【うちの子奮闘記】感情をほとんど現さない息子が号泣する姿に、「こんなに成長したんだ」と胸を打たれた 【うちの子奮闘記】感情をほとんど現さない息子が号泣する姿に、「こんなに成長したんだ」と胸を打たれた

2024.9.30

【うちの子奮闘記】感情をほとんど現さない息子が号泣する姿に、「こんなに成長したんだ」と胸を打たれた

息子は保育園の頃から、友達と会話のキャッチボールを続けたり、臨機応変に行動したりするのが少し苦手です。
そんな息子も小学6年生になり、中学受験に向けて受験勉強に励んでいます。
親として感じてきた十数年の葛藤や、少しずつ見えてきた対処法、親子を救ってくれた言葉などを振り返ってみました。

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

保育園でいつも1人遊び。臨床発達心理士からは「大丈夫ですよ」と言われたけれど…

息子は2歳頃から電車が大好きになり、家では電車のDVDを観たり、電車のおもちゃで何時間でも1人で遊んだりと、集中力に優れていました。

息子の発達が気になり始めたのは、保育園の年中クラスの頃。
2歳下の娘は言葉を話し始めるのが早く「お兄ちゃんと比べて、会話がスムーズだな」とたびたび思いました。
逆の言い方をすれば、息子に関しては「発達がゆっくりめだな」「感情の起伏が少ないな」となんとなく感じていたのです。

実際、保育園にお迎えに行くと、いつも1人遊び。
友達がうまくつくれないのでは…と先生に聞いてみると、「どちらかというと、好んで1人でいるみたいですよ」と言われて、ほかの子はお友達と遊ぶのを楽しんでいるのに…と不安になりました。
年長クラスに上がってから、月1回保育園にいらっしゃる臨床発達心理士の先生に相談してみました。
先生からは「確かに会話のキャッチボールがうまくいかないことはあるけれど、もう少し様子を見てもよいのでは」と言われました。

ただ私としては、「現状は理解できたけれど、本当にこのまま何もしないでよいのかな?」とモヤモヤが増えてしまった面もありました。
小学校入学に向けて、「うちの子にあったやり方があるのでは?」と悩みは募りました。

ただ、発達支援センターに息子を連れて行って相談しても、就学前健診で面談をしてもらっても、「まったく気になりませんでしたよ」「心配しすぎじゃないですか?」と言われるばかり。
息子は積極的に友達と遊ぶことはなくても、1対1での会話はできるので、先生方も発達特性に気づかなかったのかもしれません。

手はかからないけれど、抽象的な表現を理解せず、場の空気を読まない

こうして小学校生活が始まりました。
学校の成績は普通で、授業中に立ち歩いたりすることはありません。
先生からも「ときどき自分の世界に入って授業を聞いていないことはあるけど、本当に穏やかなお子さんですね」とほめられます。
だからクラスでも、「おとなしめの男子」というポジションで、特にいじめを受けているわけではないようです。

ただ、冗談が通じないところがあり、同級生がふざけて騒いだりしているときに「今は騒いじゃいけないんだよ」と何回も注意したりするようです。
保育園時代から同じようなことはあったのですが、当時はほかの子も周りを気にせずワーワー騒ぐので、息子1人が目立つことはありませんでした。
でも小学校高学年になって、場の空気を読んだ発言をする子も増えてくる中で、息子は思ったことをそのまま口に出してしまいます。
それが原因で、同級生から「ノリが悪い」「冗談が通じなくておもしろくない」とからかわれることも。
からかいの対象になっていることは、先生に教えていただいて知りました。
息子は事実を隠そうとしたわけではなく、特に「からかわれて悲しい」「悔しい」という強い感情を持たなかったため、私に話そうと思わなかったようです。

家で困ったのは、「ざっくりした言い方」がまったく通じないことでした。
例えば「今日は学校どうだった?」と聞くと、「8時10分に学校について、1時間目は国語で…」と、その日学校であったことを順番にすべて話そうとします。
本を読み終わったときに「どんなお話だった?」と聞くと、覚えている内容や人物のセリフを暗唱するのです。

息子はふだんまったく手がかからないし、気になる言動の一つひとつは小さなこと。
とは言え、「会話のキャッチボールがうまくいかない」「感情の起伏が薄い」「空気を読まない」という特性は、親としては心配です。
周りから「落ち着いたお子さんですよ」と言われると、安心する反面「わかってもらえない」という孤独感も感じましたね。

