学校との共同研究
2016年度 その2
約8か月間にわたるタブレット活用の取り組みを先生方と振り返りました。(2017.4.14)
夏休み直前の7月中旬に、約250名の生徒へタブレットを配布してから約8か月が経ちました。この3月に、タブレットの回収と事後の学力調査・アンケート調査を行い、2016年度の共同研究は終了となります。そこで今回、ご協力いただいた岐阜市立藍川中学校・三輪中学校の先生方に、これまでのタブレット活用状況をご報告し、年間を通じた活動について振り返っていただきました(2017/3/15に実施)。
藍川中学校での話し合いの様子
三輪中学校での話し合いの様子
藍川中学校では、「数学」の先生方を中心に、生徒一人ひとりの学習記録を活用することで、クラス単位や個々の生徒の状況に応じた働きかけをする指導を実践してきました。実際、先生の働きかけによって生徒の学習量が伸びることがデータで示されています(図1)。先生方からは、「生徒一人ひとりの学習状況を、教師の指導サイクルに合わせてフィードバックしてもらうことで、日々の授業改善に活用できるようになった」とコメントいただきました。タブレット学習から得られた学習記録を活用することで、生徒の学習進捗や理解状況を、授業改善につなげるサイクルが回るようになった、というご指摘です。また、「いくらICT技術が発展しても、生徒のやる気を起こさせるのは、やはり教師だということをあらためて感じた」と、教師の役割を再認識できたというご意見もありました。タブレットを効果的に活用する方法について、新たな可能性が広がりつつあると感じます。
一方の三輪中学校では、もともと勉強の苦手な生徒たちが、比較的熱心にタブレット学習に取り組んでいることがわかってきました(図2)。先生方のお話しからは、「ふだんライバル関係にある生徒どうしが切磋琢磨しているようだ」ということや、「生徒会や学校行事などを通じてクラスメートから認められた生徒が、同時期にタブレットの活用を伸ばしている」ことがわかりました。生徒からは、「『1か月の学習記録』をもらって、自分の取り組みにびっくりした。その場で友だちと見せ合った」「自分以外にも『がんばりマーク』がついている子が何人かいた。がんばっているんだなと思った」とありました。生徒がお互いに影響しあう「ピア効果」があったのかもしれません。また今回の取り組みでは、病気のため筆記が困難な状況にある生徒が、タブレットならば学習しやすいと、夏休み直後からタブレット学習に没頭し、苦手な教科を中心に熱心に取り組んでいました。学習へのやる気を高める観点からも、タブレット学習に一定の効果があることが見えてきました。
*「学力層別(a~d層)」とは、生徒へタブレットを配布する前に行った5教科の学力調査(2016年7月実施)のIRT到達度スコアを元に、上から順に25%ずつ、a~dの4つの層に分類したもの。
生徒からのタブレット回収後、3月下旬に行われた学力調査・アンケート調査分析の結果は、2017年秋頃にご報告する予定です。ぜひ、ご期待ください。(岡部悟志・牧田和久)
タブレット教材の使い方や役立ちについて生徒に聞きました。(2017.2.24)
タブレット教材に取り組んでいる生徒は、どんな使い方をしているのでしょうか。また、タブレット学習にどんな役立ちを感じているのでしょうか。ふだんのタブレット活用度が高めな3名の生徒(いずれも藍川中学校の2年生)にお話をうかがいました。
図1は、生徒一人ひとりのタブレット活用状況の推移を示しています。1月末の到達点は同じですが、どの時期に活用を伸ばしたかは異なっています。それぞれ、どんな使い方をしているのか見ていきましょう。
Aさん(女子)
「テスト前だと、寝る前に必ず30分はタブレットをやります」というAさん。図1をみると、確かに、11月中旬にあった中間テスト前に活用が伸びています。ふだんの使い方を尋ねたところ、「ほとんど復習で使っていますね。家では、リビングでテレビを見ていて、ちょっとしたCMの間とかにタブレットを開いてやったりしています。教科書やノート・鉛筆を準備するのは大変だけど、タブレットだとすぐにやれるところがいいんです」。紙の教科書やノートにはない、タブレットならではの特徴を生かして、「すきま時間」を上手に使いながら活用を伸ばしているようです。
