2017/09/12
[第3回] 転換期における高校の学習指導への意識の変化と課題 ~現場の視点から~ [2/2]
2.学習指導への意識と変化-アクティブラーニング(AL)に対する傾向と課題
全体的な傾向としては、ALの推進に対して肯定的な教員は多く、グループ活動や発表の機会も増えている傾向にある。
図7 「グループ活動を取り入れた授業」を心がけている割合<経年比較、小・中・高校教員>
注)〔 〕は「多くするように特に心がけている」+「まあ心がけている」の%。
現在、何らかの形で、ほとんどの高校がAL型授業をどのように行っていくかを検討していると思われる。印象の域は出ないが、この点では、私立高校は公立高校に先行していると言ってよいだろう。しかし、それでも、まだ始まったばかりで、その成果検証もまだ行う段階にはなく、様々な試みがなされている状況と考えてよいだろう。以下、大きく3点に注目したいと思う。
(1)授業改善への意識の強まり
以下は、高校における校内研修の領域別実施率での結果である。「教科指導」が少し増え、「アクティブラーニング(AL)」が5割を超えている。教科指導とALが連動しているとみなすならば、特に高校では、これまで組織的な授業改善に遅れがあった傾向を考えると、少なくとも、ALを契機として、組織的な授業改善の意識は以前より強まってきたと言ってよいだろうと思う。
表2 校内研修の実施率(2項目)<高校教員>
(2)学習指導の変化
以下は、「心がけている授業時間の使い方」と「心がけている授業方法」の上位5項目順の結果である。
表3 心がけている授業時間の使い方<高校教員(公立)>
表4 心がけている授業方法<高校教員(公立)>
「心がけている授業時間の使い方」では、上位2項目の順位は変わらなかったが、率は下がり、2010年に4位、5位だったものの率があがり、順位もあがった。また、「心がけている授業方法」では、「教師主導の講義形式の授業」が5項目から消え、新たに項目として設けられた「生徒同士の話し合いを取り入れた授業」が入った。2016年の「心がけている授業時間の使い方」を再度整理してみると、①解説の時間、②練習・演習の時間、③話し合いの時間、④発表の時間であり、これがほぼ3割ずつである。これをつなげてみると、①②の旧来型授業に③④の率が高まって組み込まれつつあると考えられ、学習指導の変化を感じさせる結果である。
一方で、気になる部分もある。AL型授業の学習サイクルを「内化→外化→内化」(京都大学溝上慎一教授)としたとき、上記の①②は内化(インプット)であり、③④は外化(アウトプット)である。しかし、その先に再度の内化が必要になる。それが「振り返り」(再内化)である。「心がけている授業時間の使い方」で「生徒が学習を振り返る時間」は、高校でわずかに10.4%である。個人的には、この「振り返り」(再内化)の場面は、わずかな時間であっても生徒の主体性が最も表れるものではないかと考えている。この点は授業づくりの大きな課題だと思う。
(3)中高接続について
現在、高大接続が大きく注目されているが、もう一つ忘れてはならないことがある。2010年の調査の際、私は、前述の2つの調査結果から2つの課題を指摘した。その1つが中高接続の問題であった。2010年のときに、私は「中学校では主体的に授業に参加するように時間も方法も心がけている傾向があり、高校の授業では生徒が受け身になる印象がある。発達段階の違い、高校での学習内容の専門化など中高の授業における違いが影響しているであろうが、高校側としては、各校の実態の違いはあるが、少なくとも入学してくる生徒が中学校でそのような授業を受けてきていることを考慮に入れる必要がある」という旨を述べた。このことはどうなっているのだろうか。以下は、2010年に指摘した項目の中高の率の差を2016年と比べてみたものである。
図8 心がけている授業方法の中学校と高校の比較<経年比較、中・高校(公立)教員>
注)□内の値は、中学校と高校の比率の差を表す。
また、「グループ活動」については、その詳細は前掲の図7でみたとおりである。
少しずつではあるが、差は縮まっている。これが中高接続を意識したものと言えるかどうかは、この調査からは不明であるが、現在、進められている改革がどのようになっていくかを見ていく上で大切な視点であると思う。高大接続は中高接続に支えられているからである。高校は、中学で何が、どのように学ばれているかをもっと知る必要があると思う。次期学習指導要領では「どのように学ぶのか」が強調されている。2010年調査で指摘した2つ目は高校の学習指導が生徒を主体的な学びに向かわせているかという点であったが、その点を考えると、「何」の部分だけでなく「どのように」の部分でも中高の接続が必要なのではないかと思う。
3 その他の課題-ICTの活用と探究学習
紙幅の関係から詳しく述べられなかった点が2点あり、簡単に課題のみ記したいと思う。1点はICTの活用についてである。そもそもインフラ整備の問題はあるが、それは置くとして、教員が「サイト上の素材を表示する」「解説スライドを表示しながら説明する」は、単なる板書が置き換わっただけで、ここが増えたから活用と言えるかどうかは疑問が残る。生徒が「タブレットを使って個別学習をする」「ICT機器を使って複数の考えを整理する」「プレゼンソフトを使って発表する」の項目が活用と言えるものではないかと思うが、ここが低いということは、ICT活用にはまだまだ課題が大きいのではないだろうか。
もう1点、「探究学習」についてである。この調査では「探究学習」を「主体的・協働的に課題の設定からまとめ・表現や解決までを行う学習」と定義している。総合学科、専門学科では、課題研究の時間が教育課程に位置付けられているところから、実施率が高いのは頷けるが、普通科でも6割と高い。しかし、その学習を10時間以下で行っているとの回答が、普通科で、どの学年でも4分の1ほどある。多くは総合的な学習の時間を使っていると思われるが、前述の定義どおりに探究学習を行わせるとしたら、テーマ設定ひとつでもかなりの指導時間が必要で、各学年とも10数時間で指導しきれるものではない。指導者の確保とともに、まずは時間確保が大きな課題ではないかと思う。
上述したが、高校の組織的な授業研究は、小中に比べてかなり遅れていたと言ってよい。今では、授業を録画して授業研究を行うことは高校でも当たり前になってきたが、私が公立高校で授業録画に取り組み始めた2011年は、そのような取組を組織的に行っている高校はまだ少なく、また、高校で授業研究に関する資料を集めようと探したが、小中学校の実践資料に比べて圧倒的に少なかった。それが、わずか5,6年の間で、高校は、授業改善への意識は強まり、ALなど様々な試みがなされるなど、変わりつつある。しかし、その成果はもう少し待たないと見えてこないだろう。
この調査は、おおよそ3年~5年のスパンで行われてきたが、仮に次回が5年後の2021年の実施であれば、その年は高校で次期学習指導要領が年次進行される年であり、前年の2020年は新たな「大学入学共通テスト」実施の年である。この先、どの時期に実施がなされても、次の調査結果は、現在の高校教育改革がどのようになっているかが見えるものになっているだろう。今後もこの調査を注視していきたい。