【専門家・体験談】ASD(自閉スペクトラム症)とは? 保護者はどうサポートする? 【専門家・体験談】ASD(自閉スペクトラム症)とは? 保護者はどうサポートする?

2023.11.22

【専門家・体験談】ASD(自閉スペクトラム症)とは? 保護者はどうサポートする?

発達障害の一つにASD(自閉スペクトラム症)があります。
「いつも通りに行動できないと嫌がる…」
「みんなに合わせて行動するのが苦手…」
「なかなか友達となじめない」

などのお子さまの様子に悩まれている保護者のかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、ASDの特徴やサポート方法などをご紹介します。

日常生活の中でのサポート方法や向き合い方について、保護者の皆さんからの体験談やコツもお伝えします。

監修者

榊原 洋一

さかきはら よういち


CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

自閉スペクトラム症(ASD)とは?

親の質問をオウム返しで答える子ども

発達障害の一つである、自閉スペクトラム症(ASD=Autism Spectrum Disorder)は、以前は特徴や状態によって、自閉症やアスペルガー症候群など名称で分類されていましたが、現在は「自閉スペクトラム症」に統一されています。

ASDのかたの状態は非常に多様です。

たとえば、乳児期に言葉の発達の遅れが見られ、聞かれているのにオウム返しで答えるなど、言語やコミュニケーションでの特性が見られるお子さまがいます。

成長とともにコミュニケーションができるようになる場合もありますが、意図が捉えられないなどの問題が残ることがあります。

一方、言葉の発達の遅れがなく、会話能力があるお子さまもいます。

ただ、「ちゃんと」「ゆっくり」などの曖昧な言葉の意味が理解できないことがあります。
他にも、席替えの際に、「一度前の席に戻りましょう」と先生が声かけをしたところ一番前の席に座ってしまうなど、言葉通りの意味に受け取ってしまうこともあります。

「ASDあるある」特性と、困りごととは?

自閉症スペクトラムの3つの特徴「常識やルールを察するのが苦手」「コミュニケーションが苦手」「想像力に偏りがある」

自閉スペクトラム症(ASD)のお子さまには、以下の3つの特性がよく見られます。

(1)一般的な常識・ルールを察するのが苦手

・人よりも物への興味関心が強い
・人との距離感が独特
・見知らぬ人に対する警戒心が薄い

相手の気持ちを察するのが苦手なために、悪気は無いのに、周りの人からは自分勝手、非常識などと思われて、怒りや反感を買ってしまうこともあります。
「こういうときはこうする」が自然に身につかないことも多いので、なるべく早いうちからソーシャルスキルトレーニングなどの療育を行うことで、成長とともに適応を促すことができます。

(2)コミュニケーションが苦手

ご飯を食べようと声をかける親と、パズルに夢中になっている子ども

・人と目を合わせにくい
・他者に対する興味関心が少ない
・自分の興味関心のあることを一方的に話し続ける
・相手が話しているのにも関わらず場を離れたり、違うことをしたりしてしまう
・周りの人と一緒に何かをする場面で、一人でいる

人の表情やしぐさを理解するのが苦手で、思ったことをそのまま伝えてしまうなど、コミュニケーションがスムーズにいかないことがあります。

(3)想像することが苦手

・新しいこと・もの・人に対して苦手意識が強い、激しく嫌がる
・決まったことをし続けることを好む
・考えや行動、感情の切り替えが苦手
・特定のものを集める
・同じことを繰り返す
・決められたこと以外はしたがらない

