2017/11/21
[第5回] 高校の進路指導の課題にみるこれからの高大接続の論点 ~高校教員1,000人の記述回答より~ [2/2]
3.近年または今後の課題として浮かび上がる3つのこと-記述回答より-
昨今の入試環境や社会環境の変化を受けて、こちらが質問項目で想定していること以外にも新たに課題となっていることがあるのではないか。本調査では、「進路指導に関して、特に近年または今後の課題として感じていること」についてフリーアンサーで回答してもらった。調査対象者4,737名のうち、1,106名(23.3%)から何らかの回答が得られた。それらをカテゴリー別に分類し、多かったものをまとめたのが表1である。記述回答の性質上、厳密に分けきれない面があることはご容赦いただきたい。
これらをみると、大きく3つのポイントがあることがわかる。1つは、センター入試にかわる新テストなど2020年の入試制度改革に関すること(表1A)、2つ目は、主に個別選抜に関して、推薦・AO入試や入試の多様化への対応と教員の負担に関すること(同B・C)、3つ目は、生徒の進路選択に対する意識や学力(同D)に関することである。
表1 近年およびこれからの進路指導の課題についての記述回答(多いもの)〔公立普通科〕
注1)記述回答数は1,106件。%は1,106件に占める割合。1つの回答の中で複数のカテゴリーに該当する場合は複数にカウントしている。
注2)カテゴリーBとCの両方に内容が重なる部分はそれぞれにカウントしている。
注2)カテゴリーBとCの両方に内容が重なる部分はそれぞれにカウントしている。
以下、それぞれについて、詳しくみてみよう。
1)2020年に向けた入試制度改革への対応に関して
課題として多かったのは、「大学入試制度改革への対応/新たな入試に対応した授業・指導のあり方」である。本調査はまだ「大学入学共通テスト」等の詳細が公表される前の実施のため、「入試改革の内容がわからないことへの不安」をあげたものも多かった。これは状況がかわっているので、今ならまた違った回答になるだろうが、入試改革への対応がもっとも気になっている教員が多いということはわかる。具体的に入試改革への対応に関する記述回答の内容を見てみよう。
表2 進路指導の課題のうち「2020年に向けた入試制度改革への対応」に関するコメント例
- 大学入試制度改革の動向が気になる。大学に受かるための受験指導(進路指導)を要求されるので、それに対応できないといけないが、対応できるか不安。(81%以上)
- 英語教育での4技能の導入。それに伴う外部試験の活用と高校の授業との整合性。(81%以上)
- 授業と新テストのギャップはどうやって埋めていくか。(61~80%)
- 大学入学希望者学力評価テストやアクティブラーニングなど、授業や入試の形態が変わっていく中で自分自身がどれだけ対応できるか、あるいはそれにこたえられる生徒がどれだけいるのか考えると不安を感じる。(61~80%)
- センター試験に代わる新テスト対策として、アウトプットの力をいかに身につけさせていくか。(61~80%)
- 2020年に向けて、大学入試が変化してきていること。論理的思考をみるテストに対する力をどうやって生徒につけさせていくか。(31~60%)
- 高大接続入試に向け授業改革を進めているが、不安がある。自らが情報を入手すべきであるのはわかるが、英数国の三教科が目立ち、理科・社会の向かう方向が読み取れにくいと感じている。(31~60%)
回答には「大学入試改革への対応」とだけ書かれているものも多かったが、表2ではより詳細な記述があったものをピックアップしている。それらをみると、入試と授業をどう一致させていくか、アクティブ・ラーニングとのつながり、表現力や思考力の育成といった指導方法の転換に関することがあげられている。「大学入学共通テスト」の問題例は示されたが、それに対応した授業や指導がどうあるべきかについては、しばらく手探りが続くだろう。入試改革は高校教育を変えることが大きな目的の一つであり、そこが肝心である。今年度末に告示予定の次期学習指導要領をはじめとして、より具体的な議論が求められるところである。
2)推薦・AO入試や入試の多様化への対応と教員の負担に関して
