2016/12/14
Shift│第14回 ものづくりの真髄を伝える専門学校が、学生の意欲を高め、クリエイターの在り方を変える [2/5]
学生と社会をつなぐ様々な場面
クリエーターズ・マーケットには、ヒコ・みづのジュエリーカレッジの全学生が参加しているわけではない。モチベーションの高い学生だけが、自分たちでブースを出している。今年も60を超えるブースが出店していた。
山本龍二先生
「自分でつくったものを自ら売ってみたいと思わせることは、クリエイター養成教育の中でも一番難しく、授業の中では教えられないことです。しかし、そのための機会と場所を用意し、私たち教員がこの学園祭を仕切り、ブースの振り分けなどをしました」と語るのは、同校のジュエリークリエーターコースで教える山本龍二先生。
同校では、学生が社会で独り立ちする前、「まだ学生」という免罪符が使えるうちに、失敗を含めた社会経験を積んでおくことを重要視しているようだ。だからこそ、クリエーターズ・マーケットのほかにも、学生たちや彼らがつくった作品と社会をつなぐ場面を数多く企画している。
例えば、学生たちの作品を、プロのジュエリーデザイナーとバイヤーをつなぐ同校主催の見本市イベント「HELLO-daikanyama」に展示させたり、東京駅の駅構内商業施設「エキュート」や新宿の百貨店「伊勢丹」で販売させたりしていることもそうだ。また、希望者を対象に、eコマースサイトの「Yahoo!ショッピング」にストアを開いて、自分の作品をオンライン販売できるページを制作できるスキルを学べる夏期特別講座も開設している。
「HELLO-daikanyama」は、先端情報の発信地として知られる「代官山T-SITE」で開かれた、ウェアラブルアイテムを中心とした作品の展示会だ。ヒコ・みづのジュエリーカレッジの卒業生たちのクリエイター・ブランドが、主にプロのバイヤーに向けて、その個性豊かな作品を展示、販売した。その同じ空間で、選抜された在校生も作品を展示して、自分や自分たちの学校をアピールしたのだ。
在校生にとって、プロのデザイナーと一緒に作品を展示できることは、とてもよい経験になるだろう。一方で、高いレベルの在校生がいる学校だというブランドが確立すれば、卒業生にも箔が付く。このようなイベントは、在校生、卒業生、学校いずれの立場にとっても、自分たちのプレゼンスを高める絶好の機会になっている。
3年で魅力的なジュエリーづくりができるように理由
気鋭のクリエイターを多数輩出するヒコ・みづのジュエリーカレッジ。ここでは実際に、どのような授業が展開されているのだろうか。今回、実習授業で学ぶ学生2人を取材した。
シルバーアクセサリー&クラフトコースの教室では、学生たちは静かに淡々と作業を進めていた。教室というより工房といった方がいいかもしれない。作業台がついたテーブルが並び、学生たちは工具を使って黙々と作業している。同コース3年生でメンズのアクセサリー製作に取り組む、菅谷さんもそのひとり。
菅谷さん
彼によると、同校で得たもっとも貴重な糧は、「社会現場で豊富な経験をもつ様々な先生たちから、生きた知識や技術を吸収できること」だという。
菅谷さんは学校の価値をストレートにこう語る。
「僕は、ジュエリーをつくった経験がまったくない『ゼロ』の状態から入学して、3年生になった今では、このようにジュエリーを普通につくれるまでになりました」と、製作途中のオシャレなイヤリングを見せてくれた。ほかにも、彼の製作したシルバーリングを見せてもらったが、そのつくりこまれた作品はとても魅力的だった。
「僕は、ジュエリーをつくった経験がまったくない『ゼロ』の状態から入学して、3年生になった今では、このようにジュエリーを普通につくれるまでになりました」と、製作途中のオシャレなイヤリングを見せてくれた。ほかにも、彼の製作したシルバーリングを見せてもらったが、そのつくりこまれた作品はとても魅力的だった。
気づいたら朝という没頭の日々
シルバーアクセサリー&クラフト専攻のカリキュラムは、1年生と2年生には細かい課題設定があり、テキストや図面もあるが、3年生になると自分で製作物を考えなければいけない課題ばかり。11月からは、いよいよ卒業制作の作業も始まった。さらに、今年は就職活動もしなければいけない忙しさ。菅谷さんによると、課題を製作していると翌朝になることもしばしばだという。
菅谷さんがつくったブレスレット
教室で作業する菅谷さん
「好きなことだから、寝る間も惜しんでやりたいと思えます。課題製作に没頭していると気づいたら朝になり、慌てて学校に行くこともよくあります」と笑顔で話す彼の表情からは、日々の充実が感じられた。
菅谷さんは先述のクリエーターズ・マーケットにも出店。自身の作品も相当な額で売れたようだ。
しかし、彼自身は販売することの難しさを感じている。
しかし、彼自身は販売することの難しさを感じている。
「お客さんが、作品に対してどう思っているのかがわからないのです。自分で特にカッコイイと思っている作品でも、お客さんに気に入ってもらわないと買ってもらえないですから。だから、マーケットイベントでお客さんの生の声が聞けたのは収穫でした」
実際、買った人から「もうちょっとこういうデザインがよかった」などの具体的な意見をもらうことで、商品製作というモノづくりへの視野が広がったという。
また、クリエーターズ・マーケットでは女性客も多く、これまで主にメンズジュエリーを製作していた彼の心境にも変化が見られた。
「女性向けのジュエリーもこれからしっかり勉強していこうと思いました。ブライダルにも興味が湧いてきましたし、色々なジャンルにチャレンジしたいですね」と、菅谷さんは「次」を見据えていた。