ASDによく見られる強いこだわりも、想像力の偏りが背景にあります。

次に起こることや新しいことを想像することが難しいため、同じパターンを繰り返すことで安心を得ているのです。

感覚過敏・感覚鈍麻が見られることも多い

学校で子どもが学習内容や指示をしっかり受け取れるよう、隣に座って個別に指示を出す先生

ASDのお子さまには、音や光、触感などに対する感覚過敏または感覚鈍麻が見られたり、特定の感覚を好んだりする場合があります。

たとえば以下のようなことが挙げられます。

・騒がしい場所に行くと手で耳をふさぐ
・太陽の光をまぶしいと感じ、カーテンで部屋を暗くする
・水を流しっぱなしにしてずっと手を入れている
・衣類のチクチクが気になってお気に入りの洋服ばかり着たがる
・偏食が目立つ
・暑さや寒さを感じにくい

ASDとADHDが併存することも

ASDとADHDの両方を持つ人も少なくありません。

アメリカの研究では、大人のASDの人の59%がADHDの診断基準を満たすという調査結果もあります。

ASDとADHDでは違ったイメージを持たれるかもしれませんが、例えばASDのお子さまで車に強い興味やこだわりを示す場合、車が来ると飛び出して行ってしまうなど、こだわりと衝動性が同時に出ることもあります。

他にも発達性協調運動症(DCD)、学習障害(LD)などが併存することもあります。

もしかしてASD?気になったら

一方的に話す子供と、驚く子供

ASDの人には、一般的な常識やルールを察するのが苦手なことなどから、大まかに以下の行動や特徴がよく見られます。

・目線が合わない
・人の表情や気持ちが読めない
・強いこだわりがある、パターン化されたものが好き
・コミュニケーションが苦手
・比喩がわからず言葉通りに受け取る

さらに細かくASDに見られる特徴を紹介します。

1.一人遊びが多い、一方的でやりとりがしにくい
2.おとなしすぎる、常に受動的
3.大人や年上の子、あるいは年下の子とは遊べるが、同級生とは遊べない
4.話は上手で難しいことを知っているが、一方的に話すことが多い
5.おしゃべりだが、保育士や指導員の指示が伝わりにくい
6.話を聞かなければならない場面で席を離れてしまうことが多い、聞いていない
7.相手にとって失礼なことや相手が傷つくことを言ってしまう
8.友だちがふざけてやっていることを取り違えて、いじめられたと思ってしまう
9.集団で何かしているときにボーッとしていたり、ふらふらと歩いていたりする
10.急な予定変更時に不安や混乱した様子が見られる
11.一つのことに没頭すると話しかけても聞いていない
12.落ち着きがない、集中力がない、いつもぼんやりとしている
13.忘れ物が多い、毎日のことなのに支度や片づけができない
14.ざわざわした音に敏感で耳をふさぐ、雷や大きな音が苦手
15.靴下をいつも脱いでしまう、同じ洋服でないとダメ、手をつなぎたがらない
16.極端な偏食がある
17.揺れているところを極端に怖がる、すき間など狭い空間を好む
18.身体がクニャクニャとしていることが多い、床に寝転がることが多い
19.極端に不器用、絵やひらがなを書く時に筆圧が弱い、食べこぼしが多い
20.運動の調整が苦手で乱暴に思われてしまう、大きすぎる声を出すことが多い
21.話が流暢で頭の回転が速いことに比べて、作業が極端に遅い
22.難しい漢字を読むことができる一方で、簡単なひらがなが書けない
23.図鑑や本を好んで読むが、作文を書くことは苦手
24.極端な怖がり
25.ささいなことでも注意されるとかっとなりやすい、思い通りにならないとパニックになる
26.一度感情が高まると、なかなか興奮がおさまらない

ご紹介した特徴は、「もしかするとASDかも」と気づく参考程度にしてください。

上記のような言動で日常生活や社会生活でお困りのようでしたら、まずは学校の先生やスクールカウンセラーに相談を。

必要があれば小児科医、児童精神科医、あるいは発達支援センターなどに相談してみると良いかもしれません。

ASDの対応方法は? 療育でコミュニケーションスキルを高める

子どもが話しているのを聞いている友達と先生

ASDと診断されても、得意不得意や、困りごとと程度はお子さまによってさまざま。

一人ひとりにあった対応を行うことが大切です。

ASDへの対応としては、発達のペースに応じた療育が大切になります。
療育とは、専門家から言葉やコミュニケーションの取り方、人との関わり方やルールなどを学ぶ、発達支援のことをいいます。

