2014/08/08

「外国にルーツを持つ子どもたちが直面する就学問題」フォーラム CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会編【後編】

 「CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会編【後編】」では、事務局長の中西久恵さんのお話をもとに、前編で近年増えている「呼び寄せ」という形での来日や、彼らが家庭や学校で直面することについて、後編では学習時や学校生活の中で子どもたちが経験することやCCSが抱える課題についてお伝えします。

教科書を理解するために必要な力

 日本語が話せるようになり、日本語でのコミュニケーションは問題なくとれる。けれど勉強ができないという外国ルーツの子どもたちに対し、先生をはじめとする周囲は「それはこの子がサボっているからだ」というレッテルを貼ってしまうことがあるが、そこには誤解があると中西さんは言う。
 「日常的に使う『生活言語』の習得と、教科書や新聞で使われる『学習言語』の習得は全く別のもので、『学習言語』の習得にはきちんとした指導の下、かなりの時間が費やされる必要があるといわれています。
 勉強ができないのは、その子が日本語でのコミュニケーションはとれるようになったけれど、学校での教科の学習内容を理解するまでには至っていないためである場合も少なくないのです。」
 国による指導方針や教育カリキュラムの違いも、外国ルーツの子にとっては悩みの種だ。「日本では小学生のときに九九を暗記しますが、九九を暗記する習慣のない国から来た子は中学生でも九九を知らないですし、覚えるのに苦労します。」出身国での学習内容と、日本の学校の学習内容とのギャップが大きいほど、子どもたちへの負担も大きくなる。
学習言語未習得の子がつまずく問題例

外国ルーツの子どもたちが感じる「なぜ?」

 勉強がわからないから学校に居づらい、という他に、出身国と日本の学校が違いすぎて学校になじめないケースもある。たとえば体育。「みんなで同じ体操をしたり、みんなで行進をしたりする日本の体育は軍隊みたいだ、とおっしゃる親御さんがいました。みんなで楽しくスポーツをするのが体育だと認識している人から見れば、楽しさが第一でない日本の体育には違和感があるのでしょうね」と中西さんは言う。
 「空気を読む」という日本の文化に戸惑う外国ルーツの子もいる。「日本だと、授業中に自分ばかりが発言しすぎるのはよくないのでは、という空気を読んで、子どもでも発言を控えることがありますよね。でも手を挙げてアピールしなければ先生に伝わらない、という文化の国から来た子は、自分ばかりが発言してまわりから冷たい視線を浴びるという経験に戸惑います。」
 日本の学校内で見られる習慣や文化になじめない一方で、自分が慣れ親しんだ習慣や文化を理解してもらえないという悩みもある。たとえば生まれたときからピアスをつける習慣のある国では、祖父母からの大切な贈り物として、ピアスが単なるアクセサリー以上の価値をもつこともある。しかし、日本のほとんどの学校では「ピアス着用は許可しない」という校則が適用されるため、どんな背景があろうとピアスは外さなければならない。
 宗教上の理由で肌の露出をしてはいけないためプールに入れない子もいるが、入らないと「サボっている」と思われる。こうした反応に、「悪いことをしているわけではないのに、なぜ怒られるのだろう?」と悩む外国ルーツの子たちもいる。
 語学は学んでいけばやがては身に付けられる。けれど文化や慣習は多くの場合明文化されていない。異なる文化を持つ国から来た子たちにとって、「見えないルール」を知ること自体のハードルは高い。さらにそのルールと、自分がそれまで慣れ親しんできた規範のギャップが大きければ大きいほど、ルールに従うことに抵抗を感じるのも無理はない。

高校に入学してからも、続く支援

 言葉の問題や文化・慣習の違いを乗り越えながら、学校に通わなければならない外国ルーツの子どもたち。いろいろな「縛り」のある中学生時代は苦労する子も多いそうだが、周りも成長し互いの「違い」を認め合いやすくなる高校生になると、学校が居心地のよいところになるという子もいるそうだ。
 チャレンジスクールやエンカレッジスクール等の授業の進みが丁寧で勉強をしやすい高校に進学したり、自分の興味があるコースを選べる高校へ進んでやる気が高まったりすると、勉強にやりがいが出てくる。違いを認め合える交友関係が広がれば、学校生活そのものが楽しくなる。こうした子どもたちは、主体的に次のステップを考えることができるようになる。
 一方で、CCSは新たな課題に気づいている。CCSの教室には最近外国ルーツの高校生たちの姿が増えているが、現在教室に通う高校生は、中学生時代にCCSでサポートを受けた子どもたちだ。「高校に入ったはいいけれど、授業についていけない、単位がとれないのでまた勉強を教えてほしいという子どもがCCSに戻ってくるケースが増えてきました」と中西さんは言う。
 高校の先には、大学進学の問題もある。「少子化の進む日本では、選ばなければ学力が低くても大学に入ることはできてしまいます。けれど、きちんとした学力がついていなければ講義についていくことができず、辞めてしまうかもしれないし、その後の就職の問題も出てきます。」このように先々で問題を抱えないためにも、やりたいことや学力を基準に、進学する高校をしっかり選ぶことの重要性を中西さんは強調する。
 こうした現状がある中、今年CCSでは外国ルーツの高校生のキャリア支援策として、高校生向けの進路ガイダンスを実施している。全4回で構成されるこのイベントの特徴は、高校生たちと同じような境遇をかつて歩んだ、外国にルーツを持つ大学生や社会人といった先輩たちの話を聞けることだ。
 分科会のタイトルを見ると、「在留資格って?」「外国人の私が日本で正社員になるまで」「外国文化を生かし働くには?」など、外国ルーツの子が知っておくべき内容が盛り込まれていることがわかる。外国籍の子たち が日本で就職する場合、在留資格によっては希望する職業に就けないこともあるが、こうした情報を知らない保護者や高校の先生もいるので、イベントで必要な情報を入手できることの意義は大きい。
 「高校生たちに必要なのは、2年先や5年先を歩いている、彼らよりも『ちょっとだけ大人』の存在です。輝いているOB・OGの姿を見せることで、子どもたちに『今は辛いかもしれないけれど、今がんばれば明るい未来がひらけるんだよ』ということを伝えることができます」という中西さんの言葉どおり、仲間同士のつながりも重要だ。
 外国ルーツの子どもたちは進路や就職について得られる情報が少なく、相談できる人も少ないので、自分たちと同じような境遇から進学・就職を果たした先輩たちの語る具体的なアドバイスは貴重だ。
外国にルーツを持つ高校生の現状
出典:CCS

