第24回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告 学修成果の多角的・継続的な可視化とその活用 ~育成と一体化した評価への試み~ [1/6]

 2018年3月20日・21日の2日間にわたり、京都大学において「第24回大学教育研究フォーラム」(主催:京都大学高等教育研究開発推進センター)が開催されました。その企画セッションにおいて、「学修成果の多角的・継続的な可視化とその活用 ~育成と一体化した評価への試み~」と題し、高知大学・追手門学院大学・関東学院大学・ベネッセ教育総合研究所が共同発表を行いました。
 当日の資料と発表・ディスカッションの概要を、以下に記載します。

≪プログラム≫

■ 企画趣旨説明
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 岡田佐織
■ 事例報告1/高知大学
高知大学 大学教育創造センター 教授 塩崎俊彦
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 松本留奈
■ 事例報告2/追手門学院大学
追手門学院大学 アサーティブ研究センター 研究員 志村知美
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室長 木村治生
■ 事例報告3/関東学院大学
関東学院大学 高等教育研究・開発センター 専任講師 杉原亨
関東学院大学 高等教育研究・開発センター 専任講師 奈良堂史
ベネッセi-キャリア 企画開発部 商品開発課 友滝歩
■ 可視化の方法論
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 岡田佐織
■ 指定討論
立命館大学 教育開発推進室機構/大学評価室 教授 鳥居朋子
■ 論点提起に対する回答
※敬称略。所属・肩書きは掲載時点のものです。

≪発表・ディスカッションの概要≫

■ 企画趣旨説明

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 岡田佐織
 いま多くの大学では、学修成果の可視化をどのように行うかが、喫緊の課題になっているかと思います。一足飛びにこうすればよい、というような正解はなく、試行錯誤が行われている状況ではないかと思っています。
 ベネッセ教育総合研究所では、学生の成長や学修成果を可視化し、指導や成長支援に活かすためにはどのようにしたらよいかという問題関心のもと、特色のある取り組みを進めてこられた高知大学、追手門学院大学、関東学院大学と一緒に、可視化の手法を編み出していくための共同研究を実施してきました。はじめに、なぜこういった研究をしているのか、という問題関心についてお話しさせてください。
 第3期の認証評価では、学修成果を多面的に可視化し、その結果を活用することが求められています。様々なツールをそれぞれの大学で開発し、あるいは外部アセスメントを導入するなどして、評価を実施し、その結果を分析し成果と課題を洗い出し、施策にいかしていくという一連のプロセスが必要になります。この一連のプロセスの中で、「評価を実施する」という部分については、各大学での取り組みが深まってきていると感じています。ですが、そこで見えてきた成果と課題をもとに、次の施策にどう生かしていくのか、あるいは、そもそも大学全体で定めたDPと、評価のツールや読み解きの関係はどうなっているのか、学生にはこうあってほしいという願いの実現度合いをどのように検証し、どう施策につなぐのかという「評価の実施」の前後のプロセスを確立されている大学はまだ少ないのではないか、という印象を持っています(資料p.5)。分析した結果を、どう次の一手につなげていくのか、大学全体の検証・活用プロセスの中に、個々のツールや観点をどう埋め込んでいって機能するものにできるかということが、研究関心としてありました。
 今回、3つの大学と一緒に実践的な研究をさせていただく機会をいただき、この「評価の実施」の前後のプロセスをどう作っていくかを考えてまいりました。それぞれの大学で取り組まれていることの一部分として、共同研究は位置づけられています(資料p.6)。本日は、資料p.6の①~⑥で示しました、成果の検証とその結果の活用のプロセスに沿って、それぞれの大学での取り組みと共同研究の成果について報告させていただきます。
 高知大では、「社会、地域で活躍できる人材とはどういう人なのか」という能力定義をもとに、社会に通用するオーセンティックな指標を開発して、学修成果を可視化する取り組みをされています(資料p.7)。育成したい人物像を「10+1」の力として定め、セルフアセスメントシートを開発されています。共同研究では、この「10+1」の枠組みをベースとして、卒業生と職場上司のインタビュー調査を実施しました。どのようにしてこれらの軸を設定し、総合的な指標として体系化してこられたのか、本日はその全体像をご報告いただきます(資料p.10)。
 追手門学院大学では、文科省が進めている入試改革を先取りするような形で、「アサーティブ」をキーワードにした入学者選抜と入学前教育プログラムを実施されています。大学として求める受験生像を明確に定め、アサーティブプログラムによって入学前から高校生を「受験生」として育て、育てた力を多面的に評価するアサーティブ入試で選抜する、という取り組みをされています(資料p.8)。このような施策にどんな効果があったのか、「入学後は『アサーティブ・ラーナー』として成長していってほしい」というその願いのとおりに学生は成長しているのか、それを検証するプロジェクトとして共同研究を立ち上げています。ただし、検証にあたっては、アサーティブ施策の成果検証にとどまらず、入学したすべての学生に対する成長の可視化と支援をどのように行うか、という課題設定を行い、「教育効果の高い面談スキームの開発」と「多面的な成長の可視化」に取り組んできました(資料p.11)。
 関東学院大学では、FD部門(高等教育研究・開発センター)の先生方と一緒に研究をしてきました。FDを担当する部門でありながら、全学のキャリア教育も担われており、学生との長期にわたる接点と教育プログラム体系を持つという強みを生かして、キャリア教育の中で入学時から卒業までの成長を可視化する、という取り組みを進めてきています(資料p.9)。高等教育研究・開発センターでは、全学のディプロマ・ポリシー見直しを推進され、その議論のプロセスの中で、生涯学び続ける力、主体的に社会に関わっていく力の育成について、学内の課題認識を強く感じておられました。そこで、今回の共同研究では、学生が入学後に高い意欲をもって学べているのか、何かに燃えて取り組んでいるか、についてフォーカスし、学生の成長プロセスを評価・支援する手法と実践の開発に取り組んできました。1年生全員、約2,800人を対象とするキャリア教育科目を実施し、その中でアセスメントテストも行っています。授業の中で取得したそれらの情報を活用しつつ、それと対になる形で、4年次のキャリア教育科目(育成と評価を両立する科目)を4年間の「総まとめプログラム」として作ろう、大学の入口と出口を一本の評価軸でつなごう、というのが今回の研究プロジェクトの骨格になっています(資料p.12)。
 本日のセッションでは、どのように評価の枠組み・ツールをつくってきたのか、それぞれの大学で取り組みを推進してこられた先生方、そして可視化と育成の共同研究を実施してきたベネッセの研究メンバーから、ご報告させていただきます。そして、実際に評価を実施してみてどうだったのか、学生は期待通りに成長しているのか、学修成果や成長は可視化できているのか、評価結果をうけて、今後どのように施策につないでいくかについても、お話しいただく予定です。
 その後、立命館大学の鳥居朋子先生より、学修成果の可視化やIRの領域で先進的な実践とご研究を行ってこられたお立場から、3つの事例についてのコメント・論点提起を頂き、ディスカッションを行いたいと考えています。
 本日は、「3つの事例紹介」ということを越えて、複数の事例を重ねてみることで、学修成果・成長を可視化するための方法論を編み出していくことにチャレンジしたい、と考えています。