2017/03/10

[第1回] 未来を生きる子どもたちのために、学校教育に求められるものは何か [1/4]

奈須 正裕 ● なす まさひろ

上智大学総合人間科学部教育学科教授
東京大学大学院 教育学研究科 教育心理学専攻 博士課程単位取得退学。博士(教育学)。専門は、教育方法学、教育心理学、カリキュラム論。神奈川大学助教授、国立教育政策研究所教育方法研究室長などを経て現職。共著に『教科の本質から迫るコンピテンシー・ベイスの授業づくり』(図書文化社)、『国語授業UDのつくり方・見方』(学事出版)など。
 2020年度から順次全面実施される次期学習指導要領(現段階では案)では、新しい時代に求められる資質・能力の育成を目指し、資質・能力のあり方や、カリキュラム・マネジメントなどの育成の考え方が示されています。しかし、そのような教育改革は、なぜ今必要で、これからの学校教育に何が求められているのでしょうか。改革の根本的な意義や、育成を目指す資質・能力の三つの柱の考え方などについて、中央教育審議会教育課程部会の委員を務める上智大学の奈須正裕教授にお話をうかがいました。

Q. なぜ学校教育を変える必要があるのでしょうか?

A. 与えられたことをこなすだけでは、生きていけない社会が到来するからです

 学校教育改革が進められている背景には、世界的に産業社会から知識基盤社会へと大きく変化していることが挙げられます。
 産業社会では主に分業体制で仕事が進められてきました。仕事は、誰が行っても一定の成果が得られるように定型化され、決まった仕事を効率的に作業できることが高く評価されていました。つまり、自分で何をすべきかを考えることよりは、作業をこなすための知識をより多く持っていることが重視されてきたのです。結果、知識を多く持つことが、大学進学や就職を始めとして、社会的成功を収めるために必要な要件となりました。
 ところが、現代は情報技術が急速に進化し、定型化した仕事の多くは機械ができるようになりつつあります。人間には、知識を自在に活用したり、新たな知識を自力で生み出したりなど、機械にはできない非定型の仕事がより求められるようになっています。
 また、インターネットの発達により、知識を持っていなくても、調べればすぐに必要な情報を得られるようにもなりました。つまり、知識を多く持っていることが、必ずしもその人の人生の成功を約束するものではなくなってきているのです。
 先を予測できない変化の激しい時代には、未知の問題に取り組み、解決していく力が重要です。そうした対応力を育む教育への転換が求められているのです。