いすに座っていられない子[教えて!親野先生]
- 教育
今週の相談
小学1年生の息子の学習態度について相談します。学校でもじっといすに座っていることができず、常にきょろきょろカラダを動かしています。鉛筆なども右手で書いたり左手で書いたり2本いっぺんに書いたりとふざけています。なんとか落ち着かせて学習させたいのですが、注意すると口答えをして反抗します。プラモデルや図鑑など自分に興味のあるものについてはこちらが驚くほど集中してじっと取り組んでいます。その集中力を学習にも向けてほしいのですが……なかなかうまくいきません。学校では机の周りにも私物が散乱していて、いつも注意されているのですが……。(ユミリンさん)
【親野先生のアドバイス】
ユミリンさん、拝読いたしました。
親としては、とても心配になりますね。
そして、どうしても注意したり叱ったりすることが増えてしまうと思います。学校の先生のほうも同じでしょう。でも、一番つらいのはその子だということを、常に心に留めておいてほしいと思います。子ども自身、こういう自分をどうしようもないのです。注意されたり叱られたりしても、平気な様子に見えるかもしれません。本人はちっとも感じていないように見えるかもしれません。でも、心の奥底では、つらいのです。できないこともつらいし、注意されることもつらいのです。
子どもだって、常にきょろきょろしていたいわけでもないし、机の周りを散らかしておきたいわけでもないのです。注意されたり、それに対して口答えしたりしたいわけではないのです。本当は、全部しっかりやりたいのです。でも、できないのです。いくら注意されても、できないのです。
ですから、注意したり叱ったりでは解決できないのです。そのことを、まず、心に留めておいてほしいと思います。
もしかしたら、ADHDの可能性があるかもしれません。ADHDは、日本語では「注意欠陥・多動性障害」と呼ばれ、注意力の欠如・多動性・衝動性などがその特徴です。ADHDかどうかは専門家でないと判断できないことですから軽々には言えませんが、可能性としてはあると思います。
子どもの約5パーセントがADHDと言われているので、クラスに2人くらいということになります。また、ADHDではなくても、それに近い子となればもっとたくさんいるのです。
ただ、親としては、専門家に診てもらうこと自体に抵抗があるかもしれません。
もしかしてそういう病名がついたら、と考えるだけでもいい気はしないものです。でも、逆に、それで親子共々楽になることもあるのです。
まず、親の接し方やしつけに問題があったわけではないとわかりますので、それだけでも親は楽になります。そして、親も先生もただ注意したり叱ったりしても意味がないことがわかりますので、そういうことをしなくなります。
そして、ADHDの特徴に応じた正しい対応方法を学んで実践することができるようになりますので、その分子どもも楽になるのです。楽になるだけでなく、いい方向にどんどん伸ばしてもらえるようになります。そうすれば、成人してからも立派にやっていくことができます。
何よりも、ふまじめな子だとかやる気がない子だとか思われなくなるということは、とても大きいと思います。
ADHDの子やそれに近い傾向をもつ子にとって、この正しい対応方法はとても大切です。それがなくて注意されたり叱られたりすることが多いと、自尊感情がなくなり自分に対する良いイメージをもつことができなくなってしまいます。このような2次障害のほうが、ADHD自体よりも大きな問題になることがあるのです。
特に、次のような対応が大事です。
・ほめることを多くして、自信をもたせると同時に親子関係を良くする
・生活の流れを無理のないものにして、自然にできるようにする(叱らないシステム)
・守るべきことや手順を書いて、目に付くところに置いたり貼ったりする
・指示は1度にたくさん出さないで、1つずつ出す
・決して感情的に叱らない
・望ましくない行動は、その場で穏やかに簡潔に諭す
これらのことは、ADHDやその傾向のある子だけでなく、全ての子にとって大事なことでもあるのです。ですから、親と先生は、どの子にもこのような対応をするべきなのです。
ユミリンさんも、相談の息子さんがADHDであるかどうかに関わらず、これでいってください。
このようなわけで、私は、一度専門家に診てもらうことを考えるといいと思います。その前段階として、担任、保健の先生、市町村教育委員会の臨床心理士などに相談するのもいいでしょう。また、ご自分でも、関係の本やインターネットで勉強することも大切だと思います。
私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。少しでもご参考になれば幸いです。ユミリンさん親子に幸多かれとお祈り申し上げます。
プロフィール
- 親野智可等
- 教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。