2023.11.13
【専門家】「一つのことしかできない」が心配。 マルチタスクに慣れるためのサポート法とは?
先生の話を聞きながら、メモをとる。
友達と雑談をしながら、教室の掃除をする。
このように複数の作業を並行して行う「マルチタスク」が苦手なお子さまがいらっしゃいます。
一つひとつの作業は単純なものに思えますが、その子にとっては異質な複数のことを並行してこなすことになり、どこから手をつけていいかわからないといったケースも。
「マルチタスクが苦手」なお子さまの不安を解消し、保護者のかたが寄り添いながらサポートする方法をご紹介していきます。
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。
「一つのことしかできない」のはなぜ?
一見簡単に見えることでも同時に複数のことを行うのが難しかったり、あるいは「それをやめて、こちらをやって」と言われても、実際に行動するのが難しかったりする場合があります。
背景には、次のような理由が考えられます。
認知機能が未発達
子どもはさまざまな体験を経て、認知機能(理解、判断、論理などの知的機能のこと)が発達していきます。
並行して複数のことができないお子さまの場合、それがまだ発達途中であると考えられます。
<例>算数の計算問題でくり上げと足し算を同時にするといった、違う作業を同時に行うことが難しい。
情報処理能力がうまく機能していない
見聞きした情報は脳の中でインプットされ、それが必要に応じてアウトプットされています。
しかし複数のことを同時に行うのが苦手なお子さまは、この情報処理能力がうまく機能していない可能性があります。
<例>班ごとに調べ物をするとき、友達からの指示を受けながら、先生の話を聞くことが難しい。
興味のあることに没頭しすぎている
好きなものに集中するのは子どもにはよくあることですが、それがいき過ぎ、没頭しすぎることによって他のことができなくなる場合があります。
<例>好きな工作に夢中になり、食事の時間になっても気づかない。保護者のかたが声をかけても手を止めない。
環境の問題
学習をする環境がうるさいなど、環境の問題で気が散ってしまい、複数のことを並行して行いづらい場合があります。
<例>隣の部屋からの騒音や会話が聞こえてくると、そちらに気を取られて勉強に集中できない。
背景に「発達障害」があることも
発達障害のひとつであるADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性を持っているお子さまは、複数のタスクを同時にこなすのが難しいことがあります。
また「ワーキングメモリ」という一時的に必要な情報を保存しておく記憶の量が限られていて、1つ指示をすると他の指示が入らなくなったり、スピードが追いつかず、同時に2つのことができなくなったりしてしまうお子さまもいます。
<例>お絵かきなど好きなことなら何時間でも集中して行うことができるが、その最中に何かを指示されても注意を向けられない。
マルチタスクができるようになるための7つのヒント
同時並行で複数の作業をするマルチタスクが苦手なお子さまに、保護者のかたがどのようにサポートをすればよいのでしょうか。
具体的な方法を7つご紹介します。
1 ステップは小分けに
やるべきことのステップはできるだけ小分けに、具体的に示してあげましょう。
例えば「算数の宿題をする」場合。
「ランドセルから算数の教科書を出す」→「教科書を出す」→「ノートを広げる」と、やることを細分化していくのです。
さらに「こことここを 足し算する」→「くり上げを考える」というように、具体的にやることを教えてあげましょう。
複数のタスクを小さなステップに分割し、一つずつ達成することで、自己肯定感が高まり、集中力が維持できるというメリットもあります。
2 集中できる環境づくりを
話し声やテレビの音、身の周りの目につくものなど、様々な刺激に気を取られないように、環境を整えてあげましょう。
安心して一つのことに取り組める環境にすることで、今やるべきことに落ち着いて向き合うことができます。
3 上手に休憩を取れるように声かけを
並行して物事を行うのが難しいお子さまは、集中力の持続時間が短く、集中力をコントロールすることが苦手な傾向があります。
保護者のかたは適切なタイミングで休憩が取れるように、声をかけてあげましょう。
4 小さな一歩に、自信のつく一言を
目に見える成果が出るまでに時間がかかり、「これでいいのだろうか」と不安になるお子さまもいるようです。しかし、小さなステップも確実な進歩です。
保護者のかたは、一つひとつの小さな一歩に自信をつけられるよう、「ここまでできたね!」「すごく進んだね!」など、こまめに声をかけてあげるのがオススメです。
お子さまに自信がつくだけでなく、次のやるべきことに対して、意欲を引き出すことができます。
5 指示やアドバイスは「1つずつ」
子どもの間違いに気づくと、大人としてはその場でいろいろと言いたくなってしまいます。
しかし、多すぎる指示やアドバイスは混乱のもとに。直してほしいことは、あえて1つに絞りましょう。
6 指示をする時にはいったん注意を向けて
作業しながら話を聞くのが苦手なお子さまの場合、何かに没頭しているときには、いったん手を止めさせ、こちらに注意を向けさせてから話をしましょう。
話が伝わりやすくなります。
7 勉強中は一つのことに集中させて
先生の話を聞きながら書くことが苦手など、学習面での苦手さが出ている場合には、学校とも相談を。
話を聞くことに集中させてもらったり、書けなかったところを後からフォローしてもらったりなど、お子さまの状態に合わせた対応を相談してみるのもいいでしょう。
まとめ & 実践 TIPS
お子さまが「聞く」「書く」などのどちらかしかできないなど、同時にいくつものことを行うのが苦手な様子を見ると、不安を覚える保護者のかたもいらっしゃるかもしれません。
しかし適切なサポートや対処法を取り入れることで、少しずつ困りごとを減らしていくことが可能です。
お子さんにあった工夫や支援を行うことで、お子さまに自信がつき、意欲的に日々を過ごせるようになるといいですよね。
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。