薩長同盟の背景にあるそれぞれの思惑とは？敵対していた薩摩と長州がなぜ同盟を結べたか？

薩長同盟は、敵対していた薩摩藩と長州藩が、徳川幕府を倒す目的で結んだ同盟関係です。薩摩藩からは小松帯刀（こまつたてわき）、西郷隆盛（さいごうたかもり）、長州藩からは木戸孝允（きどたかよし）、土佐藩の坂本龍馬（さかもとりょうま）、中岡慎太郎（なかおかしんたろう）らが関わっています。

長州藩の孤立

薩長同盟は、薩摩藩、長州藩のどちらにもメリットがある同盟でした。薩長同盟の目的を知るために、まずは当時の薩摩、長州藩、幕府がそれぞれ置かれていた状況について解説しましょう。

1863年、攘夷派（じょういは：外敵を撃ちはらおうとする立場）だった長州藩は、下関の関門海峡を通過する外国船を砲撃するなど、過激な活動を行っていました。

ところが、会津藩や保守派の公家ら、長州藩の思想を排除したいと考える人たちが手を組み、朝廷工作を行い、長州藩の勢力を朝廷から追い出しました。これを八月十八日の政変といいます。

1864年には、池田屋事件をきっかけに長州藩が京都に出兵しますが、薩摩藩、会津藩がこれを打ち破りました（禁門の変もしくは蛤御門の変）。長州藩は、朝敵、つまり朝廷の敵となってしまうのです。朝廷の勅命により、幕府主導で「第一次長州征討」も実施されました。

長州藩を窮地に陥れたのは国内の勢力だけではありません。イギリス、アメリカ、フランス、オランダの四国連合艦隊が、関門海峡に集結して砲撃を行います。下関に上陸して、陸戦も行われました。

さらに四国連合は周防灘の往来を封鎖して、長州藩内は物資不足、物資の高騰に見舞われます。幕府、朝廷、外国から標的にされた長州は、たまらずに降伏を申し出ました。

討幕派が優勢になった薩摩藩と長州藩の接近

四国艦隊の攻撃力を目の当たりにしたことで、長州藩内では、攘夷派から討幕派へと考え方が変わりつつありました。他方、1863年に薩英戦争でイギリスに鹿児島城下を砲撃された薩摩藩も、倒幕へと動き出していたのです。

そこで動き出したのが土佐藩を脱藩した坂本龍馬と中岡慎太郎です。ともに倒幕を目指しているのであれば、薩摩藩と長州藩が手を組むべきと考えたのです。この考えには薩摩藩の西郷隆盛も賛成します。

1865年5月、坂本龍馬と中岡慎太郎は両者を仲介して、伊藤博文（いとうひろぶみ）、井上馨（いのうえかおる）とともに長崎におもむきます。そこで、坂本龍馬は、軍艦や銃を長州藩にあっ旋することを約束します。

同年9月、幕府内は長州藩が倒幕に傾いていると知り、第二次長州征伐の勅許を得て、再び長州を攻めようとしました。しかし、幕府内では長州征伐への慎重論が強く、すぐには実現しません。たとえば、薩摩藩の大久保利通はこの勅許を「非義の勅命は勅命に非ず」と批判しています。

そうこうしているうちに、第二次長州征伐が実施される前の1866年1月、小松帯刀邸で両陣営の会談が行われ、薩長同盟が締結されます。ようやく薩摩藩と長州藩が手を組んで、討幕運動が加速することになるのです。

薩長同盟に関わった人々の思惑とは

薩長同盟にまつわる薩摩藩、長州藩、坂本龍馬それぞれの思惑を考えてみましょう。

薩摩藩には、薩長同盟を締結することで、長州討伐による薩摩国力の低下を避け、倒幕を進められるというメリットがありました。長州藩にとっては、薩摩藩を経由して武器が手に入ること、そして孤立が解消される点がメリットです。

薩長同盟を結ぶまでの長州藩は、幕府から敵とみなされ、他藩からも孤立していた状態でした。これを解消して倒幕に向けて動き出せることは、長州藩にとっては大きな魅力です。

