【専門家・体験談】ワーキングメモリとは? 発達障害との関連やサポート方法を解説 【専門家・体験談】ワーキングメモリとは? 発達障害との関連やサポート方法を解説

2023.11.13

【専門家・体験談】ワーキングメモリとは? 発達障害との関連やサポート方法を解説

「よく物をなくす」
「直前の指示を忘れてしまう」
「忘れ物が多い」
こういったことは誰にでもあるかと思います。

しかし、たびたび見られる場合、ワーキングメモリに原因がある場合があります。
ワーキングメモリとは、必要な情報を一時的に記憶しておく脳の機能のこと。
ワーキングメモリの容量が小さいと、多くのことを記憶できず、忘れ物などをしやすくなります。
また、発達障害のあるかたの中には、ワーキングメモリの働きが弱く、日常生活や学習に影響が出ているかたもいらっしゃいます。

この記事では、忘れ物や聞き漏らしなど、ワーキングメモリを原因とした困りごとの対処法をお伝えします。

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

ワーキングメモリとは? 低いとどうなる?

漢字ノートを忘れてしまった事に気づく子ども。学校から保護者へのお知らせプリントを親に渡し忘れてうつむく子ども

ワーキングメモリとは、話をしたり聞いたり、計算したり、作業をしたりする時に、必要な情報を一時的に保存して処理するための脳の機能です。
作動記憶、作業記憶とも呼ばれ、 “脳の作業台” “脳のメモ帳”などと例えられることもあります。

例えば、紙に書かれた電話番号を見て、いったん目を離して電話をかけるとき、その数字はワーキングメモリに保存されます。また、人と会話をするときには、ワーキングメモリに一時的に相手の言葉を記憶したうえで、的確な言葉を返しています。
このように、ワーキングメモリはコミュニケーションや読み書き、計算などの基礎となる、日常生活や学習において大切な機能です。

大きな机でたくさんの情報を整理して1つ1つ処理していく子供。小さな机でたくさんの情報を目の前にして焦る子ども

ワーキングメモリの容量は人によって違いはありますが、限りのあるものです。
作業台が小さければ載せられるものが限られて作業しにくくなるように、ワーキングメモリの働きが弱い場合は、一時的に記憶できることが少なくなるため、さまざまな困りごとが生じることも。

【ワーキングメモリが弱い場合の困りごとの例】

・聞いたことをすぐに忘れてしまう
・忘れ物が多い
・身の回りのものをよくなくす
・指示されたとおりに行動するのが苦手
・気が散りやすく集中力が続かない
・読み書きや計算が苦手
・前の話を踏まえて次の話を聞けないため、意図を捉え違えてしまう

発達障害のかたの中には、ワーキングメモリに起因する苦手さを抱えている方が少なくなく、困りごとの現れ方も人それぞれです。
ですが、必ずしもそうとは限りませんし、困りごとの現れ方も人それぞれです。

学齢期のお子さまの場合には、学習や生活上のつまずきの背景をつかむため、WISC(ウィスク)などの知能検査で、ワーキングメモリの測定を行うことがあります。

専門家に自分の子供について相談する親

お子さまの様子で気になることがある場合は、一度、学校の先生やカウンセラーに相談したうえで、必要があれば専門機関などで相談するとよいでしょう。

ワーキングメモリは伸ばせる?

ノートに漢字を書く子ども

学齢期のお子さまは、ワーキングメモリに限らず、学習や体の使い方などさまざまな力が伸びていく時期でもあります。
発達障害のお子さまのワーキングメモリも、個人差こそあるものの、成長とともに伸びていく力でもあります。
例えば、小学2年生のときには九九が覚えられなかった子が、4年生くらいで復習をするとすっと覚えられることもあります。

必要なことを覚える練習をして「作業台」の成長を促す刺激をしつつも、苦手さを苦手さとして捉えて、他の方法でサポートすることも検討していきましょう。
サポートには、例えば以下のようなことが考えられます。

覚えるべきことは楽しく学ぶ

九九がなかなか覚えられないのに、好きなキャラクターや電車の名前などは一度で覚えられることがありますよね。
興味を持ったものは「必要な情報」として長期記憶に残りやすくなります。
そのため、楽しんで学ぶことが大切です。

