2016/09/01
Shift│第13回 「デザイン・エンジニアリング」が新しい課題解決型授業を生みだす -子どもたちに伝えたい「失敗は成功への過程に過ぎない」- [3/6]
自分たちの課題を解決するという動機づけ
この日の一之台中学校のワークショップに先立っては、学校の先生による事前授業が行われ、生徒一人ひとりは学校生活の中で感じる問題点や不満な点を既に考えていた。ワークショップでは、各々の問題点をもとに、グループとして問題点を集約し、解決策を探っていく。問題点を決めるポイントの一つは、グループ全員が共感できるかどうか。より多くの人に共感してもらえる問題が、重要で解決すべき問題ということになる。
ワークショップの様子
トゥルコ歩さん
最初はおとなしかった彼らも、グループに分かれた途端、とても活発に自分たちの問題点について話し合いを始めていた。とはいえ、限られた時間の中で一定の結論を出すのは、容易なことではない。
この日ダイソン社から参加していたトゥルコ歩さんは次のように話した。
「心掛けているのは、発想することを一緒に楽しむこと。でも、生徒たちが細部に拘りすぎたり、根拠のないアイデアを前提に話を進めたりしたときには、私たちスタッフが軌道修正します」
問題を決定し、解決策をスケッチで表現した後は、試作品という形で実際に表現する時間になる。試作品づくりのための材料は、段ボールやクリップ、ダイソンの掃除機部品など、生徒たちには馴染みのあるものばかりだ。生徒たちは、ああでもない、こうでもないとまさしく試行錯誤しながら、試作品をつくり上げていく。
箱に入った材料の数々
材料を選ぶ生徒たち
製作に取り組む生徒たち
製作は話し合いながら
自らゼロから考える楽しさ
デスクタロウの開発メンバーたち
最後に、試作品プレゼン大会で見事第一位に選ばれたのは、開発者の名前にちなんだ製品名「デスクタロウ」だ。「デスクタロウ」は、学校の机の狭さに不満を感じたところからつくられた新しい机。教科書立てが机の横から飛び出し、机上のボタンを押すとライトが点滅し、音声認識機能などのAIまで搭載するという。
講評では、デスクタロウチームの課題共感性の高さ、自由でユニークな発想から生まれた機能を表現した試作品、発表の上手さなどが評価された。デスクタロウチームの生徒たちに話を聞くと、いつもの授業とは違って、設計図もない、ゼロから自分たちのアイデアや意見でモノをつくることができたことが、とても楽しかったと答えていた。
学校側が授業の一環として、企業のワークショップを採用した意図はどのようなものだったのだろうか。ワークショップの事前授業を担当し、「技術」を教えている山川先生に話を聞いた。
技術担任の山川先生
「中学2年生の技術の授業では、工業製品を評価するという内容があります。例えば、もっているシャーペンを買った理由について、色や形、触り心地、機能、耐久性という視点で考えるのです。ワークショップは、この授業とうまく絡められると思いました」
普段の技術の授業との違いやワークショップの狙いについては、次のように話した。 「普段の授業では、製品キットの説明書や設計図ありきで、決められたモノをみんな同じようにつくることがほとんどです。しかし、このワークショップでは、自分で考えたモノをゼロからつくっているというところがミソで、それが完成してもしなくてもよいので、生徒にはモノづくりに対する心のハードルを超えてほしかったのです」
日頃から自分のアイデアを表現することに抵抗感をもっている生徒たちに、一歩踏み出してほしかった山川先生はこうも言う。
「自分以外の生徒が出すアイデアの裏側にある、生活の中の不満や不自由に感じているところにまで考えが及んでくれると、多様性の意味を理解して世界の見方も変わるのではないでしょうか」