2016/09/01

Shift│第13回 「デザイン・エンジニアリング」が新しい課題解決型授業を生みだす -子どもたちに伝えたい「失敗は成功への過程に過ぎない」- [2/6]

「問題解決をする人が、エンジニア」

 取材班は東京都にある葛飾区立一之台中学校を訪れた。中学2年の学年全3クラスの生徒たちは、技術・家庭科の授業として「ダイソン問題解決ワークショップ」に参加するために同校の体育館に集まっていた。ワークショップの冒頭、前出の近藤さんは「エンジニアとは何か」を問い掛ける。
 彼女の答えは「問題解決をする人」。ジェームズ・ダイソン氏の言葉だという。解決策を模索する際、「different & better」を意識する。ほかとは違って新しい技術によって、より良い製品を開発するという意味だ。
近藤さんの講演
 近藤さんは、トーマス・エジソンを皮切りに「問題解決」を成功させた歴史上の人物たちをスライドとともに紹介した。強調するのは、成功までの過程で何千回何万回という試行錯誤を重ね、諦めずに努力を続けていたこと。そして、新しいモノを生み出すときに重要な「諦めない」「常識に囚われないアイデア」「不満を感じる」という3つのキーワードだ。
段ボールでできた最初の試作機
段ボールでできた最初の試作機
 特に3つ目の「不満を感じる」というキーワードは、ジェームズ・ダイソン氏が世界初のサイクロン掃除機を開発したことに由来する。使用するうちに紙パックの網目にゴミが溜まり、吸引力が衰える従来の掃除機に感じた不満が、サイクロン式掃除機を発明するキッカケだったのだ。その不満解決のヒントは、彼が当時住んでいた町の材木工場の空気清浄システムにあった。このシステムは遠心力を利用して、木を切る際に出る細かい木屑を分離していた。この技術を掃除機に応用できるのではないかと彼は考えた。この発想をもとに開発したサイクロン式の掃除機の試作機の数は、実に5127台。最初の試作機から製品化第一号まで費やした期間はおよそ15年だったという。
 近藤さんは、段ボールでできた最初の試作品のスライドを生徒たちに見せた。
 「ここからは、皆さんがエンジニアになって問題を解決する時間です。サイクロン式の掃除機だって、最初は段ボールの試作機からです。だから、みんなも見栄えなどはそれほど気にせず、純粋にこんなモノができればいいなと思う試作品を表現してください。試作品は、考え方が伝われば、それで十分です」と近藤さんは生徒たちを後押しした。