2022/10/19

第6回 幼児の生活アンケート ダイジェスト版[2022年]

このダイジェスト版について

ベネッセ教育総合研究所では、乳幼児の生活の様子・保護者の子育てに対する意識や実態を把握することを目的に、「幼児の生活アンケート」を行いました。この調査は、1995年より約5年ごとに実施しており、2022年は第6回となります。調査結果を経年比較することで、27年間の変化をたどることができる貴重な資料となっております。このダイジェスト版ではとくに注目したい調査結果を抜粋してご紹介しています。(全20ページ)
ダイジェスト版 幼児の生活アンケート

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調査概要

調査テーマ

乳幼児の生活の様子、保護者の子育てに関する意識と実態

調査方法

第1回~第5回 郵送法(自記式アンケートを郵送により配布・回収)
第6回 WEB 調査法

調査時期

第1回 調査

1995年2月

第2回 調査

2000年2月

第3回 調査

2005年3月

第4回 調査

2010年3月

第5回 調査

2015年2~3月

第6回 調査

2022年3月

調査対象

第1回 調査(95年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の1歳6か月~6歳就学前の幼児をもつ保護者1,692名(配布数3,020通、回収率56.0%)

第2回 調査(00年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)、および地方都市(富山市、大分市)の1歳6か月~6歳就学前の幼児をもつ保護者3,270名(配布数5,600通、回収率58.4%)
*経年での比較を行うために、地方都市の回答を分析から除外している。

第3回 調査(05年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の0歳6か月~6歳就学前の乳幼児をもつ保護者2,980名(配布数7,200通、回収率41.4%)

第4回 調査(10年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の0歳6か月~6歳就学前の乳幼児をもつ保護者3,522名(配布数7,801通、回収率45.1%)

第5回 調査(15年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の0歳6か月~6歳就学前の乳幼児をもつ保護者4,034名(配布数11,384通、回収率35.4%)

第6回 調査(22年)
首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の0 歳6 か月~ 6 歳就学前の乳幼児をもつ母親4,030 名(子どもの年齢と性別をもとに均等割付)
*ダイジェスト版では、1 歳6か月以上の幼児をもつ母親の回答のみを分析している。

調査項目

子どもの基本的な生活時間/習い事/メディアとのかかわり/遊び/母親の教育観・子育て観/
今、子育てで力を入れていること/母親の子育て意識/父親の家事・育児分担/子育て支援など
*調査項目は経年比較が可能なように配慮したが、時代の変化に合わせて、追加・削除などの変更を行っている

調査企画・分析メンバー

無藤 隆   (白梅学園大学 名誉教授)
佐藤 暁子  (東京家政大学大学院 客員教授)
荒牧 美佐子 (目白大学 准教授)
高岡 純子  (ベネッセ教育総合研究所 主席研究員)
岡部 悟志  (ベネッセ教育総合研究所 主任研究員)
持田 聖子  (ベネッセ教育総合研究所 主任研究員)
酒井 晶子  (ベネッセ教育総合研究所 研究員)
野﨑 友花  (ベネッセ教育総合研究所 研究員)
※肩書き・所属は、2022年9月時点のものです

調査からみえてきたこと。

無藤隆先生(白梅学園大学 名誉教授)

 今回の調査はこれまでの5回の調査から見える大きな時代的トレンドとともに、コロナ感染症の流行のただ中における生活状況を反映している。おそらく乳幼児を抱えた家庭として時に園を休む期間もあり、また外出もできないでいたかもしれない。親のリモート勤務で親が在宅でいる家庭も増えただろう。中には収入が減った家庭もあるのかもしれない。将来への不安も増したかもしれない。前回調査後には保育の無償化も実施された。そのことが保育施設への期待へ影響しているかもしれない。また3歳未満の待機児童がようやく解消に向かう時期でもある。とはいえ首都圏への調査であるから必ずしも少子化が急激になっていなかったかもしれない。
 全体として、核家族として家庭で過ごす時間が長くなり、また大事にされているのだろう。子どもと親がともに過ごすことが多い。それは祖父母や近隣での付き合いが減っていることの裏返しでもある。子育ての肯定的感情が若干減ってきて、否定的な感情が増えている。生活や子どもの成長への満足度も減っている。感染症による状況によるものであるのかもしれない。園への依存と要求が高まっている。知的早期教育とともに遊び・友達付き合い等のどの要望も増えている。子どもがICTを使う率が増え、また親もSNSに頼るようになってきている。親の意識は子育てを大事にしつつ、自分の生き方も求めるようになってきた。それもあって、園に頼ることも増えた可能性もあるだろう。幼児教育・保育施設での時間の意義が高まりつつあり、その分、責任も高くなってきたと言えるだろう。

