小1プロブレムを乗り越えろ! 第1回 教育現場の現状を知ろう
- 教育
近年、小学校では「教員の話を聞かない」「授業中に立ち歩く」など、「小1プロブレム※」と呼ばれる現象が問題となっており、状況を改善するために各地の教育現場ではさまざまな取り組みが行われています。そこで今回は、幼児教育と小学校教育の連携について研究されている東京成徳短期大学教授の和田信行先生に、小1プロブレムの現状と幼保小の連携について伺いました。
◎5校に1校の割合で小1プロブレムが発生
東京都教育委員会の調査(2011<平成23>年11月)によると、都内の公立小学校の19.0%で、「授業中に勝手に歩き回る」などの「小1プロブレム」が発生しています。つまり約5校に1校に、こうした現象が起きているのです。
わたしは、「小1プロブレム」の要因は家庭のしつけや学校の指導力不足だけにあるのではなく、家庭、地域、保育園・幼稚園、小学校、それぞれが課題を抱えていると考えています。
まず、家庭や地域の課題として、人との関わりが不足している点が挙げられます。一昔前は、家庭には祖父母やきょうだいがいるのがあたりまえの生活でした。また、隣近所とは助け合い、地域で子どもを育てるという意識がありました。しかし、少子化や核家族化が進み、 地域社会が崩壊した現在、子どもが人とコミュニケーションする機会が減っています。そのために、十分に人とかかわる力や基本的な生活習慣が身についていないと考えられます。
次に、保育園・幼稚園と小学校でお互いの教育内容が十分に共有されていない点が挙げられます。たとえば、保育園・幼稚園ではチャイムはありませんが、小学校では時間割によって児童が動きます。また、イスに座っている時間も異なります。そうした違いに戸惑い、うまく適応できていない子どもも多いのです。保育園・幼稚園では小学校入学後の生活を見据えた経験、小学校では園時代の経験を生かした指導が求められています。
◎活発になる幼保小連携の取り組み
子どもたちが小学校にうまく適応できるように、保育園・幼稚園と小学校の連携の強化するために各自治体が取り組みをはじめています。その一例をご紹介しましょう。
◎保育園・幼稚園と小学校の交流事業:品川区中延保育園と中延小学校
小学校の空き教室を保育園の分園とし、保育園の5歳児の保育・教育を行っています。小学校で給食を食べたり、小学生との交流を行ったりして、小学校への滑らかな接続を目指します。
◎保育園・幼稚園・小学校の先生による交流研修:足立区
保育園・幼稚園職員と小学校職員が相互理解することを目的として交流研修に力を入れています。保育園・幼稚園職員は、1年に2回小学校を見学。自分の担当した子どもの入学後の姿や具体的な学習内容を確認します。小学校職員は保育園・幼稚園を訪問し、教育内容を見学します。
上記以外にも小学校へスムーズな移行を行うために幼保小が連携して、独自のカリキュラムを実施する自治体も増えています。また、東京都では、1クラスの人数が多い学級に教員を加配(教員増)したことで、小1プロブレム発生件数が減っているという調査結果も出ています。次回は、家庭でできる小学校入学準備についてご説明したいと思います。
※小1プロブレムとは(東京都教育委員会の定義)…
「第1学年の学級において、入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数か月にわたって継続する状態」
プロフィール
- 和田信行
- 東京成徳短期大学教授。小学校教諭を経て、1988年から都立教育研究所統括指導主事など教育行政に携わる。小学校長、幼稚園長などを経て2008年より現職。著書『小学1年生「わくわくドキドキ」カリキュラム』(学陽書房)、『「生活科」「総合」の授業づくり』(小学館)