第24回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告 学修成果の多角的・継続的な可視化とその活用 ~育成と一体化した評価への試み~ [3/6]
■ 事例報告2/追手門学院大学
追手門学院大学 アサーティブ研究センター 研究員 志村知美
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室長 木村治生
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室長 木村治生
〔志村〕 本学がこれまで取り組んできたアサーティブプログラム、アサーティブ入試は現在、「第2章への幕開け」と位置づけています。4年前に大学教育再生プログラムの入試改革部門で採択されて以降、取り組みがかなり加速しました。受験生を「入れて終わり」ではなく、入学後のことも含めた教育設計と学生支援を行うため学術的にも検証できるようにアサーティブ研究センターが設立され、ベネッセとの共同研究を実施してきました。
まず簡単に、なぜこういったことに取り組んできたのか、はじまりについてご説明します。本学は大阪にある「分厚い中間層」を受け入れている大学だと認識しています。入学してきた学生と、「どうして追手門にきたの?」という世間話をしたのが始まりでした。ほとんどの学生が「不本意入学」と答えました。いろんな大学を落ちてうちにきた。指定校で来た子たちも、形としては専願入試なので第一希望のはずなのですが、高校内での選抜で落ちて「ここだったら指定校取れるし」ということで本学を希望してきた、という学生に出会ったのが、事のはじまりでした。
そこで、私たちが考えたのは、まず大学生になるレディネスをきちんと持って入学してきてほしい。そこで大事になるものとして、人間力ということを考えました。これがのちに「アサーティブネス」というものになるのですが、それぞれをきちんと評価して、足りないところを補いながら入学へと導いていきたい、その思いを形にしたのがアサーティブプログラム・アサーティブ入試になります。まったくもって新しい入試として導入したので、その成果をきちんと検証しないといけない、ということで、それを共同研究で検証しました。まず実施したことは、アサーティブプログラム・アサーティブ入試で想定した受験者像、入学者像に照らして、その像に合致する学生が実際に入学してきているのかを検証しました。この受験生像というのは、学部学科、大学として設定するAPとは別に、受験をする姿勢からきちんと持たせたい、という考えで設定しています。
次に、アサーティブ入試を経て入学した学生の学びと成長がどのようになっているか、入学して1年後の学生の成長について、検証しました。いま、学修成果の可視化ということが盛んに言われていますが、学修成果だけでなく、学びと成長のプロセスも可視化できないか、ということで取り組んできています。
アサーティブプログラムでは、簡単に言うと「自分とお話ししなさい、自分と向き合いなさい」ということを伝えています(資料p.50)。そして、オープンキャンパスや個別面談などでは、「自分がやりたいことはこれ」という1点だけを確認するのでなく、いろんな可能性があるということを自覚してほしいと伝えています。大学に合格する、入学することがゴールではなく、その先のこともきちんと考えてほしいということを伝え、その姿勢を養う目的でプログラムを実施しています。その結果として、高校生がいろいろ考えた上で、「やっぱり追手門学院大学へ行こう」と、自分で決めて挑戦する、そういった受験生が合格して入学してくれば、シラバスをしっかり活用し、意欲をもって授業を受け、学内の各種活動へも積極的に参加してくれるのではないか。入学前の受験生像と入学後の学生像は、そのような形でつながっています。
学内でそのあたりを歩いている在学生をつかまえて、「シラバスを使って授業を選んでいるか」と聞いてみたところ、「シラバスって何ですか」という学生にも出会ったことがあります。せっかく先生方が一生懸命作っているシラバスですから、それを読んで、「こんな授業をうけたいな、この授業をうけてこんな力を身につけたいな」とそんなふうに思いながら時間割を作ってほしい。そうすれば当然、講義への参加意欲も変わってくるであろうし、何事にもチャレンジをして授業以外の各種活動へも積極的な参加ができる、そういった学生になっていってほしいという思いで、検証に取り組んできました。
〔木村〕 私からは、検証の結果についてご報告します。今回の共同研究は、追手門学院大学の特色ある入学者選抜の成果と課題を可視化することを目的の一つにしています。検証に参画して、制度をより良くしていくために課題にあたる部分も見せていただきました。今日は、その部分も含めてお話しさせていただきたいと思います。
最初に、分析の枠組みです。先ほどから折々に「大学生基礎力レポート」というアセスメントの話がでてきています。これについてあまり説明していないので、「共同研究成果報告書」の12・13ページをご参照ください。
