2016/09/01
Shift│第13回 「デザイン・エンジニアリング」が新しい課題解決型授業を生みだす -子どもたちに伝えたい「失敗は成功への過程に過ぎない」- [1/6]
日本と英国は、ともに島国で、輸入した資源を加工して輸出する「加工貿易の国」という共通点がある。しかし、両国ともに、かつては世界を席巻した「科学技術立国」として注目を集めるも、デジタル時代の到来で、シリコンバレーを中心とした米国企業の勢いに押され、「科学技術立国」というイメージが薄らいだ印象は否めない。
科学技術立国と言いながら日本の教育現場では、義務教育の教科「技術」は中学の3年間しか学んでいないのが現状だ。他方、英国は、従来の技術教育とデザイン教育を融合した教育手法を編み出し、新たな一歩を踏み出している。例えば、米国アップル社で製品のデザインを監督するジョナサン・アイブ氏は、英国でのデザイン教育を受けた英国人。最近では英国のテレビ番組に出演して、その実務経験を活かしてデザイン教育を推進するなど、本業以外の教育領域に接する機会が増えてきている。
一方、英国の世界的メーカーに、強い吸引力の掃除機や羽のない扇風機などで有名なダイソン社がある。「デザイン」というと、色や形で装飾することを想像する人もいるだろうが、ダイソン社の創業者、ジェームズ・ダイソン氏は「ものづくりを通した課題解決こそがデザインだ」と語っている。
ダイソン氏は、若者たちがデザインとエンジニアリング分野の教育を受けられる機会をつくるために、ジェームズ ダイソン財団を設立した。当財団では、世界規模でデザイン・エンジニアリング教育プログラムを展開している。今回、我々が取材したのは、ジェームズ ダイソン財団が、中学校と高等専門学校で行うワークショップ。学校現場で「デザイン・エンジニアリング」教育をどのように取り入れているのか、授業の様子と関係者の話を通して紹介したい。
【取材・執筆】ジャーナリスト・林 信行
【協同執筆】青笹 剛士(百人組)
【協同執筆】青笹 剛士(百人組)
未来の技術者を育成する事業
英国は、貿易輸出額の多くを製造業が占めているものづくりの国だ。そこで、今後ますます「デザイン・エンジニアリング」の力が大切になると考えているのが、英国に本社を構えるダイソン社の創業者、ジェームズ・ダイソン氏だ。彼は自国の「未来のエンジニアの育成」のため、2002年にジェームズ ダイソン財団を立ち上げ、様々な技術者教育支援活動を始めた。例えば、英国で2015年にインぺリアル・カレッジ・ロンドンに「ダイソン・スクール・オブ・デザイン・エンジニアリング」を開校し、2016年にはケンブリッジ大学の最も優秀な工学研究者たちのために、世界最先端レベルの開発研究棟を開設し寄付するなど、これからの社会で活躍できる技術者養成に本腰を入れている。
一方で、中学・高校生向けに行われる「ダイソン問題解決ワークショップ」は、主に英国、米国、日本で実施しており、日本では2010年から2016年春までに5000人以上の生徒が受講している。その活動は、経済産業省主催の2015年度「キャリア教育アワード」中小企業の部において経済産業大臣賞を受賞し、今や日本全国の学校へと広がりを見せている。
ワークショップを担当する近藤さん
同財団のスタッフで今回のワークショップ・プログラムを担当する近藤彩子さんは、財団の目的と活動をこう語る。
「私たちの活動の目的は未来のエンジニアを育成することです。そこに繋がる活動として、中学・高校生向けの『ダイソン問題解決ワークショップ』や、すでにエンジニアリングを専門的に学んでいる大学生、大学院生などに向けた『ジェームズ ダイソン アワード』を展開しています。」
ダイソン流の「エンジニア教育」とは一体どんなものなのか。今回、東京都の公立中学校と、ダイソン財団として初めての試みとなる高等専門学校でのワークショップを取材した。