佐藤暁子先生(東京家政大学大学院 客員教授)

「乳幼児期の親子にとって、安心感や信頼感に満ちた心の拠り所となる園生活の構築へ」
 1995年から2022年度の第6回幼児の生活アンケートまで継続して調査分析に携わってきた中で、社会状況や経済状況の変化により母親の子育て意識が大きく変化してきたことを痛感している。特に幼児が園で過ごす時間は就労支援、子育て支援の観点から保育園児、子ども園児が9.3時間幼稚園児が6.2時間と長くなり帰宅時間が遅くなると共に帰宅後に遊ぶのは母親が一番多いという状況になっている。また常勤やパートタイムの就業も増えてきて専業主婦は半数を切るようになった。また、世界的な感染症の流行で園の休園、家族の感染による出席停止、保護者のリモート勤務、パート勤務先の激減などが重なり子育てへの不安や否定的な感情も増えてきている。従来に比べ、運動会や生活発表会、遠足や保育参観等に参加し、幼児期の成長発達について園の考えを聞いたり、子育ての喜びや悩みを話し合う機会が少ないこと等から自分の子育てに不安を持つ姿も見られる。
 特に園への要望事項に「知的教育への要望」よりも「集団生活のルールを教えてほしい」「子どもに友達付き合いが上手になるよう働きかけてほしい」「子育て相談のできる場所になってほしい」との要望が9割を超し、自由記述の中には「子育て不安の増加」「園での保護者交流の要望」「子育て情報の不足」が多く寄せられている。各園では休園中にユーチューブやテレビ電話で子どもたちに遊び情報を提供したり、画面を通して一緒に遊んだり、先生からのメッセージや家で遊べる玩具作りの紹介や親子クッキングのレシピを紹介するなど工夫をしたり、保護者のメール相談を受けたりしている。「お弁当の黙食や小さなマスクからの解放」が一日も早く実現し、親子にとって園が再び安心感や信頼感に満ちた心の拠り所の場となるように願っている。

荒牧美佐子先生(目白大学 准教授)

 今回の調査では、前回までと比較して、全体的に母親の抱く子育てへの負担感や不安感が高まっているとともに、母親の就業の違いによる差も消失しつつあることが明らかとなった。同様に、母親自身の生き方に対する考え方についても、就業形態による差が縮まり、母親全体として、「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という意識が強まっている。これらの結果に鑑みて、就業の有無によらず、子育てだけに縛られることへの忌避感だけでなく、子育てそのものに余裕を持てず、困難さを感じる母親が増えていると言えるのかもしれない。コロナ禍により、様々な面での心配事や不安、負担等が増えたことも要因として考えられるが、今回の調査では、子育てへの肯定的感情も下がっていることから、こうした傾向を一過性のことと片付けるのは早計かと思われる。前回よりも、父親以外に子育てにおいて頼れる人が減っており、子育て家庭の孤立化が進んでいる様子も伺える。
 一方で、3歳児神話に近い子育て観を抱く母親の割合が減少していることから、低年齢児においても、集団の中での経験や育ちに意味があると肯定的に受け止める傾向が強まっているようだ。併せて、「園の運営に保護者が参画できるようにしてほしい」等を含めて、園への期待や要望も高まっている。保護者支援という視点だけでなく、保育・幼児教育の質の向上のためにも、保護者と園との連携・協働を支える体制作りが、今後一層、重要となっていくだろう。

資料編