2016/09/01
Shift│第13回 「デザイン・エンジニアリング」が新しい課題解決型授業を生みだす -子どもたちに伝えたい「失敗は成功への過程に過ぎない」- [5/6]
大切なのは環境、そして目標
ダイソン問題解決ワークショップの特徴は、日本だけでなく、英国をはじめ、世界の国々でそれぞれの教育環境に合った形で展開されている教育プログラムだという点だ。子どものときに、世界を知る講師陣から直接話を聞けることは、自分の中に世界標準の価値観を根付かせることに繋がり、様々な知的好奇心をもつキッカケにもなる。
一之台中学校のワークショップに視察で訪れていた同財団のグローバル統括を務めるリディア・ビートンさんは、世界各地のダイソン問題解決ワークショップの現場も訪れている。ビートンさんから見て、日本と他国の子どもたちにはどのような違いがあるのだろうか。
ビートンさん
「例えば、米国の生徒はもっと上手にプレゼンをします。彼らは自己表現が豊かなのです。英国の生徒のプレゼンの技術は、日本と米国の真ん中くらいでしょうか。ただし、感心したのは日本の生徒は皆、ひじょうに熱心なところです。英国だったら何人かの生徒はクラスの後ろの方に隠れてしまうでしょうから」とビートンさん。
一方で、日本の子どもたちからは、有名な科学者やエンジニアに対する認知度が英国と比べて低い印象を受けたようだ。
「もしかしたら、製品は知っていても、それをつくった発明家やエンジニアがそれほどスターとして見られていないのかもしれませんね」(ビートンさん)
ダイソン財団では、子どもたちが将来、優秀なエンジニアになるためには、いいロールモデルが必要だと考えている。だからワークショップは、製品の裏側にいる発明家やエンジニアたちが才能を発揮する方法こそ違え、テレビで見かけるセレブたちと同様なスターなのだと教えられる貴重な機会だという。
ビートンさんはこうも言う。
「先生も保護者も既存の仕事の概念に縛られやすいと思います。実際、エンジニアになろうとしている子どもたちの動機は『親がエンジニアだったから』というものが多いのです。そこでジェームズ ダイソン財団では、エンジニアに興味関心のある子どもたちに向けて、これからの社会ではどのような仕事が必要になるのかなど、職業観に関する情報提供活動に対しても積極的に取り組んでいます」
「先生も保護者も既存の仕事の概念に縛られやすいと思います。実際、エンジニアになろうとしている子どもたちの動機は『親がエンジニアだったから』というものが多いのです。そこでジェームズ ダイソン財団では、エンジニアに興味関心のある子どもたちに向けて、これからの社会ではどのような仕事が必要になるのかなど、職業観に関する情報提供活動に対しても積極的に取り組んでいます」
未来の職業、未来の技術教育
日本の技術教育は中学生からしか実施されていないが、ビートンさんによると、英国では早ければ5歳、遅くても7歳からはしっかりとした技術教育を始めているという。このような状況をつくり出したのは、ジェームズ・ダイソン氏の積極的な英国政府に対するロビー活動の影響が大きかったようだ。また、技術教育を含めたSTEM教育については、ダイソン社以外の英国企業もその重要性を認識しており、今後真剣に取り組む企業はどんどん増えていくだろうとの見方を示していた。
日本でのダイソン問題解決ワークショップを立ち上げ時から支えてきたのが、同財団のアジア統括である神山典子さん。彼女は、日本における技術教育の現状に危機感をもっている。
神山典子さん
「技術立国と言われる日本の技術教科の授業数が、受験偏重の傾向もあり、戦後どんどん少なくなっています。そういう背景もあり、私たちは技術リテラシーを担う重要な技術教育を強化するために、教育機関や専門家、現場の先生方の協力のもと、問題解決ワークショップを実施しています」(神山さん)
前出のビートンさんに日本の教育の印象を聞いた。
「文部科学省もたいへん熱心で、国の政策として教育をよりよく改革していこうという意気込みを感じます。学習指導要領が変わる2020年に10代の子どもたちが、実際に仕事に就いて活躍するのは2030年頃だと考えると、教育カリキュラムもその時代の仕事を想定してデザインすることが大切ですね」