年末に生徒一人ひとりへお返しした「1か月の学習記録」についての印象も聞きました。「『がんばりマーク』がついていてうれしかったです。でも、教科別の取り組みをみたら、苦手の『国語』の取り組みが少なくて。それを見て、やらなければいけない!と思いました」。そして、「今は国語をがんばっています。何回も解き直して、全部◎にしたい。そうしないと達成感がありませんし」。自分の学習記録から反省点を見出して、次のテストへ向けて頑張っている様子がうかがえます。また、保護者の方からは、「ちょっとした時間も大事だから、寝る前の5分だけでもやってみたらどう?と言われました」というエピソードも。保護者の方の後押しも、タブレット学習を進めるうえで大切なのかもしれません。
Bくん(男子)
「中間点テストの結果が思ったより悪くて。その後、がんばってタブレット教材に取り組んだんですよ」というBくん。11月中旬の中間テスト後の活用の伸びは、そのことをよく表しています。「もともと、機械が好きでタブレットに関心があったんです」。ただ、「紙に書いて勉強するのが苦手。でも、タブレットだと便利だしとても分かりやすいのでやる気になります」と教えてくれました。また、「学校では、おもに朝学習と授業の3分前学習で使っています。苦手な教科も少しは朝学習でやりますね」とのこと。もしかしたら、学校の中でタブレット教材に取り組む機会を設けることで、苦手教科でもやってみようとするきっかけが増えるのかもしれません。
「1か月の学習記録」が返却されたときの感想を尋ねたところ、「それを見るまで自分がどれだけ取り組んでいるかはほとんど意識していなかったけれど、『へぇー!、こんなにやってたんだ!』と自分でもびっくりしました」と教えてくれました。また、「数学の授業では、先生から個別に声をかけてもらいました。『この問題ができていないからやってみたらどう?』って。こんなことも分かるんだなあ、と思いました。その後、もちろん解き直しましたよ」。数学の先生方にご協力いただいている指導改善の取り組みを通じた生徒への働きかけが、生徒の学びの姿勢を変えていることがうかがえます。
Cさん(女子)
「時間があってやろうと思った時に、一気にやっています。毎日決まったようにはできなくて。すごくムラがあるですよ」。確かに、11月下旬までは停滞していCさんの活用が、その後12月から1月にかけて急激に伸びていることがわかります。Cさんなりの使い方を尋ねたところ、「練習問題は、まだ終わっていないところを見つけて、ぱぱっと進めていきます。練習問題をやるとマーク(◎、○、△など)がつくんですね。自分は、すべて『◎』にならないと気持ち悪くて。間違っているところを探してはやっています」。
「1か月の学習記録」が手元に届くと、「やっぱり自分の取り組みにはムラがあるので、継続的にやれるようになりたいと思います」と自らを振り返ったCさん。また、その中にある取り組んだ問題の解き直しの状況がわかるグラフを指さして、こう教えてくれました。「やり直ししなければいけないことがわかるので、すごくいいです。このグラフを見て初めて解き直していない問題が残っていたことを知って。その問題を必死に探して解き直したんですよ」。タブレット教材でしか得られない学習記録が、生徒が自ら振り返ったり学習行動を起こすきっかけを与えているようです。
3名の生徒のお話しからは、それぞれが自分の学習スタイルにあったタブレットの活用方法を見出していることがうかがえました。また、その中で、生徒一人ひとりへ取り組み状況を分かりやすく可視化してお返しすることや、先生方に生徒の家庭学習の状況や理解状況を可視化してお返しし授業等でご活用いただくことが、生徒の学習に向かう姿勢や行動を、確実に変えつつあることがうかがえました。この調子で行けば、学力は着実に向上していくのではないか。そんな期待を持つことができました。(岡部 悟志)
学習記録から指導改善への取り組みを開始しました。(2017.2.22)