このアセスメントを使い、入学時と2年次に進級するタイミングの2時点で、同じ学生を調査しました(資料p.54)。これにより、<A>大学の特徴(資料p.54①)や学生の1年間の変化・成長(②)を、定量的に明らかにすることを試みました。そして、<B>そこで明らかになった成果と課題を定性的にも明らかにするため、インタビュー調査(③)を行いました。全体では、<A>定量と<B>定性の組み合わせの中で実態を明らかにする、という研究の枠組みを作りました。
検証の視点としては、「アサーティブ・ラーナー」の育成の実態をつかむことが中核にあります。アサーティブ施策が狙っている学生がきちんと獲得でき、その子が成長しているのかが第1点です。それに加え、アサーティブ生も含めて、大学全体として学生の学びと成長を追跡調査し、学内の施策の実施や改善に活用する仕組みを作ることを目標にしました(資料p.55)。
こちらが、量的調査からわかる成果と課題です(資料p.56、詳細データp.63-70)。まず、アサーティブ生に特徴的だったのは、第一志望の割合がきわめて高いことです。一般入試生の第1志望の割合が17%だったのに対して、アサーティブ生は89%。大きな開きがあります(資料p.64)。進路について明確なビジョンをもつ学生が多い、ということもはっきりした特徴として出ています(資料p.65-66)。それから、協調的問題解決力を発揮する学生が多いというのも、成果の一つです(資料p.67-68)。項目によっては入学時から2年次の変化で数値が下がっているように見えますが、全国データでも2年次にはこういうアクティブさを示す指標は下がる傾向があり、追手門学院大学だけが下がっているわけではありません。アサーティブ生は他の入試区分と比較して見ていただくと、入学時も2年次も積極的な学生が多いことが見て取れます。
一方で、課題に当たる部分として、相対的に基礎学力が低い学生が多い点が挙げられます(資料p.69)。基礎学力は、入学時は推薦生と同じくらいですが、2年次に相対的に低下する傾向が見られます。意欲を学力にどう転化するかが、大きな課題と言えそうです。ただし、学習習慣は入学後に改善しており、自習時間や読書量が増えています(資料p.70)。量的なデータからは、このような結果が明らかになりました。
次のステップでは、定量的な検証の結果を教育的に生かすにはどうしたらいいかを研究グループ内で議論し、教育改善の示唆を得るためのインタビュー調査を実施しました(資料p.57~)。
まず、アセスメント結果や成績・取得単位数などのデータをもとに、学生のプロフィールを多面的に確認するためのシートを作成しました(資料p.57)。これに基づき、学びのレディネスが低い、大学で成長実感をもてないといった学生を10名抽出し、学びの状況を言語化してもらいました(資料p.58)。ごく簡単に、資料p.59にインタビュー調査の結果の例を記載しています。詳細は、成果報告書に掲載していますので、そちらも併せてごらんください。結果として、半数くらいは大学での学びの意義を見出し、自力で何とかしていることがわかりました。学生自身にも、自分で成長する力があります。しかし一方で、半数の学生は、学ぶ目的を持てていないなどの課題を抱えていて、継続的に支援をしないといけない状況でした。
資料p.60は、質的調査からわかる成果と課題をまとめたものです。成果として、面談で自らの学びと成長を語ってもらうことを通じて、学生に振り返りと行動を促す教育的な効果があるということが明らかになりました。一方で、課題が残る学生がスクリーニングできた状況に対して、次のステップでどのように支援を仕組み化していくかということを考える必要があります(資料p.60)。
最後に、今回私たちは客観的な立場で実証研究に参加させていただきましたが、大学が検討すべきこととして3点挙げたいと思います(資料p.61)。
一つ目は、学ぶ姿勢はよいが成績が停滞している学生をどう支援するか。二つ目は、アサーティブ生を学内でどう位置づけるか。アサーティブ生は全学で1割くらいですが、インタビューをすると自分の成長をしっかりと言語化できることは確かです。そういう学生を一般生とどう融合させ、全体の学びを活性化させるか。三つ目に、アセスメントを活用したインタビューの有効性や教育的効果は確認できましたが、手間がかかることでもあり、これをどのように学内で仕組み化するかです。これらをどう解決するかについて、現時点でお考えのことを志村先生からご紹介いただきます。
〔志村〕 今後取り組んでいきたいと考えていることについて、ご紹介いたします。アサーティブ研究センターとしては、学びと成長の可視化に関する探索的仮説というものを立てました(資料p.51)。成績情報などの、学修成果の可視化のためのIRデータというのは学内にありますが、意識面や成長のプロセスの部分をどう可視化し、アサーティブ施策の成果を学内にどう説明していくかということで、「静と動の学び」という言い方をするようになってきました。