次に多かったのは、推薦・AO入試の指導や課題、入試の多様化への対応であり、それらの多くが教員の負担増にもつながっている、ということである。先にみたとおり、個別選抜について文部科学省より示された改革の内容は、「推薦・AO入試の時期の見直し」「推薦・AO入試の学力把握措置の義務化」「AO入試の人数制限を設けない」「個別選抜全体への調査書の活用促進」であった。今回の回答の中には、推薦・AO入試による早期合格の弊害や学力不足についての記述も多かったが(表1④)、それらに対してはその後一定の改善の方向性が示されているので、今回は詳しく触れない。
しかし、「教員の負担」(表1⑤⑥)に対しては、今回の「AO入試の人数制限を設けない」「個別選抜全体への調査書の活用促進」といった方針により、益々その状況が進むことになるのではないだろうか。推薦・AO入試や入試の多様化による教員の負担に関する具体的な記述回答例は表3のとおりである。
表3 進路指導の課題のうち「推薦・AO入試や入試の多様化による教員の負担」に関するコメント例
- 入試形態の多様化、複雑化で、教師や生徒は、学習そのものより、手続きやその理解のために膨大な時間をとられている。もっと本質的なところに時間をかけられるようにしてほしい。(31~60%)
- 推薦入試の割合の増加と選考方法の多様化に伴い、進路指導の内容が多岐にわたり、膨大な時間と人手を要するものとなっているのに対し、組織的対応を講じるのが難しいこと。また、教材研究時間の確保が難しいこと。(31~60%)
- 進路指導に6年ほど関わっていますが、AO推薦入試での志望理由書の添削や小論文の添削にとても時間がかるようになっています。その他にも面接練習など全教員で対応していますが厳しい状況です。9月~11月は生徒対応で連日帰宅が10時になります。(61~80%)
- 推薦入試やAO入試が、教員のサポートを利用しているため、真の生徒の学力を測るものになっておらず、それそのものが教員としての評価対象になっていると感じることがある。負担増につながっており、よい傾向と言えない。(81%以上)
- 推薦入試やAO入試の書類作成において、受験する生徒よりも教員の負担が大きくなる傾向にある。特に国公立大においてよくあてはまる。(81%以上)
- 3学年の進路担当、クラス担任の方々の推薦書書きの大変さを思うと、一定程度書式を統一し、クラス担任の負担とならぬ方法はとれぬものかと思う。(81%以上)
- 推薦入試の条件が学校によって複雑であり、件数も多いため少ない進路指導部のメンバーだけではなかなか扱うことが困難になっている。大学側との現場リアリティをふまえた現状の改善を求めていくようにできればよいと思う。(61~80%)
- 進路指導を専門とするスタッフが校内に居ず、素人である教員だけで進路指導を行っていることが問題である。進路カウンセラー等、専門スタッフの導入をすべき。(81%以上)
現在でも、入試が複雑化してその理解に時間がとられ、推薦・AO入試の出願書類の記入や面接等の個別指導にも負担を感じている。さらに今回の改革の方針を踏まえると、教員が推薦・AO入試の出願書類を作成する件数や記載内容が増え、志望理由書や面接の個別指導が増え、このままだとさらなる多忙化につながることは容易に予想される。合否には教員の力量がかなり影響するとの記述もあり、それでは、本来の、生徒の多面的な能力を評価する、との趣旨とも異なってきている。本調査では、進路指導に関する負担増について項目を設定してたずねているが、全体で約8割の教員が「進路指導にかかる時間や負担が増えている」と回答し、大学進学率によらず、どの学校群でも7割以上が負担増を感じている。
図2 「進路指導にかかる時間や負担が増えている」と感じる割合(全体・四年制大学進学率別〔公立普通科〕)
この状況では、目先の大学進学だけでない本来的な将来を見据えた進路指導や新たに求められる能力に対応する時間がとれなくなる。現在、中央教育審議会で、教員の働き方改革が議論* されている。その論点の一つとして「進路指導」も掲げられており、教員以外の専門人材の関わりが検討課題になっている。入試改革を実りあるものにするためにも、現実的な解決策が検討されることは重要であろう。
3)生徒の進路選択に対する意識に関して
3つめのポイントは、生徒の進路選択に対する意識や姿勢に関することである。図1で見たとおり、これらについては進学率別の違いが大きく、進路多様校ほど抱えている課題は大きい。
