2014/07/29

「外国にルーツを持つ子どもたちが直面する就学問題」フォーラム CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会編【前編】

 前回までのCO-BOフォーラム「多文化共生センター東京編 」では、「外国ルーツの子どもたち」がどのような背景を持った子たちなのか、彼らがどんな問題に直面しているのかを紹介しました。今回の「CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会編」では、事務局長の中西久恵さんのお話をもとに、前編で近年増えている「呼び寄せ」という形での来日や、彼らが家庭や学校で直面することについて、後編では学習時や学校生活の中で子どもたちが経験することやCCSが抱える課題についてお伝えします。

CCSの変遷 変わる状況、変化する活動内容

 「CCS(Club of Children and Students working together for multicultural society 以下CCS) 世界の子どもと手をつなぐ学生の会」は、1993年に東京・八王子で結成された。
 お話を伺った事務局長の中西久恵さんは、CCSの変遷をこう語る。「結成当初は、その頃増えてきていた外国人の大人たちに対してのサポートを想定していました。けれど実際に活動を始めてみると、外国ルーツの子どもたちがCCSにやってくるケースが多かったんです。この子どもたちは、様々な理由で学校から足が遠のいてしまった子どもたちでした。」
 CCSが結成された3年前の1990年、「出入国管理及び難民認定法(入管法)」の大幅な改正を経て、日本における在留外国人数は増えていった。日本に滞在する外国人が増えるとともに、彼らが抱える問題も少しずつ変化しており、それに合わせてCCSの活動内容も変化している。
 「最初は小・中学生の学習サポートが活動の中心でした。でも、外国人の来日形態がだんだんと変わり、今は中学生以降に来日する子がとても多いのです。そのため現在は、中学生の高校受験サポートがメインの活動になっています。さらに近年は、高校に進学した子たちの支援も始めています」と、中西さんは教えてくれた。一方で変わらないのは、サポート対象の子どもたちが経済的に非常に厳しい状況にあり、学力も低いという点だ。

「呼び寄せ」という来日のかたち

 CCSでは59名の高校生、25名の中学生、11名の小学生をサポートしているが(2014年現在)、彼らの中では13歳以降に来日した子が最も多い。そして、この年齢で来日する子は親から日本に呼ばれる、いわゆる「呼び寄せ」という形で来日する子が多いという特徴がある。「近年多いのが、父母のどちらか、もしくは両親のみ先に来日し、日本での生活が数年経って生活基盤が整った後、母国にいる子どもを呼び寄せるケース。または母親が母国で離婚後、日本人男性と再婚するために母親が先に来日し、生活基盤が整った後に子どもを呼び寄せるというケースです。」と中西さんは語る。
CCSの子どもの在籍状況、来日時期
出典:CCS 外国ルーツの子ども/親へのアンケートより(2014年5月時点)
 子どもを呼び寄せる親は、多くの場合出稼ぎで日本に来ている。日本では他国への出稼ぎ自体が一般的ではないし、仕事の関係で両親と子が別々の国で数年間離れて暮らすことも一般的とはいえない。しかし、日本とは事情が異なる国もある。「たとえばフィリピンは国が外貨獲得のために出稼ぎを推奨しています。そのため、家族を養うために子どもを祖父母に預けて両親が海外に出稼ぎに出るというのはひどい話でもないですし、珍しいことでもないようです。」
CCSの子どもの来日理由
出典:CCS 外国ルーツの子ども/親へのアンケートより(2014年5月時点)
 では、親たちはどんなタイミングで子どもの「呼び寄せ」を決めるのだろうか。中西さんは「生活基盤が整ったら」という言葉を使ったが、「生活の基盤が整う」というのは必ずしも経済面の安定を意味しない。「たいていの方が、当初は2~3年出稼ぎをしたら帰国しようと思っています。けれど思うようにお金も貯まらず、出稼ぎをやめることができないまま日本に滞在して10年近くの年月が経ってしまい、これからも日本で暮らしていくだろう…という状態になったときが、彼らが子どもを呼び寄せようと思うタイミングのようです」という中西さんの言葉からは、子どもを呼び寄せる際に経済状況の安定は絶対条件ではない様子が伺える。