では、坂本龍馬や中岡慎太郎にはどのようなメリットがあるのでしょうか。彼らは脱藩をしているため、土佐藩の利益のためだけには行動しません。彼らの行動の原動力には、日本の国力の強化があったと考えられます。また、薩摩藩を経由した武器ビジネスにも介入できるため、経済的なメリットもあったと言えるでしょう。

薩長同盟は、正式には「薩長連合密約六ヶ条」と言います。その名の通り6つの条文からなっており、長州征伐が始まった場合の薩摩藩の行動や薩摩藩が朝廷に対して行うべきことを規定していました。

大政奉還

薩長同盟が締結されたあと、第二次長州討伐が決行されますが、幕府軍は長州藩に打ち破られます。薩摩藩はこの戦いには参加していません。

この第二次長州討伐中に14代将軍徳川家茂（とくがわいえもち）が死亡。翌1867年10月、15代将軍徳川慶喜は朝廷に大政奉還を申し出ました。そして12月には王政復古の大号令が発せられ、徳川幕府の時代は終わりを告げることになるのです。

ところが、旧幕府軍はこれに抵抗をして挙兵し、1868年には新政府軍と旧幕府軍が衝突します。これが鳥羽伏見の戦いです。旧幕府軍の一部は、江戸城を占領されたあとも抵抗を続け、明治維新後、五稜郭の戦いで敗れるまで戦い続けます。

薩長同盟に関わった人々のその後

薩長同盟で手を組み、倒幕に成功した薩摩藩と長州藩の主要人物たちは、新政府で要職に就くことになります。

薩長同盟に尽力した坂本龍馬と中岡慎太郎は暗殺され、西郷隆盛ものちの西南戦争で命を落としますが、伊藤博文が初代総理大臣、木戸孝允は参与、参議として活躍しました。

大久保利通は岩倉使節団に参加してヨーロッパで知見を深め、殖産興業に尽力します。井上馨は伊藤博文の元で外務大臣として条約改正に取り組みました。

薩長同盟は倒幕を進め、日本の近代化を早めただけでなく、のちの日本の礎をつくる主要な人物が手を組み、仲間として歩み出した重要なきっかけであったとも言えます。

薩長同盟についてお話しましたが、実際に成立にいたるまでには、なみなみならぬ苦労があったと言われています。

そもそも、薩摩と長州は犬猿の仲であり、双方が手を結ぶことは容易ではないと考えられていました。長州には第一次長州討伐で薩摩に攻撃された恨みもあります。

積年の恨み、こじれた関係を水に流させ、取り持ったのが坂本龍馬だと言われています。坂本龍馬が長州側をしきりに慰め、薩摩側に熱心に働きかけてようやく締結にいたったのです。

坂本龍馬の才能、能力についてはさまざまに語られていますが、薩長同盟において際立ったコミュニケーション能力が発揮されたように思えます。

歩み寄りが難しい両者を、双方にとって利のある話で結びつけることで、わだかまりを軽減させました。坂本龍馬のコミュニケーション能力の高さは、彼が多く残している手紙からもうかがい知れます。チャーミングで楽しい手紙を方々に残しているのです。

龍馬が備えたコミュニケーション能力は現代でも大切とされている能力です。的確なコミュニケーションが生まれることで、わかり合える仲間が増え、人生はより豊かなものにすることができます。

楽しいことだけでなく、悲しかったこと、悔しかったことなどを家族や友人に積極的に伝えることで、コミュニケーション能力を培ってみましょう。

京都市東山区にある「京都霊山護国神社」には、明治維新に尽力した数多くの志士たちが眠り、薩長同盟に尽力した坂本龍馬や中岡慎太郎らが祭神として祀られています。

境内には坂本龍馬・中岡慎太郎像が設定されているほか、明治維新に関する資料を展示する「霊山歴史館」もあり、薩長同盟はじめ幕末・明治維新について学ぶにはうってつけの場所となっています。

坂本龍馬の誕生日・命日である11月15日には、龍馬を偲ぶ龍馬祭の開催も。ぜひ足を運んで、幕末・明治維新に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。