「中1ギャップ」を克服する 家庭での関わり方

子どもの心身の成長と学校システムの不適合から起こるかもしれない「中1ギャップ」。時に体調を崩してしまったり、学校に行くのがつらくなったり、攻撃的になったりする場合もあります。「中1ギャップ」を乗り越えるために家庭でできるケアと保護者の心構えについて、法政大学文学部心理学科教授で、子どもの発達心理が専門の渡辺弥生先生にお伺いしました。

■家庭でできるケアはまず「注意」を向けてあげること

中学生になると、勉強も難しくなり友人関係も複雑になります。さらに現代では、SNSなど、保護者世代が子どものころには経験していないツールが友人同士のコミュニケーション手段となっており、とまどう部分も多いかと思います。しかし、ツールは変わっても友達・親・学校といった悩みは同じであることがほとんどです。まず、食欲がない、顔色がすぐれないなど、おやっと思ったら注意を向けてあげてください。子どもは、親が自分のことを気にしてくれているか、大切に考えてくれているかをいつも気にしています。自分から悩みを言わなかったり、尋ねられても「大丈夫」と返答したりしても、そこで、親がどのように気を使っているか探っています。

たとえば、友達とケンカをしたと言うと親は、「誰が?」「いつ?」「あなたがこう言ったんじゃないの?」など、解決に向けて取り調べのような対応になりがちです。このような言い方に子どもはとても敏感で、「私の話を聞いてもらえない」と捉えてしまいます。しかし、「ケンカするとつらいよね」「なんでそんなこと言われたのか、悩んじゃうよね」というように、注意を向けてやり気持ちに寄り添ってあげることによって、子どもは「この人は自分の話を聞いてくれる」と思うようになり、困った時に保護者に助けを求めやすくなります。これこそが共感してあげるということです。

■子どもの心の発達がわかると、子育てはもっと楽しくなる

中学生というのは、保護者に反発することが増えてくる時期です。そこで、保護者のかたが余裕を持ってお子さまと接するために、「今、子どもの心の状態はどれくらい成長しているのか」をぜひ知ってほしいと思います。

たとえば、「明日運動会でうれしいけれど、なんだか不安」といったように、「自分の心にポジティブな気持ちとネガティブな気持ちが入り交じった感情があるんだ!」と気付くのは何歳ごろからだと思われますか。一般的に、このような複雑な感情が芽生え始めるのは、小学校高学年からといわれています。おそらく、ご家庭によって答えはさまざまかと思いますし、「いつごろだったかな?」と首をかしげる保護者のかたもいらっしゃるでしょう。このように、普段から子どもと接していても、子どもの心や感情、考え方の発達に親は意外と気付いていないものなのです。

思春期には子ども自身もこのような感情があることに気付いてはいるものの、それを伝えることは難しいものです。そのため、自分の感情にとまどい、うまくコントロールできずに、怒りをあらわにしたり、態度がコロコロ変わったりすることがあります。そのような感情をぶつけられると保護者のかたも「親に口ごたえして!」などと、腹立たしく思うこともあるでしょう。大人であったとしても自分の感情をマネジメントできないこともたびたびだと思います。しかし、子どもの心身の発達を理解していれば「こういうものなんだな」と、余裕を持って接することができますし、「思春期になったからこういう考えや行動を取るんだ」とわかっていれば、それを成長の証しとしておおらかに考えられるのではないでしょうか。

保護者のかたには、「中1ギャップ」を問題ありきで捉えるのではなく、「自分にもこんな時があったな」と、ポジティブな共感を持ち、お子さまと一緒に泣き、笑い、解決することで、ともに成長していってほしいですね。

プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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