親との信頼関係を構築できない悩み

 「呼び寄せ」などの理由で来日した子どもたちが日本語の習得や学業、文化の違いで悩みを抱えやすいことは、想像しやすい。けれど彼らが直面する問題は、多くの場合もっと複雑で深刻だ。そのひとつが、親との衝突。「呼び寄せ」のケースでは、子どもが語学や学業の問題以外に、親との関係についても問題を抱えやすいという。親のみが出稼ぎで来日すると、親子は離れて暮らすことになり、10年近く一緒に暮らすことができない場合もある。離れる期間が長くなれば、最も頼りたい「親」が身近な存在、信頼できる存在になりづらいことがある。
 親が日本人と再婚した場合、家族で日本語がわからないのは自分だけだったり、母語を知らないもう一方の親とコミュニケーションがとれず関係をうまく構築できなかったり、という状況にも陥りがちだ。中学生以降の子どもを呼び寄せる場合、子どもが多感な時期での来日となることも無関係ではない。「親たちは、子どもが言葉の習得で苦労したり勉強でつまずくかもしれないということはある程度想定をしているようですが、想定をしていなかった子どもとの関係構築の難しさに悩むことは多いようです。最終的に親子の信頼関係がうまく築けず、学業の問題なども重なって、子どものみを帰国させるというケースもあります」と、中西さんは語る。
 子どもの日本語の語学力が高ければ親子間の衝突が発生しない、というわけでもない。日本生まれの外国ルーツの子どもたちは、日本語での日常会話は支障なくできる。けれど親が日本語をあまり使わない仕事に従事している場合には、十分な日本語力を獲得していないため、子どもに対しては母語で話しかける。子どもは母語があまりわからないため、日本語で返す。このように「親子で使う言語が違う」状態では、お互いを深く理解し合うことが難しく、進路選択などの重要な局面で子どもは親に相談したり頼ったりしづらくなってしまう。
 もちろん、親との衝突は日本人同士の親子間でも生じることはある。けれど外国ルーツの子どもたちが経験する親との衝突は、「親子の信頼関係が築けない」という深刻なパターンが多く、かつ頼る人の少ない日本での親子の衝突は、子どもが安心できる居場所がなくなってしまうことにもつながる。

「当たり前」を捨てると見えてくる、考え方の違い

 外国ルーツの子たちの状況を知った人は、「来日したら苦労するであろうことはわかっていたはずなのに…」「親はなぜ自分の都合で子どもを日本に連れてきてしまうの?」という疑問を持つかもしれない。この疑問を解消するには、多くの日本人が持っている「当たり前」の感覚を捨てる必要がありそうだ。
 たとえば受験。子どもが中学生のときに来日すれば、数年後に高校受験が待ち受けていることは日本の教育制度さえ知っていれば容易に想像できるが、中西さんによると、CCSで関わる親たちの中には「日本では試験に合格しないと高校に行けないことすら知らない親もいる」という状況だ。親が調べれば済むのでは、という見方もあるが、都立高校の入学者選抜実施要項が多言語化されたのは2010年。未だに日本語のみの案内も多く、多言語化された情報が限られているという事情があることは、知っておかなければならない。
保護者の進学に対する意識(母親について)
サポートを担当した外国ルーツの子の保護者が教育に熱心であるか?
出典:CCS 高校進学サポート担当者へのアンケート結果より
 勉強や進学に関して親が子に望むことも、日本の「当たり前」と同じではない。日本人であれば、親から「勉強しなさい」と言われた経験を持つ人は少なくないだろう。そう言われないまでも、勉強することを推奨された人は多いはずだ。しかしながら、この感覚は世界共通ではない。外国ルーツの子どもたちの親の中には、高校進学を望む子どもに対し「勉強するより働いてほしい」と考える親もいるし、「勉強なんてできなくてもいいんです。うちの子はすごく優しくていい子だから…」と言う親もいる。自宅に自分の学習机はなく、集中して勉強する環境を確保できない子も珍しくない。日本人が持ちがちな「親は子どもの教育に興味・関心があって当たり前」「勉強はできた方がいい」という認識や価値観をベースにしてしまうと、こういった考えを持つ外国人の親たちを理解するのが難しくなる。
【企画・取材協力、執筆】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘
【取材協力】特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC)、CCS 世界の子どもと手をつなぐ学生の会(NGO)