語彙を増やす

紙に書いた内容を指さし確認しながら説明する親と、聞いている子ども

語彙が増えるほど、聞いた話が整理しやすくなり、覚えやすくなります。
意味のよくわからないことは忘れやすくなるので、語彙力を身につけるのも助けとなります。

記憶ゲームをする

トランプの神経衰弱のように、記憶を使ったゲームをすることも、覚えることに対しての楽しさを感じられる機会になると言えます。

意味づけをする

無意味なものほど覚えにくくなりますので、意味づけをして覚えやすくするのも方法の一つです。
例えば「台」という字が何度書いても身につかない場合には「カタカナのムとロで台」など、意味づけをすることで覚えやすくなることがあります。

日常生活や学習での困りごとへの対策は?

壁に「16時から宿題をやる」という張り紙をつけて勉強をする子ども

ワーキングメモリが弱い場合でも、さまざまな対策で日常生活や学習の困りごとを防いだり、緩和したりできます。
お子さまにとって特に難しさがあるのはどんな場面か、学校や周囲のかたとも情報共有しながら、サポートしていきましょう。

【困りごとのサポート例】

●忘れ物が多い、身の回りのものをよくなくす場合は?

1人で歯磨きを上手にできた子供と褒める親

・一緒に持ち物の準備をする
・お子さまが準備した持ち物を確認する
・「7時:起きる」「8時:登校」「15時:宿題」などと予定を書き記す
・メモに書いておく、保護者のかたがメモに書いて渡す
・筆箱やランドセルのよく見る場所にメモを入れる

●指示されたことを忘れやすい場合は?

事前に画像を検索して行く先のイメージを親子で共有

・「今日は◯◯に行くよ」など、結論を先に伝える
・「大切な話をするから聞いてくれる?」と、お子さまの気持ちがこちらに向いていることを確認してから指示を伝える
・「今言ったことを思い出せるかな?」と、復唱させる
・指示は1つ1つ出すようにして、なるべく一度に複数の指示を出さない
・「最初にハサミで切る」「次にのりで貼る」など話は短く区切る
・集団で行動する場面では個別にも指示を伝える
・聞き漏らしてしまったことを聞きに来たら叱らずに教える

●気が散りやすく集中力が続かない場合は?

数を正しく数えることができた子供と褒める先生

・10分や15分など、学習時間を短めに区切って、こまめに学習内容を振り返る
・「まずはこの部分を考えよう」と細かく手順を伝える

●読み書きや計算が苦手な場合は?

学校で子どもが学習内容や指示をしっかり受け取れるよう、隣に座って個別に指示を出す先生

・解き方や手順など大切なポイントを、ノートやメモに書き記しておく
・頭の中だけで計算せず、途中の計算を書き出すよう習慣づける
・問題を図に書いて説明する
・文字を読んで覚えるのが苦手な場合は、問題を読み上げるなど、音声を活用する

まとめ & 実践 TIPS

自宅でソファーに座って会話を楽しむ親子

忘れ物をする、指示されたことがうまくできないといったことが続くと、「なぜだろう?」「どうすればいいんだろう?」と悩んでしまうかもしれません。
また、お子さまと一緒に確認したり、こまめに声かけをしたりすることも、負担に感じることもあるでしょう。

ただ、お子さま自身も覚えきれずに注意されることが増えてしまうと、自信をなくしてしまったり、逆にもっと忘れ物が増えてしまったりすることにもつながりかねません。

ですので、まずはできていることからほめて、励ましながらサポートしていきましょう。いろいろな工夫をしながら、忘れ物が減ったり、話を聞くことができたりしたときには、保護者のかたの無理のない範囲で、ほめてあげてくださいね。

少しずつゆるやかに、お子さまの状況や特性に合わせた対応で、困りごとを減らしていけるといいですね。

監修者

山﨑 衛

やまざきまもる


マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。

企業向けメンタルヘルスサポート事業と、子供向けの発達・学習支援事業を行う。教員への発達支援研修や現場の実践に基づいた学習教材の研究開発、出版を行っている。