タブレット教材から得られる生徒の学習記録。取り組みにかかった時間や、正解できたのか、解き直しをしているのかなど、一人ひとりの学習状況がわかるデータを取得することができます。これを上手に生かして生徒の理解を高めたり、先生の指導改善に活かせないか。そのような思いから、生徒一人ひとりのタブレットの学習状況を見える化した、「週間学習記録表」を作成しました。(資料1)
資料1:週間学習記録表
この「週間学習記録表」は、期間を区切って、取り組んだ生徒(行)ごとに、取り組んだ問題の結果(列)を一覧表にしたものです。StudentのSとProblemのPをとった「S-P表」をもとにしています。行を見ると、その生徒が、各問題に正答できたのか、全体の正答率はどれぐらいだったのかがわかります。列を見ると、その問題を、誰が正解できたのか、クラス全体でどれくらいの正答率だったかがわかります。これにより、生徒個々の課題を発見するとともに、その課題はクラス全体のことなのかを分析して、指導に活かすことができます。
① 検証のサイクルを作る
今回は、藍川中学校の吉岡先生・尾本先生・牧谷先生から提案をいただいて、以下の流れで、1週間のサイクルを組んでみました。教科は数学です。
- ある週の数学の時間に、ある学習内容の数学の授業を行う
- 先生が、その学習内容の復習になる部分の教材を、翌週までの課題(宿題)として指示
- 生徒たちは、自分の時間・ペースで、該当教材に、取り組む
- 月曜日に、該当の学習内容の学習記録を抽出し、「週間学習記録表」を作成して、担当の先生に送付
- 先生が、「週間学習記録表」をみて、結果を分析、改善課題を抽出
- 次の授業で、先生が生徒にフィードバック
② 見えていなかったことが見えた
まず、この表を見た先生から、「ID○番の生徒は、満点をとれるよくできる生徒と思っていたけど、この記録を見ると、ちょこちょこ間違いながら学習して、やり直しているね。努力している成果とわかってびっくりした。」と
③ 生徒が感じる「安心感」と「緊張感」
先生は、次の週の授業の時にこの「週間学習記録表」を誰の結果かを分からないようにして拡大印刷して黒板に貼ったそうです。そして、データを見ながら、「みんな、よく頑張っていることがわかるよ」「とくに○○さんは、時間がかかっているようだけど、頑張って解いているね」「○○くんは、最初は間違っていたみたいだけど頑張って解きなおして最後までいったね」と、学習の行動・プロセスをほめ、ほめられた生徒はうれしそうだったとのこと。
今までは、宿題をやったかどうかの結果の確認で終わりがちだったのが、学習のプロセスが可視化され、「生徒をほめる材料」が増えましたと先生。生徒には、結果だけではなくプロセスもしっかり見ているという安心感をもたせることができます。同時に、プロセスをフィードバックできるということは、「先生は、ちゃんとここまで見てるよ」という緊張感にもつながります。
今までは、宿題をやったかどうかの結果の確認で終わりがちだったのが、学習のプロセスが可視化され、「生徒をほめる材料」が増えましたと先生。生徒には、結果だけではなくプロセスもしっかり見ているという安心感をもたせることができます。同時に、プロセスをフィードバックできるということは、「先生は、ちゃんとここまで見てるよ」という緊張感にもつながります。
④ 先生自身の指導改善につながります
先生は、この「週間学習記録表」は、自分の授業改善につながるとおっしゃいます。たとえば、問題ごとの平均正答率をみていくと、問3と問4が低いことがわかります。いい加減に答えているのではないことは、解答にかかっている時間を見るとわかります。
問題内容を確認すると、「合同条件を答える問題で、三角形の合同条件と直角三角形の合同条件を混乱しているんですよ」。
また、別のもう1問に関しては「証明問題の仮定と結論を、文章で答えることはできるのに、記号を使って式で表すことができてない。次の授業でフォローしなければいけないですね」。
このように、クラスの全体の課題を見つけ、授業改善につなげることができます。
