習できること

ICT教育のメリットには、場所を問わず学習できる点もあります。 たとえば情報端末を家に持ち帰ることによって、家庭で効率的に学習ができるでしょう。そのため、不登校や外国籍の児童生徒など、特別な配慮が必要な子どもへの学習支援が可能になります。また、校内だけでなく遠く離れた地や海外との交流も可能になるので、専門家による授業を受けたり、小規模の学校が他校と合同授業を行ったりすることが可能となります。他にも、特別支援学校において、入院中の子どもがテレビ会議システムを使って病院にいながら授業を受けられたという事例もあります。

【5】校務の効率を高め教員の負担を軽減できること

学校では手書きの書類が多く、手作業での業務が教員の負担になっていたと言えます。たとえば生徒の出欠や成績、保健の情報などが別々に管理されていると、成績表を作る際にそれぞれから転記する必要があり、手間がかかる上に転記ミスなどもありました。 しかし、これらの情報をデジタル化しまとめて管理することで、転記の手間がなくなります。また、データを一本化することによって無駄が減り、教員同士で情報を共有できるようにもなるのです。
ICTの活用には、校務を効率化して、教員の負担を減らすという効果も挙げられます。

【6】情報リテラシーを高め情報化社会に必要な情報活用能力を身につけられること

AIなどの情報技術が発展していく社会では、それらの情報を活用する能力は重要と言えます。ICT教育では、社会生活の中で情報が果たしている役割や、情報が社会に及ぼす影響なども学びます。それにより、情報モラルの必要性や、情報に対する責任なども学べるでしょう。

ICT教育導入のデメリット6つ

ICT教育の導入には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。次に、ICT教育のデメリットとして考えられるものを6点紹介します。デメリットを知り、解決すべき課題について考えましょう。

【1】自分で書く力や考える力が低下する可能性があること

ICTを活用することで、わからないことはインターネットですぐに調べられます。デジタル教科書を使うことで手書きをする機会が減ります。それらにより、わからないことについて自分で考える力や、書く力が低下する可能性があることは、デメリットのひとつでしょう。この問題を解決するためには、ICT教育でさまざまな情報を自分で判断し選び取る力を伸ばしたり、手書きの機会を増やすためにタブレット教材とテキスト教材を組み合わせるなどの工夫が必要と言えます。

【2】インターネットにおけるトラブルに巻き込まれる可能性があること

ICT教育ではインターネットを利用することがあります。しかし、インターネットには質の高い情報だけがあるとは限りません。子どもが見るには不適切な情報もあります。これら有害な情報に子どもが触れ、トラブルに巻き込まれる可能性がある点もICT教育のデメリットのひとつです。不適切な情報に子どもが触れないようにフィルタリングなどの対策を取るだけでなく、子ども自身が有害な情報に触れないための方法を知り、さまざまな情報を見極める力を伸ばすことが大切と言えます。

【3】導入や運用にコストがかかること

ICT教育を進めるには、授業で使用するパソコンや周辺機器、学習用のソフトウェア、校務で使用するパソコンや周辺機器など多くのハードウェアを整備する必要があります。また、インターネットや校内LANなど、ネットワーク環境の整備も必要です。 これら環境の整備のために多くの予算が必要になる点がデメリットだと言えます。

【4】保守管理や故障した場合の教員への負担が大きいこと

学校でICT教育を行う中で、個人情報保護やコンピュータウィルスへの対応など、セキュリティに対しての注意がとても重要であり、保守管理のためのルール作りが必要です。
また、情報機器を導入した後は、急な不具合やトラブルを防ぐためにも日々のメンテナンスが必要であり、学校にとって負担になります。これらに対応するために、教員だけでなく外部の専門家や支援員などの協力が必要となるでしょう。

【5】指導教員のスキルや通信環境の格差が大きいこと

たとえば、コンピュータ一台あたりの児童生徒数は、平成26年度の調査で全国平均6.4人/台なのに対し、1位の佐賀県は2.6人/台、47位の愛知県は8.4人/台でした。 また、ICT活用指導力に関する研修を受けた教員の割合は、平成26年度の調査で平均値が34.7%なのに対し、佐賀県は96.4%、岩手県は12.0%でした。このように、ICT環境整備の状況や教員の指導力には地域によって大きく差があります。これも大きなデメリットだと言えるでしょう。※GIGAスクール構想によって整備率が大幅に向上しているので現在はここまでの差はないと思います。

【6】姿勢など健康について注意する必要があること

タブレットやパソコンを長い時間見ることは、目が疲れる原因になるでしょう。目の疲れを減らすために、画面の角度や姿勢に気をつけることが大切と言えます。 姿勢の改善のためには、机や椅子の高さ、机の広さなども重要となるでしょう。子どもの成長に合わせて机や椅子を調整したり、机を広く使えるよう不要な教材は机の中に収めるよう指導するなど、健康にも配慮する必要があります。

ICT教育を導入する際に課題となることとは?

