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清少納言が作者の『枕草子』に学ぶ美意識とは?

『枕草子』とはどんなお話なの?

『枕草子』は平安中期頃の時代に書かれた随筆で、『方丈記』『徒然草』と並ぶ、日本三大随筆のひとつです。作者は清少納言(せいしょうなごん)という皇后定子(こうごうていし)に仕えた女房で、日本最古の随筆とも言われています。

『枕草子』は、文章の長短・形式・内容ともにさまざまな約300の章段で構成されていますが、特徴的と言えるのは、他の文学作品に類を見ないくらい「同じ種類の事柄を集めた章段を含んでいること」です。「山は」「河は」「すさまじきもの」「ありがたきもの」などから始まる段が代表的です。例えば、『枕草子』第72段の『ありがたきもの』では、

原文:ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜。主そしらぬ従者。つゆのくせなき。かたち心ありさますぐれ、世にふる程、いささかの疵なき。

現代語訳:めったにないもの。舅(しゅうと)にほめられる婿。また、姑(しゅうとめ)に大事にされるお嫁さん。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない従者。少しも癖がない人。容姿、心、態度が秀でていて、世の中を渡る上で、ほんの少しの欠点もない人。

とあります。このようにものを列挙していくかたちをとるので、『ものづくし』とも呼ばれます。名詞がつづられていくだけですが、選ばれる言葉を読んでいるだけでも、清少納言の鋭い感性や、知性の高さがうかがえます。

『枕草子』にはこのほか、宮中での生活や日常のできごと、人々の暮らしなどをつづった日記的な章段や、心に浮かんだことを書きとめた随想的な章段などがあります。余談ですが、平安時代、天皇の妃である皇后に仕える女房は、宮中に仕える女官の中でも教養があり、賢い人でなければならないとされていました。清少納言も頭の回転が速く、知性に秀でた人で、『枕草子』の日記的章段の中には、そのことが分かる『香炉峰の雪』(こうろほうのゆき)という逸話が記されています。

ある雪の日、清少納言は、皇后定子から「香炉峰の雪はどうかしら?」と尋ねられます。「香炉峰」というのは中国にある山の名で、清少納言はとっさに「香炉峰の雪は簾を上げて見る」という中国の漢詩の一節を思い出し、そっと簾を上げて見せました。その場にいたほかの女房たちは、「やはり、清少納言のような人でなければ、皇后定子にはお仕えできない」と感心しました。

『枕草子』は随筆ですから、この逸話は実際に起こったことを清少納言が自分でつづったものとなります。つまりは自慢話なのです。清少納言は、自分の美的感覚や教養に自信を持っていたため、『枕草子』の中にはこういった自慢話がちらほら出てきます。これも、『枕草子』の特徴だと言えます。

『枕草子』に学ぶ『をかし』という美的センス

『枕草子』は、同時代の作家である紫式部(むらさきしきぶ)が著した『源氏物語』(げんじものがたり)と対比して語られることがよくあります。源氏物語が『もののあはれ』を題材に、しみじみとした情感を表した『静』の文学であるとすれば、『枕草子』は『をかし』を題材に、新鮮さや知的好奇心をくすぐられる感情を表した『動』の文学といえるかもしれません。

清少納言が『枕草子』の中で一貫している『をかし』は、独特の美的感覚です。普通の感覚ならば、朝焼けや夕暮れ、川を飛び交う蛍などを見て、「ああ、きれいだなあ」と感じるだけのところを、清少納言は一度頭で考えて、知的な美や楽しみを見出し表現しているのです。
『をかし』の例として、随想的章段の代表である「春はあけぼの」から始まる段の一節を読んでみましょう。この段は、みなさんもよく知っている、『枕草子』の冒頭です。春の文章は丸暗記している人も多いと思うので、ここでは、この段の冬の部分をご紹介します。

原文:冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。

現代語訳:冬は早朝が良い。雪が降っている時は言うまでもない。霜がおりて白くなっているのも、またそうでなくても、とても寒い時に、火を急いでおこそうと炭を持って廊下を渡っていくのも、冬の朝に大変似つかわしい。 昼になってだんだんと暖かく、寒さがやわらいでいくと、火鉢の炭火も白い灰が目立つ状態になって、見劣りがする。

いかがでしょうか? 実際に読んでみると、ただ冬の早朝の風景が「きれい」や「美しい」というだけにはとどまらない、清少納言の知的感性が表れていることが分かります。

みなさんも、清少納言を見習って、日常の何気ないできごとや風景を、知的に眺めながら楽しめる感性を磨いてみてください。きっと新鮮な発見があり、これまで考えてもみなかった視点に気づくことができるはずです。

『枕草子』に登場する『飛鳥井』で有名な『白峯神宮』へ行ってみましょう

『白峯神宮』(しらみねじんぐう)は、『枕草子』第168段で清少納言が名水と評している9つの井戸のひとつ、『飛鳥井』(あすかい)で有名な場所です。9つの井戸のうち、現存するのは『白峯神宮』にある『飛鳥井』のみと言われています。また、蹴鞠(けまり)の奉納でも有名で、スポーツの神社として多くの人々に親しまれています。ぜひ一度訪れてみてください。

アクセスマップ

名 称:白峯神宮
時 間:8時00分~17時00分(12月31日~1月1日のみ終日)
休 日:なし
料 金:無料
住 所:京都府京都市上京区飛鳥井町261番地
電 話:075-441-3810
※情報は変更されている場合があります。

監修者プロフィール
河合 敦(かわいあつし)
多摩大学客員教授。歴史研究家。1965年東京都生まれ。多数の歴史書を執筆するとともにテレビやラジオなどのメディア出演多数。
代表的な著書に『日本史は逆さから学べ!』(光文社知恵の森文庫)、『もうすぐ変わる日本史教科書』(KAWADA夢文庫)などがある。

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