【話題提供3】母親と父親がつくる子育てコミュニティ/李知苑
李 知苑●い・じうぉん
ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室研究員。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。修士(教育学)。ICTと子どもの学びや発達との関連、親子関係、子どもの非認知能力の発達等に関心を持って研究に携わっている。専門は教育心理学、発達心理学。2019年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトを担当。
配偶者以外に子育てで頼りになる人は、どれくらいいますか?
「チーム育児」では、母親・父親が配偶者とだけではなく、親族や友人、職場、地域といった周囲の様々な人たちとの協働が鍵になります。そこで、まずは、母親・父親が子育てにおいて誰を頼りにしているのかを見ていきます。
本調査では、「子育てを支えてくれる人(悩みを相談したり、子どもを預けたりできる人)」(以下、子育てで頼りになる人)を9つに分類してたずねています。今回は、その9つを「子育てコミュニティ」と総称します。
子育てで頼りになる人としては、母親・父親ともに「配偶者」が最も多く、特に父親では、98.5%を占めています。そして、母親では「自分の親族」、父親では「配偶者の親族」が続きました(図15)。
一方、「配偶者が頼りにならない」という母親・父親も見られます。その割合は、父親では0.8%ですが、母親では15.9%でした(図16)。
図15
図16
そこで、①配偶者が頼りになる母親、②配偶者が頼りにならない母親、③配偶者が頼りになる父親の3つに分け、配偶者を除く子育てコミュティがどの程度頼りになるかをたずねたところ、「配偶者の親族」について興味深い結果が得られました。配偶者が頼りになる母親では2.60ポイントですが、配偶者が頼りにならない母親では1.83ポイントでした。配偶者が頼りにならない母親は、配偶者だけではなく、その親族も頼りにならないと感じる傾向にあることがわかります(図17)。
図17
周囲のサポートは、子育て肯定感にどう影響するのか?
では、母親・父親が「子育てコミュニティが頼りになる」と感じていることは、子育てにどのように影響するのでしょうか。配偶者以外の子育てコミュニティについて子育て肯定感との関連を分析し、統計的に意味のある結果に絞ってご紹介します。
配偶者が頼りになる母親では、「自分の親族」「子育てを通じてできた友人」「知人や友人」「園の先生」が、子育て肯定感を向上させる傾向が見られました。また、頼りになるコミュティが広い人ほど、子育て肯定感が高いこともわかりました(図18、19)。
図18
図19
配偶者が頼りにならない母親では、「自分の親族」「子育てを通じてできた友人」「ファミリーサポートやシッター等」が、子育て肯定感にポジティブな影響を及ぼしていました(図20)。
配偶者が頼りになる父親では、「自分の親族」「子育てを通じてできた友人」「知人や友人」「医師や看護師」が、子育て肯定感にポジティブな影響を及ぼしていました。「ファミリーサポートやシッター等」はマイナスの影響が出ましたが、ほかのコミュニティの項目との関連でマイナスになっている可能性もあるため、より詳細に検討する必要があります(図21)。
図20
図21
また、配偶者が頼りになる父親でも、配偶者が頼りになる母親と同じように、頼りになるコミュティの広さと子育て肯定感の高さに関連が見られました(図22)。このように、周囲からの支援は子育て肯定感にポジティブに影響していますが、それは、困ったことが起きた時に自ら周囲に助けを求める力である「援助要請スキル」とも関連しているようです。本調査では、母親・父親ともに、援助要請スキルが高い人のほうが、高い子育て肯定感を得ていることがわかっています(図23)。
図22
図23
子育てにおいては、単に周囲のサポートを受けるだけではなく、自ら周囲に援助を求めることも大切です。とはいえ、孤立しがちな状況に置かれていたり、思うように援助要請ができなかったりする母親・父親もいます。今後の社会では、周囲の人たちがチーム育児の一員としての意識をもち、そうした人たちをしっかり支えていくことが求められるのではないでしょうか。