問いかけ方を変えてスムーズなコミュニケーションを促す

不安がたまったときは、息子より1学年下のお子さんがいる会社の同僚と、日頃感じている思いを話します。
それでも、息子の将来に対する不安でいっぱいになって、気持ちがふさいでしまうことも…。そこである日、民間の発達支援塾に出向き、進路相談会に参加してみました。
モヤモヤが完全に吹っ切れることはなかったものの、「発達の個性に理解のある私立中学への進学」という新たな選択肢に気づくことができたのです。
少し先の未来に目を向け、息子と一緒にいくつかの中学を見学する中で、息子も私も納得できる1校が見つかりました。
先生方がきめ細かい対応をしてくれるうえ、「鉄道研究会」という部活もあり、まさに息子にぴったりの中学です。
受験勉強では、国語は苦手ですが算数がかなり得意で、自信になっているようです。

新たな目標が見つかった頃から、私自身も「会話のキャッチボールがうまくいくよう、息子への働きかけを工夫していこう」と前向きに思うようになりました。
「今日は学校どうだった?」といった抽象的な問いかけが理解できないなら、「今日学校で一番心に残ったできごとは?」と具体的な問いかけに変換。
漢字の書き取りに取り組ませるときも、「ていねいに書こうね」ではなく、「十字のマスのここから書き始めるんだよ」など実践しやすい言い方を心がけるようになりました。
小さな取り組みですが、息子が少しでもスムーズなコミュニケーションをできるように会話を積み重ねています。

じっくり話を聞いてもらえたうれしさと安心感で、豊かな感情があふれ出した

小4の冬、息子の成長を実感できる忘れられないできごとがありました。
義妹のご両親が私たち親子を気にかけてくれて、遠方のお住まいに招待してくださったのです。
3泊4日の滞在中、おふたりは息子にじっくり耳を傾けてくれたうえで、「勉強頑張ってるんだね」「電車のことを本当によく知ってるんだね、すごいね」とほめてくれました。
私たち家族は、つい息子ができないことばかりに目を向けてしまうし、「誰の話をしているの?」「言葉の使い方が違うでしょ」などと話すのを遮ってしまいます。
でもおふたりは、息子が話し終えるまでじっくり聞いてくれたため、彼も安心して話すことができたのでしょう。
最終日、空港に送っていただいてお別れするときに、息子が号泣したんです。
物心ついてから泣いたことがなく、電車に関することで喜んだり興奮したりすることはあったけれど、人との関わりでは、こちらが心配になるほど感情を表現するのが苦手な息子が…。
きっとおふたりに信頼感を持ち、大好きになったからこそ、これほど気持ちが高まったのだと思います。
私は驚くと同時に、「人との関わりでこんなに感情が揺さぶられるようになったんだな」とうれしく感じました。
さらにこのときは、私も「お母さんも頑張りすぎなくていいんだよ」とおふたりに声をかけていただき、張り詰めていた気持ちがふっと楽になったのを覚えています。

中学校生活を楽しみにするように

中学受験が終われば、息子はいよいよ中学生。
「中学生になったら、夏休みを過ごした遠くの親戚のおうちまで電車で一人旅をしたい」と楽しみにしています。
家では口の達者な妹に口ゲンカで言い負かされることもありますが、その妹から「お兄ちゃんと同じ塾に行きたい」などと頼りにされる場面も。
息子が中学生、高校生と年齢を重ねても、悩みは尽きないと思います。
それでも、彼の長所を大切にしながら、ひとつずつ向き合っていきたいと思います。

まとめ & 実践 TIPS

毎日息子と向き合っていると、いいところを見なければと思いながらも、つい「〇〇君はできるのに…」とほかの子と比べてしまいます。
そんなとき私が思い出すようにしているのは、学校の先生や発達支援センターのかた、義妹のご両親がかけてくれたほめ言葉。
身内はどうしても厳しい目で「できないこと探し」をしてしまいますが、違う距離感で見てもらうことで、子どものいいところに改めて気づけることもあるのではないでしょうか。

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

企業向けメンタルヘルスサポート事業と、子供向けの発達・学習支援事業を行う。教員への発達支援研修や現場の実践に基づいた学習教材の研究開発、出版を行っている。