2023.10.11
【体験談・専門家】発達障害と診断されたら 小学校入学・進級前に準備するとよい3つのこと
お子さまが進級や進学をするとき、発達障害のお子さまの保護者のかたの中には、「新しい環境に子どもが馴染めるか心配」「何を準備すればよいのかわからない」と不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
そこで、特別支援教育の第一人者である小池敏英先生 (尚絅学院大学特任教授)に、『入学・進級に向けて、家庭で取り組んでおくとよいこと』について、お話を伺いました。
先輩保護者の体験談もありますので、ぜひ入学前の参考にされてみてくださいね。
※本記事では、一般的な見解をご紹介しています。お子さまの発達状況や学習レベル、地域や学校によって対応はさまざまですので、詳しくはお子さまの入学・進級される学校や園にご確認ください。
目次
監修者
小池敏英こいけとしひで
尚絅学院大学特任教授 東京学芸大学大学院 教育学研究科修士課程
—発達障害のお子さまを持つ保護者のかたが、入学・進級前にやっておくとよいことは?
まずは、今のお子さまの「できないこと・苦手なこと」の状況を保護者のかたがしっかり把握し、それを入学・進級先に伝えられるよう準備しておきましょう。例えば、「じっと座っていることが苦手」「緊張すると、落ち着いていられない」といった内容です。
その際、「できないこと」だけを伝えるのではなく、「こうすればできる」という条件まで整理しておくとよいでしょう。
例えば、「15分以内なら、じっと座っていられる」「周りにいる人が5人以下の環境なら、落ち着いていられる」という風に、日頃保護者のかたが意識している工夫を、担任の先生や学校・園側としっかり共有しておくことが大切です。
そうすることで、お子さまが「できる状態」を周囲がサポートしやすくなります。
—発達障害の特性をふまえて、学習面で準備しておくとよいことは?
語彙が苦手なお子さまは、「た抜き言葉」「カルタ」などの言葉遊びに日頃から取り組んでおくのがおすすめです。
「た抜き言葉」とは?
「たぬきから"た"を取ると何になる?」「いるかから”る”を取ると何になる?」という風に、お子さまになぞなぞのように問いかけてみる遊びです。いきなり3文字が難しければ、2文字の簡単な言葉から始めて、少しずつ文字数を増やしていきましょう。
「カルタ」遊びとは?
ひらがなが1文字ずつ書かれたカードを使い、知っている言葉を一緒に組み立てていく遊びです。例えば犬の絵を一緒に見せながら「い」「ぬ」のカードを見せて、「いぬの"い"だね」という風に教えます。絵とセットで教えることで、語彙の定着が深まりやすくなります。2文字の簡単な言葉から始めていきましょう。
これらは時間をかけて繰り返すことで、徐々に言葉の定着につながっていきます。ほかにも、「しりとり」は語彙力を高めるだけでなく、親子のコミュニケーションにもつながるのでおすすめです。
—発達障害のお子さまが新しい環境に慣れるために、保護者のかたは何をすればよい?
これから新しい生活が始まれば、保護者のかたは新しい心配ごとに出あうかもしれません。
心配なことはできるだけ担任の先生や学校・園に伝え、皆で一緒にお子さまをサポートしていく環境を作っていきましょう。保護者のかただけで負担を抱えこまないことが重要です。
また、思うようにいかない時は、一度やり方や環境を変えてみましょう。
例えば、語彙の練習があまり進まなくなってきたら、うんとハードルを下げたところから再び始めてみてください。 どんなに小さなことでもよいので、お子さまが「できる状況」に誘導してあげましょう。親子共に達成感を得ることが、日々の自信につながっていきます。
それでも大変に感じてしまうときは、「親」として向き合うのではなく、お子さまの「支援者」や「学習パートナー」になりきってみるのもおすすめです。
実際、発達障害のお子さまを支援する現場では、『一般の基準に子どもを当てはめない』『その子のペースで、できることを認めていく』という考え方があります。
保護者のかたも同様に「できる状況」を大切にしてお子さまと接してみることで、心の持ち方が少し変わるかもしれません。
【体験談】発達障害のお子さまを持つ保護者のかたが、学習や環境に慣れるためにしたことは?
最後に、学習や生活をよりスムーズにするために、保護者の皆さんが行っていることをご紹介します。お子さまの様子に合わせて、進級や入学前に取り組んでみてくださいね。
栃木県
小2保護者 なる
環境の変化が苦手なので、前もって情報を与えるようにしています。
また、話だけでは想像することが難しく、画像を見せると頭に入りやすいようです。
愛知県
小4保護者 いの
スケジュールを頭の中で組み立てることができず、一度にたくさんの指示を出されると動けなくなる子です。
家では、やることを書き出してリストにして見せました。やる順番は自分で決めてもらい、終わったものから線で消していくようにしました。
福島県
小2保護者 あじゃらん
入学前から、リモコンや時計、パソコンのキーボードのようなものの絵を描くのが好きでした。
それをもとに字や数字、時計の読み方、アルファベットを自分の力で習得していきました。
保護者 ゆいそう
口頭での指示が通りにくいので、話をする際には、手を止めさせてこちらを向かせてからするようにしています。
学習面に関しては、すぐに動画を見ようとするので、「その前にすることは何だった?」と声かけをして気づかせています。
宮城県
小2保護者 ミカエル
初めてのことや場所が苦手なので、新しい場所は下見させると、当日、パニックにならずに活動に参加できました。
兵庫県
小3保護者 ゆり
就学前は、お支度ボードのような「一日のやることリスト」を作っていました。
何をすればいいか目で見てわかるのが本人に合っていたようです。
今は(勉強や遊びの予定などの)計画を一緒に立てて、それに沿って活動しています。
小1保護者 カタツムリ
人の話を聞くのが苦手なのですが、とにかく少しでも聞けたら、大げさな程にほめまくっていました。
すると、年長~小1くらいには少しずつ話が聞ける時間が増えてきました。
(小1保護者 カタツムリ)
まとめ & 実践 TIPS
これから新生活が始まると、お子さまにとっても慣れるまでの苦労があるかもしれません。
日々の生活においては、どんな些細なことでもよいので「できた体験」を積ませ、”うまくいったね”と言葉でたくさん伝えてあげましょう。それがお子さまの自信となり、親子の信頼関係にもつながります。
保護者のかたもあまり気負い過ぎず、周囲と一緒になって、お子さまの新しい生活をサポートしていけるとよいですね。
監修者
小池敏英こいけとしひで
尚絅学院大学特任教授 東京学芸大学大学院 教育学研究科修士課程、東北大学教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。東京学芸大学教育学部 教授を経て2019年4月より現職。