頭の働きがグングンよくなる運動とは?

運動をすると頭の働きがよくなる、ということがいわれるようになり、科学的にも裏付けがされています。運動することで、健康で元気になり、頭の働きもよくなるとしたら、まさに一石二鳥。スポーツの秋、子どもが楽しく身体を動かし、運動能力と脳の発達を同時に促していける動きをご紹介します。

MTX ACADEMY チーフトレーナー
(公社)子どもの発達科学研究所 特任研究員
木村匡宏さん

運動はなぜ脳にいいのか?

運動は健康で丈夫な身体をつくりますが、それだけではありません。子どもたちが夢中で身体を動かしている時、脳ではシナプス同士がパチパチと光を放ちながら「興奮」状態に入ります。楽しい!と「正しく興奮」できると、同時に考える力や行動をコントロールする脳の「抑制機能」も発達し、集中力を高めるのです。鬼ごっこやしっぽ取りのような遊びも、目的を持って活動することで脳の「実行機能」を育てます。

また、人間の脳はバランスよく全体的に発達するのではなく、順を追って発達していきます。脳は、「脳幹(生命維持の脳)」「大脳辺縁系(動物の脳=感情・本能の脳)」「大脳皮質(ヒトの脳=認知・知性の脳)」という3層構造になっていて、脳の発達には順序が大切といわれています。

①脳幹 ②大脳辺縁系(動物の脳) ③大脳皮質(ヒトの脳)
脳は、①→②→③の順に発達が始まる。

「運動野」は大脳皮質にあり、幼児期にまず発達するところなので、運動することによって脳の発達が進むといえるでしょう。

出典:『5歳からの最新! キッズ・トレーニング』(KADOKAWA)

COLUMN 運動能力UPの5ステップ

運動能力を高めるために、次の5ステップに分けて考えています。

STEP1

身体を動かす力をつける

9つのパーツ体操で、身体のつくりを認識し、上手に身体を操る感覚を育てる

STEP2

身体の使い方を知る

6つの運動感覚を通して、全身を協調して動かす感覚を高める

STEP3

運動パターンを経験する

12の運動機会を知り、いろいろな運動体験を重ねて身体の使い方を覚える

STEP4

運動学習スキルを高める

スポーツで自分のフォームを知る

STEP5

目的を持って運動に取り組む

スポーツや芸術活動に取り組む

以下では、このうち基本となるステップ1~3のカテゴリーから、「ワーク(動き)」をいくつかご紹介します。

身体を動かす力をつける

身体を上手に動かすために、まずは関節やパーツの特徴を知ることが大事です。トレーニングのウォーミングアップでは、手、ひじ、肩、胸、お腹、背中、ひざ、足首、足指の9つのパーツそれぞれで体操を行っています。自分の身体のつくりを認識し、場所ごとに動かせるようになることが目標です。

ここでは、「手」と「足」から一つずつワークを取り上げます。全身には200ほどの骨がありますが、片手には27個の骨があり、足(くるぶしから下)もほぼ同様なので、両手両足を動かすことで、身体の骨格のおよそ半分を動かすことになります。

ワーク01

【手】グーパーワーク

手を「グー」で握って、「パー」で開く、を繰り返す。親指と薬指をできるだけ広げるように意識する。

ポイント

指や手をしっかりと丁寧に動かすことで、脳の血流が上がります。同時に腕の曲げ伸ばしもすると、背骨がしっかり立つので、机に向かっている時に姿勢が悪い子どもにも効果あり。

ワーク02

【足】足指にぎにぎ

座った状態で、足の指を1本ずつ握る。足の指の根元から動かすことを意識し、気持ちよくほぐれるまで行う。

ポイント

足裏には「固有受容器」というセンサーが数多くあり、足裏から受け取った情報を脳にフィードバックして、身体全体のバランスを取っています。

身体の使い方を知る

次に、全身を協調して動かすために、6つの運動感覚を知りましょう。トレーニングでは、ゆする、振る、通す、回す、ノる、続ける、を意識していますが、最初の4つで走る動作やボールを投げる動作になります。そしてリズムに「ノる」、同じ動作を「続ける」ことで、記憶の保持力や心肺持久力を高めることにつながります。

ここでは、基本の「ゆする」と「振る」から、運動会の徒競走にも役立つワークを紹介します。

ワーク03

【ゆする】全身をゆする

手・手首をゆする

ひじ・肩をゆする

足・足首をゆする

全身をゆするようにジャンプ

ポイント

子どもに「力を抜いて」と言ってもできませんが、身体をゆすることで、力を抜く感覚を覚えることができます。力を抜くことができて初めて、力を入れることが可能になるのです。また、緊張をほぐし、集中力を高める効果があります。

ワーク04

【握る】バイバイワーク

腕を伸ばして手をバイバイのように振る→ひじを曲げてバイバイ→走る時の腕振りを行う。

ポイント

「振る」は、遠心力を使う動きです。遠心力を使う感覚を覚えることで、腕をしっかりと振ることができ、走る、ボールを投げる、といった動きが格段によくなります。

運動パターンを経験する

コロナ禍もあり、運動機会の減少がいわれています。人間は、いろいろな動きを身体で記憶していないとできないので、ケガを防ぐためにも、小さいころからさまざまな運動パターンを経験させておきたいところです。

12の運動機会として、転ぶ、倒れる、支える、逃げる・追いかける、駆け上がる・下りる、押す・引く、よける、切り返す、触る、投げる、捕る、打つ、と整理していますが、パターンを意識することで、「駆け上がる動きを最近していないな」と思ったら階段や坂を駆け上がってみるなど、日常の中で意図的に機会をつくっていくとよいでしょう。

ここでは「転ぶ」と「支える」のワークをご紹介します。

ワーク05

【転ぶ】だるまさんワーク

足裏を合わせて両手でつかみ、そのまま後ろに転がる。背骨を丸めて転がった勢いでまたもとに戻す。真後ろに転がることができるようになったら、ななめ後ろ左右にも。

ポイント

背中の感覚は、実際に使わないと育たないので、転がることで広い背中の面を感じ取ることができます。上手に「転ぶ」ことは、ケガ予防にもつながります。

ワーク06

【よける】人混みスルスル

街中で、人をよけながら歩く。よける対象と的確な距離を取り、タイミングをつかんで動くことを意識する。

ポイント

「何かを見ながら身体を操作する」ことも、意識的に訓練する必要があります。何かが向かってきたり、落ちてきたりした時に、見ることだけにとらわれて足が止まってしまうことがないよう、「見る」と「動く」を連動させましょう。

まとめ

頭の発達とともに、運動で身につく体力や心のタフさは、勉強にも必ず生きるでしょう。また、モヤモヤしている時に身体を動かしてスッキリするという経験を積んでおくことは、大人になってからも、不安やストレスに対処する方法として役に立ちますよ!

PROFILE木村匡宏

MTX ACADEMYチーフディレクター。公益社団法人 子どもの発達科学研究所 特任研究員。子どもからメジャーリーガーまでの競技サポートをするトレーナー。スポーツ、教育、運動、ココロとカラダの健康を通じて、みんながイキイキと自分らしさを大切に、新しいチャレンジをすることを応援することがライフワーク。著書に『5歳からの最新! キッズ・トレーニング』(KADOKAWA)、『子どもの走り方トレーニング』(東洋館出版社)、『24時間疲れない最強の身体づくり』(ワニブックス)など。

取材・文/ 荻原幸恵