「叱ってしまう」から
「気付いたら叱らなくなって
いた」を目指そう
我が子をつい叱ってしまう。そして叱っても響いていない気がする……。そんなふうに思ったことはありませんか? 実は、叱ることは子どもの成長や行動の改善にほぼ効果がないことがわかっています。この記事では、「叱る」について、親としてのお悩みにも回答していきます。
保護者のかたからよく寄せられる「叱ってしまう」にまつわる疑問・悩みについて解説します。
- 叱りたくはないけれど……親として、子どもを叱らなければいけない時ってありませんか?
- 何度叱っても子どもが変わり(直り)ません。叱り方が悪いのでしょうか?
- 叱らない親になれる方法はありますか?
- 叱りたくないと思っているのに叱ってしまいます。親として何か問題があるからなのでしょうか?
- 子を叱るのをやめたいけれど、我が子を大事に思うから叱るという面もあるのではないでしょうか……。
叱りたくはないけれど……親として、子どもを叱らなければいけない時ってありませんか?
それは「現在進行形で危機的状況な時」だけです
たとえば、子どもが高い木の絶対に折れる枝まで到達してしまい、今すぐ戻らないと落ちてしまう、まさにその時などが、この状況にあたります。
保護者がここで気を付けなければいけないのは、親の言うことを聞いた・聞かないにかかわらず、木から無事に下りて戻ってきてから叱ってしまうことです。無事に戻ってきた時点で「現在進行形の危機」ではないため、叱っても、子どもの行動や考え方が変わる効果はなく、むしろ親の叱りたい感情を満たしているだけ、となります。
何度叱っても子どもが変わり(直り)ません。叱り方が悪いのでしょうか?
実は「叱る」に、叱られる側の行動や考えの改善効果はありません
厳しい言い方かもしれませんが、「叱る必要がある」と思っている時点で、認識が誤っているととらえましょう。実は、叱っている時の内容は、親が日頃から説明しているつもりでも、実際には「叱る時しか子どもに伝えていない」という場合が多いのです。
叱られている時の子どもは、ストレスを感じて深く考えることをやめている状態になっているため、叱りながら伝えている内容を理解できない・しにくい状況にあります。この状態を「防御モード」と呼んでいます。
子どもはこのような状態のため、親は「しょっちゅう同じことを伝えているのに子どもが言うことを聞かない」と認識していても、子どもにとっては、最も伝わりにくいタイミング(叱っている時)に伝えられていて、結果として子どもに伝わっていない、という状況が起こってしまうのです。
叱らない親になれる方法はありますか?
「叱る」を「手放せる」ようになりましょう
「叱る」は我慢するものではなく「手放す」ものなのです。やめようとしてやめるものではなく「気付いたら叱らなくなっていた」という状態を目指していきましょう。おすすめは「前さばき」という方法です。
「前さばき」とは、たとえば静かにするべき場面なのに子どもが騒いでしまうといった場合、その望ましくない・問題とされる行動が起きるより前に、なぜそのような行動をする(しない)のかという視点に立って考え、準備し、叱らなくていい状態に持っていくことです。
たとえば、騒いでほしくない時は、日頃から子どもが騒がず集中して取り組めるもの(折り紙、絵本、場合によっては好きなゲームやタブレットで見る番組など)を用意しておく、などの準備を指します。
「前さばき」がうまくなるためには予測力を鍛えることが必要です。お子さまには日頃から「何をしてはいけないのか」「どういうことを避けてほしいのか」など、叱られないためのポイントを事前に具体的に伝えていくようにしましょう。
予測ができないと予告はできませんから、子どもに予告を続けることを心がけてください。すると自然と予測力が付き、「叱る」は確実に減っていくでしょう。叱られる側も、してはダメだと聞かされていないのに、突然叱られることがなくなりますし、予告されることで、どう行動すればいいのかが予測できるようになります。
叱りたくないと思っているのに叱ってしまいます。親として何か問題があるからなのでしょうか?
親として問題があるわけではありません。「人間ってそういうもの(叱ってしまうもの)」なのです
脳・神経科学の研究では、人は悪いこと(と思われること)をした人に、罰を与えることに快感を覚える=脳の報酬系回路を活性化させるということが、本能的に起こり得るとされています。生理的に起こることが確認されていて、「処罰感情」が充足されているのではないかと考えられています。
人が、勧善懲悪・完全なる悪者が登場するドラマ(昔なら「遠山の金さん」「水戸黄門」「ウルトラマン」など)が人気なのも、この「処罰感情の充足」にあたります。
誤解のないように補足しておきますが、問題のある親だけが子を叱るときに快感を感じているわけではありません。多かれ少なかれみんなの脳の中で起きていることなのです。
多くの親はつい叱ってしまうものです。しかし「叱る」という行動には、「処罰感情の充足」という脳にとってのごほうびが起こる構造があり、意識しないうちに、叱る行動を増やしてしまう回路があるということを理解しておきましょう。
この「叱る」は、そもそも子どもの成長には必要ではありません。親として望んでいる自分の子の将来像は本当に正しいのか、子どものためと言いながら、「〇〇すべき」「〇〇でなければならない」に親自身がとらわれ、その枠に収めたいがために叱ってはいないか、いま一度考えてみましょう。
親が目指したいのは、「親が子をほめる・叱る」を超え、自ら「やりたい」「こうなりたい」と考えて行動する、子どもの姿です。これを「冒険モード」と呼んでいます。
「冒険モード」の時は、ほめられるなど他人からの精神的報酬を受けなくても、子どもは自ら学び、新しいことにチャレンジしていきます。そして、その対極にあるのが、扁桃体(へんとうたい)などのネガティブ感情ネットワークが活性化する「防御モード」です。「叱る」はこの「防御モード」を意図的に生み出すコミュニケーションなのです。
冒険モードと防御モードは、同時に成立しないため、子どもの冒険モードを邪魔しないように意識すると、自然に「叱る」を手放すことにつながっていきます。
子を叱るのをやめたいけれど、我が子を大事に思うから叱るという面もあるのではないでしょうか……。
お子さまを思う気持ちは大切。でも叱る以外の方法があるはず
叱る側は、叱ることで相手が反省したり、変わってくれたりすることを期待しますが、叱られている側は、叱られている最中に「自分のためを思って言ってくれているのだ」とは考えられません。前述したように、叱らなくていいように「前さばき」をするなどして「気付いたら叱らなくなっていた」という状態を目指していけるといいですね。
お子さまを叱っている時、ご自身に余裕がない時が多くはありませんか? また、「叱るのをやめよう」と心がけているのに、叱ってしまう自分を責めてしまう「叱る自分を叱る」状態になっていませんか? お子さまを思う気持ちはもちろん大切ですが、まずはご自分の心身をケアして、心のゆとりを持つように心がけましょう。
ここまで保護者の皆さまのお悩みにお答えしてきましたが、今回アドバイスした内容は、脳・神経科学や心理学などのエビデンスに基づいた方法論であって、現実に親である私が、「絶対に叱らない(怒らない)親」であるかというと、実はそうではありません。
現実にはまだまだ試行錯誤し、反省することもあります。「叱るのを手放そう」と心がけるだけでなく、正しい知識や方法を知り対応することで、「どうしていいかわからないけれどよくないことはわかっている」状態から、一歩でも抜け出すヒントとなれば幸いです。