内部質保証を含む学修成果の可視化は、静的なものとして捉えています。一方、学生本人の中にあるキャリアの自己開発力の部分は、ころころ変わりますので、これを動的なものとして捉え、それらをセットにして見ていくということです。そうしないと、読書量やGPAなどを見ても、なぜ読書量が少ないのか、なぜGPAが低いのかというのは、この動的な方にかかってくるわけで、それを踏まえて助言、支援をしていかないといけないのではないか、というところが見えてきています。
学生と話をしていていて面白いなと思ったのが、「成長」という言葉の捉え方です。学生に「成長している?」と聞いたら、「小さいころブランコで遊び走り回って元気だったのにもうこの年になったらそんな体力がないから成長はしていない。むしろ退化している」と言っていて、「ああ、『成長』をそんなふうに捉えているんだ」という発見もありました。ですから、きちんと定義づけようということで、ここでいう私たちが考える成長は、いわゆる背が伸びるなどのgrowではなく、キャリアの自己開発、career development、これを成長と捉え、それを可視化してく。そのための指標として自己省察力、探索力、計画力を設定しました。この3つの力の詳細は、成果報告書の53ページに記載していますので、そちらをご覧ください。
この3つの力は、アサーティブプログラムの中で初めて会った高校生に対して確認していく指標ともなっています。そもそもアサーティブ入試は、学力の軸だけではなく、グループディスカッションや個別面談などの学力以外の軸、この2軸で評価する入試だと捉えていたのに、入学後は学力という1軸でしか見てもらえない、そのことにもどかしさを感じています。ですから、その2軸で入学後も評価ができるようにしたい、という思いで研究を続けてきました。
静的な評価としては、アサーティブプログラムでまず基礎学力をのばしてもらうため、MANABOSS(マナボス)という学習システムを提供しています。そこで学力を見直しながら、その成果を発揮する場所としてアサーティブ入試があり、基礎学力適性検査というかたちで学力試験を行います。そして、入学してきた学生に対しては、どの入試で入学してきた学生も同じように、基盤教育の中で、英語の基礎力検定試験というものを導入しようとしています(資料p.52)。これは学内で作っているのですが、学んだことを小刻みに確認してステップアップしていく。検定試験を受けながら、気が付いたら1年間ちゃんとできていたなあと感じられるような試験を導入していこうとしています。これを、まずは英語から試験的に始め、いずれは数的理解、日本語表現についても、検定試験という形で確認ができるようにしたいと考えています。
一方、動的な評価として、アサーティブプログラムの個別面談では、コンタクトシートという病院で言うカルテのようなもの、高校生がこんなことを言っていた、こんなバックグラウンドをもっている、というちょっとしたメモ的なものを蓄積しています。入試では、その記録は一切評価には入れていませんが、そういったものを踏まえながら入試に進んでいただいています。そして入学後、何かあったときに、そういえば高校のときにこんなことを言っていましたよということを踏まえながら、面談や電話をする際の参考情報として使えるようにしたいと考えています。
また、今後は、共同研究の中で設定した「自己省察力」「探索力」「計画力」の3つの力について、チェックリスト(報告書p.53参照)を併用しながら、情報を蓄積していきたいと思っています。それらを全て集約できるように、いま新しいポートフォリオ、これは「追大e-Navi」という名前になるそうなのですが、これを開発しているところです。データとして何を入れるか、誰が使えるんだ、ということを侃々諤々議論しているところです。教職員が使う「学生カルテ」と学生が使う「ポートフォリオ」、使い方をきっちり分けて、それぞれで必要なデータをどうみせていくか、そしてそれをどう支援につなげていくのか、これからの踏ん張りどころではないかと思っています。4月からはこれを試験的に動かし始めて、そこに必要なことを追加していくという見通しができていますので、できるだけ早く学生の支援ができるような、動的な部分と静的な部分を組み込んだシステムができればいいなと考えています。
これは今後学内で提案して実現していきたいと考えていることですが、そのポートフォリオにはアセスメントのデータなどもすべて入れて、必要な面談を実施できるようにしたいと考えています。今回、10数名の面談をして、かなり手応えがありましたので、これは全ての学生に実施していく必要がある、というセンターとしての認識があります。ただ、1学年1800人くらいの大学なので、これから誰がどれだけの面談をしていくのかというのは大きな課題ですが、1年生のときに新入生演習がありますので、一番いいのは、演習の先生方の協力を得てゼミの学生の面談をやっていただけると、きれいな割り振りができるのかなと考えています。
また、現在私が所属しているアサーティブ課は入試部に置かれているのですが、入学後の支援、ケアをしてくためにも、この4月から組織改編で教務部アサーティブ課として移管されることになりました。これも今後学内で提案していくものになりますが、教務部アサーティブ課として、先生方の負担にならないように面談がきちんとできる環境を整えられるようにできればと考えています。