問題内容を確認すると、「合同条件を答える問題で、三角形の合同条件と直角三角形の合同条件を混乱しているんですよ」。
また、別のもう1問に関しては「証明問題の仮定と結論を、文章で答えることはできるのに、記号を使って式で表すことができてない。次の授業でフォローしなければいけないですね」。
このように、クラスの全体の課題を見つけ、授業改善につなげることができます。
⑤ 先生の負荷を減らしつつ、指導改善に役立つサイクルを
この「週間学習記録表」は、分析に負荷がかかると活用しにくくなってしまいます。先生方と相談して、先生の分析の負荷を減らし、見た目重視で、雨雲ズームレーダーのように課題が浮き上がってみえる表に改善しました。問題ごとの正答率については、その比率に応じて、緑・黄・赤 と色分けします。「赤い」ところがアラームです。(図A)さらに初回は間違えた問題にはブルー、解きなおして正答できたものには、ピンク色をつけることにしました。「ブルー」のままだとアラームです。(図B)
引き続き、この「週間学習記録表」を運用して、さらに生徒の成果向上や指導改善につながるようにしていければと考えています。(中垣 眞紀)
引き続き、この「週間学習記録表」を運用して、さらに生徒の成果向上や指導改善につながるようにしていければと考えています。(中垣 眞紀)
図A:改善した「週間学習記録表」
図B:解き直したプロセスを確認
タブレット活用状況を約250名の全生徒へお返ししました。(2017.1.13)
タブレット教材から得られる生徒一人ひとりの学習記録。これを上手に生かして生徒のやる気や学力を高められないだろうか。そのような思いから、生徒一人ひとりのタブレット活用状況をまとめた「1か月の学習記録」を作成しました。(資料1)
生徒のやる気や学力を高めるために必要なのは、テスト得点など、単に結果としての学力や能力を認識させ認めてあげることではありません。むしろ、努力したプロセスを認識させ認めてあげることが重要であることが、様々な研究から分かっています(例えば、中室(2015)『「学力」の経済学』)。そのような考え方をもとに、以下の2点を生徒へのフィードバックのポイントとしました。
① 学習の量(取り組みレッスン数)を可視化
もっともわかりやすい努力を表す指標は「学習の量」です。一般には、学習時間や取り組み問題数などが思いつきますが、ここでは両者と密接に関連する「レッスン数」(資料2)を取り上げ、各教科どのくらい取り組んだか、学校平均と比べてどうだったかを示しました。取り組み上位者には「がんばりマーク」をつけ、学習の励みになるようにしました。
② 学習の質(一度間違えた問題の解き直し、学習の頻度)も可視化
学力を上げるには、学習の量だけでなく学習の質も重要だということが明らかになっています(ベネッセ教育総合研究所(2014)『小中学生の学びに関する実態調査報告書』)。その中でもとりわけ、できなかった問題を解き直す振り返り学習が重要であることがわかっています。タブレットの学習記録からは、単に取り組んだ問題数だけではなく、「一度間違えた問題を再び解き直して正解にたどりついたか」という学習のプロセスもわかります。これにより、「最初は×だった問題を○にした努力」を生徒がどれだけしたかがわかるようにしました。
上の2点に加えて、3つめのポイントがあります。それは
③ 生徒自身が「振り返り」、「次の目標設定」を行う
学習の主体者である生徒本人が、自分の取り組みを振り返り(内省)、これからどのように学習するかを宣言する(目標設定)ことは、とりわけ中学生の学びにとって重要なことだと考えられます。単に①②のデータを示すだけではなく、生徒本人の主体的な行動に結びつくような仕掛けをあえて入れてみました。
「1か月の学習記録」は2016年の最後の登校日に、約250名の全生徒へお返ししました。可視化された学習の量と質を振り返り、次の目標を立てた生徒たちの、新年からの学習の取り組みに期待したいです。(岡部悟志)
資料1:生徒へお返しした「1か月の学習記録」
資料2:「レッスン」について
タブレット教材の学習記録データを活用した研究
電子書籍の読書履歴データを活用した研究