文部科学省では次世代社会に対応できる人材を育成するためICT教育の導入を行っていますが、導入にはいくつか課題があります。次に、ICT教育を導入する際の課題について紹介します。

予算の確保

文部科学省では、教育用パソコンや電子黒板の導入、超高速インターネット接続や無線LANの整備、校務用コンピュータを教員ひとり一台配置、教育用のソフトやICT支援員の配置などを目標として挙げています。 しかし、これらICT教育のための環境整備には多くの予算が必要であり、厳しい地方財政の中での予算確保が課題となっています。

教員のICT活用力の強化

ICT教育を行うには、対応する教員のICT活用指導力が必要です。しかし、実際にICTを活用して指導することに自信がない教員もいるでしょう。ICT教育の効果を挙げるためには、教員のICT活用力の強化が必要です。文部科学省では、教員のICT活用指導力を高めるために、研修リーダーの養成、初任の教員を対象にした情報化についての研修、研修用のツールの開発などの対策を取っています。

ICT教育導入を成功させるためのコツ4つ

国や文部科学省では、学校のICT環境整備のためにさまざまな目標を立てています。しかしそれを達成するには多くの課題があり、それらの解決が効果的な導入には必要です。次に、ICT教育の導入を成功させるためのコツについて4つ紹介します。

【1】ICT教育導入目的を明確に持つ

ICT教育を導入するには、環境整備のための予算の確保が必要です。地方の財政が厳しい中で、教育の情報化を一定レベル維持するための予算を確保するには、国が示した目標を持ってその必要性を訴える必要があります。また、教育の情報化に投資することに対する効果を示すことも重要と言えるでしょう。

【2】先進事例を検証し効果的な導入を目指す

ICT教育のための環境整備や教員の指導力などは自治体によって差があります。効果的な導入を目指すには、他の国や自治体などの事例を検証することが大切です。課題の解決方法や効果的な施策などを知ることは、ICT教育導入への安心感にもつながるでしょう。

【3】専門家からの支援や制度の活用をする

ICT教育のための環境整備や教員の指導力などは自治体によって差があります。それらに対応するため、国はICT支援員など専門家による支援も進めています。ICT支援員は、教員のICT活用をサポートするために派遣されます。ICT教育導入計画についてのアドバイス、ICTを活用した授業についての相談や支援、機器やネットワークに関するトラブル対応などの技術支援、といった活動が主な業務です。 ただし、このICT支援員の行う業務の内容やスキルははっきりとは決まっておらず、ICT支援員を導入している自治体もまだ十分とは言えない状況であるため、ICT支援員の育成や確保のためのさらなる施策が必要でしょう。

【4】外部人材の活用をする

文部科学省では、学校のICT環境整備について専門的な助言や研修の支援を行う「ICT活用教育アドバイザー」の活用を進めています。 ICT導入計画の作り方や授業の進め方、セキュリティ問題といったさまざまな課題に対して、アドバイザーとして登録された専門家から無料でアドバイスを受けることができる制度です。このような外部の人材を活用することも、ICT教育の効果的な導入につながるでしょう。

ICT教育の取り組み事例

ICT教育の導入には多くの課題があり、導入計画を立てることも難しい自治体や導入したICT機器をどのように活用すればよいかわからない学校もあります。 そのような際に参考になるのが、実際にICT教育に取り組んでいる現場の事例です。
次に、国内と海外の取り組み事例について紹介します。

日本における取り組み事例

国内での取り組み事例として、広島市の藤の木小学校の事例を紹介します。この学校は、文部科学省「学びのイノベーション事業」の実証校です。電子黒板やひとり一台のタブレット、無線LAN環境の整備などを行い、ICTを活用した研修や授業を行っています。 タブレットで絵画や写真、動画など多くの資料を見ることが可能になり、デジタルワークシートなどひとりひとりが考え振り返る教材を使用しています。 その結果、授業が充実しただけでなく、個別の学習の充実にも役立てることができました。タブレットが学習道具として当たり前となり、児童が意欲的に学習に取り組むような効果が挙がりました。

海外における取り組み事例

海外にもICT教育に取り組んでいる国はあります。たとえば韓国の場合、2015年からすべての学校で、デジタル教科書が法的根拠のある教科書のひとつとして解禁されました。ネットワーク回線などの整備のための公的支援も進んでおり、デジタル教科書を活用するため教員の研修も行っています。 また、オーストラリアではデジタル教科書を教材として位置づけています。国のICT教育推進プログラムによって、14~17歳のすべての生徒に教育用のパソコンを整備し、国内のすべての家庭・事業所からのネットワーク環境整備を進めています。

ICT教育のメリットや取り組み事例について知り効果的に導入しよう

情報化社会に対応するため、教育の情報化や情報活用能力の育成は重要な課題です。そのため、文部科学省ではICT教育を導入し、ICTを使った授業を行うだけでなく、子どもたちへの情報教育や校務の情報化を目指しています。CT教育の導入には予算や教員のスキルなど課題もありますが、ICT教育を取り入れることによって、授業がわかりやすくなるだけでなく、自主的に深く学んだり、それぞれの子どもの個性に合った教育を行ったりすることもできるでしょう。国内や海外の取り組み事例を参考にし、さまざまな制度を活用してICT教育を効果的に導入しましょう。

[参照元]

参照:『教育の情報化に関する手引 』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/content/20200609-mxt_jogai01-000003284_002.pdf

参照:『教育の情報化について—現状と課題—』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/04/08/1069516_03_1.pdf

参照:『情報教育の実践と学校の情報化 第6章 学校と情報化』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/020706h.pdf

参照:『「教育の情報化に関する手引」作成検討会(第3回) 配付資料 第10章 学校におけるICT環境整備』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/056/shiryo/attach/1244971.htm6h.pdf

参照:『教育の情報化加速化プラン~ICTを活用した「次世代の学校・地域」の創生~』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/07/__icsFiles/afieldfile/2016/07/29/1375100_02_1.pdf

参照:『平成30年度 文部科学白書 第11章 ICTの活用の推進』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201901/detail/1422160.htm

参照:『児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/08/14/1408183_5.pdf

参照:『地方自治体の教育の情報化推進事例』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/__icsFiles/afieldfile/2016/04/26/1370125_1.pdf

参照:『ICT活用教育アドバイザーについて』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1369635.html

参照:『諸外国におけるデジタル教科書・教材の使用状況について』(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_kyokasyo01-000012375_01.pdf

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