生徒に関する課題として挙げられているものの中には、生徒の気質に関すること、例えば、「やる気がない」「受け身」「自己認識ができていない」といった内容も多かった。ただ、今後の影響が大きいこととしては、2018年から18歳人口が減少局面に入り、少子化の影響がさらに強まり広範囲に及ぶことが予想される。表4では生徒に関する課題のうち、直接的・間接的に少子化に関連すると思われるものをまとめた。
表4 進路指導の課題のうち「少子化」に関連するコメント例
- 少子化により安易な上級学校への選択が増えているが、学ぶことが嫌いなので結局退学してしまうなど。(31~60%)
- 少子化のため大学が生き残っていくのが厳しくなる中で安易な選択をする生徒が増加する恐れがある(大学全員合格の時代がくるため)。(81%以上)
- 教員にも、生徒にも「ほどほどで良い」という風潮が根強く、生徒の可能性を拡げることに対して、積極的ではないということ。(61~80%)
- 進学・就職とも「受かりやすく」なっているため、生徒・保護者とも少子化により、努力をせずに行き先を決めようとする傾向がある。その場合、退学・離職につながりやすい。(30%以下)
- 勉強をするために大学に行くわけでなく、まわりが行くからまたは就職のために行くという理由で、モチベーションが低く、勉強に対しても意欲が低い者が多い。(31~60%)
- 今の学力で努力せずに入れる大学を探す生徒の増加。または、勉強しないで合格できる入試方法を探す生徒の増加への対応。(61~80%)
- 安易に進学できる大学・専門学校等が著しく増加し、生徒の進学に対する熱意や危機感がうすれてきていると感じることが多くなった。(31~60%)
- 選択肢や情報が増え、生徒が決めきれない。(31~60%)
これらをみると、少子化で大学が入りやすくなっていることにより、安易な大学選択やその結果としての退学、ほどほど志向、進学目的が不明確、選択肢が増えて決めきれない、といった内容がならんでいる。
大学入試制度を変えることによる学びへの影響力は大きいが、実質的に選抜がない(選抜にならない)大学を受ける生徒達にとっては、推薦・AO入試で学力把握を義務化しても、強い学びのインセンティブにはならないだろう。課題の所在は学力層によってかなり異なっているため、生徒・学生の実情にあわせた個別の高大接続の取り組みが重要だろう。受け入れ側の大学の努力も問われる。
筆者がこれまで中央教育審議会の「高大接続特別部会」等の議論を傍聴してきた印象では、今回の入試改革は学力上位層に焦点があたっていた。次の段階として、学力中位層以下の接続のあり方について議論を深めていくことも必要だろう。
4.今後の高大接続の論点
以上、これまで述べてきたことをまとめると、次のとおりである。
これから進む制度改革や環境の変化から今回の記述内容をみたときに、今後重要となる高大接続の論点としては、
1)2020年の大学入試改革に向けて、特に「思考力・判断力・表現力」を学校でどのように育成するのかの具体論。
2)多面的・総合的な評価の推進・拡大に伴う教員の負担増をどう解消するか。
3)少子化時代に、入試以外の方法でどのように学びのモチベーションを高めるか。特に学力中位層以下についての議論の深化。
2)多面的・総合的な評価の推進・拡大に伴う教員の負担増をどう解消するか。
3)少子化時代に、入試以外の方法でどのように学びのモチベーションを高めるか。特に学力中位層以下についての議論の深化。
の3点であろう。高大接続の論点はいくつかあるが、記述回答の分析をとおして、改めてこれらのことが今の学校現場にとって解決すべき優先順位の高い課題であることがわかる。2020年に向けて高校には大きな変革が求められる。実際に改革を担う高校教員の声を聞くことが、改革の成否を分けるカギとなるにちがいない。
最後に、大変お忙しい中、本調査にご協力いただいた先生方に心より感謝を申し上げます。
*「学校における働き方改革特別部会」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/index.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/index.htm