医療機関だけでなく、発達支援センターや放課後等デイサービスなどの公的・民間の施設があり、集団活動のルールや、コミュニケーションスキルを身につけていきます。

どう支える? ASDのお子さまのサポート方法

「最後まで話を聞けてすごいね」と子どもをほめる親

ASDに対する支援には、家族や学校などの周囲の理解とサポートが大切です。

子どもから大人までのライフステージに応じて、適切なサポートと理解を深めることで、ASDの人がよりよい日常生活と社会生活を送れるようになります。

ASDのお子さまのサポートの基本は、お子さまの特性を無理に変えるのではなく、環境に合わせて適応をはかるように支援していくこと。よい行動をしたときにほめて、よくない行動をしたときには「どうしたらいいのか」を具体的に伝えていくことが大切です。

よい行動も、「最後まで話が聞けてえらかったね」など、「どうしてほめられているのか」わかるよう具体的な声かけがおすすめです。

よくない行動をしたときに、「それはよくないよ」と伝えることも、察することが苦手なお子さまには必要なことです。しかし注意だけで終わってしまったり、全部代わりにやってあげてしまったりすると、お子さま自身が次にどうすればいいのかわからなくなってしまいます。

「こうやろうね」とよりよい行動を示し、お手本を見せながら一緒に取り組むことが、自分で生きる力につながっていきますよ。

【体験談】みんなはどうしている? ASDのお子さまのサポート

紙に書いた内容を指さし確認しながら読み上げる親と、聞いている子ども

ここまでASDの特徴やサポート方法などについてご紹介しました。

ここでは、ASDのお子さまを持つ保護者のかたに、お子さまの様子やご家庭でのサポート方法などについて伺いました。
一人ひとり特性は違いますが、お子さまへのサポートの参考にされてみてくださいね。

岡山県

年長以下保護者 もなり

息子は予定外のことや、したことがないものに取り組むのが苦手です。

前もって明日の予定を伝えたり、絵や写真を見せたりすると、受け入れやすいようです。

神奈川

小4保護者 カピさん

物の置き場を決め、できるだけ変えないようにしています。

こだわりが強いので、その場所にないと怒ってやる気をなくします。

置き場所を固定したことで、勉強や学校の準備などがスムーズにできるようになりました。

中1保護者 スケッチ

父兄も参加できる行事やイベントは、初めはなるべく一緒に行きます。

様子がわかれば次からはアドバイスをして一人で行かせたり、送迎だけしたりしています。

本人もパニックを起こすこともなくなり、自信になっていると思います。

福岡県

小5保護者  むっちん

自分の困りごとを発信できません。具合が悪くても体育に参加したことがあり、家に帰ってその話を聞いて驚いたことがありました。

そのため、困ったときにとるべき行動を絵で描いたSOSカードを作りました。

絵に沿って行動すれば良いので本人も助かると言っています。

まとめ & 実践 TIPS

粘土で動物をつくっている子どもと後ろから見守る親

強いこだわりを持つ、変化を嫌うというASDの行動特性。

本人の困りごとの原因となる一方、大人になって、集中力、記憶力、粘り強さといった長所となり、社会で活躍している方もいらっしゃいます。

特性について理解し、できることを見つけて、1つ1つ自信につなげていくことが大事です
特性を持ったお子さまが、自分らしい人生を生きるヒントになりましたら幸いです。

監修者

榊原 洋一

さかきはら よういち


CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問

著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)など。

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

企業向けメンタルヘルスサポート事業と、子供向けの発達・学習支援事業を行う。教員への発達支援研修や現場の実践に基づいた学習教材の研究開発、出版を行っている。