保護者・支援団体・学校現場の連携

 学校では、外国ルーツの子どもたちに対する勉強のサポートや進路ガイダンス、日々の生活に関する相談等の対応が十分にできていない場合が多い。それでは、CCSのような支援団体が学校や保護者たちとどのような関係を築くことが、子どもたちにとって最良なのだろう。
 過去に連携がうまくいった事例を中西さんに聞いてみた。「外国ルーツの子どもたちがCCSに通い始めるとき、私たちから中学校の担任の先生に宛ててご挨拶の手紙を書くようにしています。協力的な方、門前払いをする方、支援を丸投げしてくる方など先生の反応は様々ですが、理想的なのはお互いの立場で情報交換ができる形です。
 以前、学校での子どもの様子を逐一報告してくれる先生がおり、その先生にはCCSでのその子の様子も頻繁に連絡をしていました。そうすることで、子どもに合った対応ができたように思います。」一方で、最近は子どもの個人情報保護を理由に、校長の判断で「外部団体とは連携できない」という姿勢をとる学校もあるという。
 外国ルーツの子どもたちの保護者は、仕事が忙しく家庭に不在がちなため、外国ルーツの子どもたちにとって学校とCCSのような支援団体は「生活の場」としての存在感が大きい。だからこそ、学校と支援団体がお互いに情報を交換しあい、連携して保護者と子どもの両方に支援の手を差し伸べることで解決できる問題は少なくなさそうだ。

新たな課題—支援団体を支える人材の質・量確保

 CCSがサポートする子どもたちの状況は様々だが、子どもたちが自力で個々に問題を解決するためにも、CCSのような団体への期待は大きい。しかし、近年CCSはボランティアスタッフである大学生をどう確保するか、という新たな課題に直面している。「CCSは子どもに対し学生がマン・ツー・マンでつく指導方法を基本としているため、大学生スタッフが増えるほどサポートできる子どもの数も増えます。けれど最近は大学生の確保が以前より難しくなってきて、新たな支援を求められてもお断りせざるを得ないことがあります。」
 理由はいくつかあるが、ひとつはこの10年ほどでNPOやNGO団体がかなり増えたこと。もうひとつは、学生自身が就職活動に直結するような活動を選ぶ傾向にある、ということ。学生が活動先を選べるようになったので、選ぶ目も厳しくなっているのだ。「私たちも、社会環境の変化に合わせて情報の出し方を変えたり、やりがいの見える化をしていかないと、学生たちに選んでもらえなくなっています。忙しい学生も多いですし」と中西さんは言う。
 CCSでは就活前にボランティア活動を始めたい学生や、就活が終わったので何かしたいという大学3年生、4年生の学生メンバーが多いそうだが、大学1年生、2年生のときから長期的に活動に携わってくれる学生の確保も重要だ。「1~2年活動していると、子どもたちの抱える問題や状況の理解が深まります。そこからさらに1~2年活動してくれると、サポートの質も上がっていきますし、学生自身が課題意識を持って活動に携われるので、やはり長期で活動に参加してくれるスタッフは必要です。私たちのような団体が活動を継続するには資金ももちろんですが、それ以上に多くの人の参加が重要なのです。」
 活動を継続させていくための課題はあるが、結成から20年以上経つCCSには、OB・OGのつながりという貴重な「財産」もある。今まで事務局として組織的にOB・OGに声をかけるということはやっていなかったそうだが、賛助会員のような形で今でもつながりのあるOB・OGたちが何らかの形で再び活動に参加できるようになれば、現役のボランティアスタッフがそこにロールモデルを見つけることもあるかもしれない。スタッフのOB・OG、サポートを受けた外国ルーツの子どもたちのOB・OGのつながりを育てていけば、活動のさらなる広がりが期待できそうだ。
【企画・取材協力、執筆】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘
【取材協力】特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC)、CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会(NGO)