2014/01/17

第38回少子化対策は、地方の視点も忘れずに

ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
室長 後藤 憲子

少子化に歯止めはかかるのか?

昨年末のある日、埼玉県と接する東京郊外の実家に帰りました。高度成長期に宅地開発されたため、私の両親の住む地域は高齢者ばかりの街になっています。昼間の住宅街はしんとしていて、冬休みなのに公園のベンチで小学6年生くらいの女の子2人がマンガを読んでいるのに出会ったきりで、他に子どもの姿は見当たりません。
東京郊外でもこのような光景があちらこちらで見られます。当研究所のオフィスのある多摩市でも15年ほど前、同様の現象が見られましたが、最近は再開発が進み、若い世代が引っ越してきて子どもたちの姿が少し戻ってきているようです。
さて、前置きが長くなりましたが、この1月1日に発表された人口動態統計の年間推計によると、平成25年(2013)に生まれた赤ちゃんの推計数は1,031,000人で、平成24年(2012)と比較して約6,000人の減少に留まりました。平成24年と23年の差が13,575人、平成23年と22年の差が20,498人ですから、減少幅は小さくなり、少子化の進行が食い止められたように見えます。
しかし、これは晩産化による一時的な現象で、今後は出産する年齢層の女性人口そのものが減るため、出生数の減少はさらに進むことが予測されています。しかも、日本全体で一律に人口が減るのではなく、地域による差が大きく、とくに小規模市区町村ほど人口の減少率が大きいのです。
平成23年に発表された「国土の長期展望」(注1)によると、東京・名古屋・大阪の3大都市圏の人口集中は続くものの、現在の居住地域の6割で2050年までに人口が半分以下になると予測されています。

少子化とそれを取り巻く状況は地域差が大きい

東京などの大都市圏では待機児童問題が深刻なため「待機児童解消加速化プラン」のような保育所拡充策が優先的に実施されています。これも少子化対策の一つですが、都市部に住む人にとって、少子化は実感しにくいと言えるでしょう。
それに対し、地方は都市部よりも合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産むとされる子どもの数)は高いものの、出生数は急速に減ってきていて、実際に地域の中でさまざまな課題が出てきています。
たとえば、地域の中で子育てに関わる人、具体的には「子育ての悩みを相談できる人」、「子ども同士を遊ばせながら立ち話をする程度の人」、「子どものことを気にかけて声をかけてくれる人」は意外なことに都市圏よりも地方市部のほうが少ないのです(図1)。地方の小規模市区町村では子育てしている人がまばらになるので、さらにこの傾向が進んでいる可能性があります。
図1 地域の中での子どもを通じた付き合いの状況
地域の中での子どもを通じた付き合いの状況
*地方市部=中核市、特例市、人口120 万人以下の政令指定都市(旭川市、佐世保市、浜松市など全65市)(東京駅から40km 圏、大阪駅から30km 圏、名古屋駅から20 ㎞圏を除く)
出典:「首都圏・地方市部ごとにみる乳幼児の子育てレポート」(ベネッセ教育総合研究所、2010 年9 月)
地方自治体の危機感は強く、少子化を回避するために中高生に対するライフプラン教育、婚活事業の支援、不妊相談や不妊治療への経済的支援、周産期医療体制の整備など、思春期から妊娠出産までの切れ目のない支援策を行っているところも出てきています。
昨年4月には、10県の知事による「子育て同盟」(注2)が発足し、各県で成功している子育て支援策の事例を情報交換し、地域の事情に合わせた少子化対策の必要性をアピールする活動を行っています。昨年12月には、そのような自治体独自の取り組みを支援するため、補正予算として「地域における少子化対策の強化」(30億円)も閣議決定されています。

保育所・幼稚園の状況にも大きな地域差が

少子化問題は、都市部と地方では全く違う様相を示していて、対策も地域の事情に合わせたものが求められるのです。また、「少子化対策」イコール「子育て支援」と見られがちですが、人口減少によって園や学校の維持も難しくなっていくので、学校教育への影響も検討すべき重要なポイントです。
たとえば、幼稚園・保育所の定員充足率を見てみましょう。2012年に当研究所で実施した、「第2回幼児教育・保育についての基本調査」のデータから、保育所の0歳児から2歳児の定員充足率を見ると、都市部以外ではすでに定員割れが起こっていることがわかります(図2)。
暖色(オレンジ色)が定員割れを起こしている割合を示しているのですが、都市部の公営保育所で22.0%、私営保育所で12.5%に対し、都市部以外の公営保育所では61.1%、私営保育所で28.5%となっています。
幼稚園も含め、3~5歳児が通う園の状況を見ると、都市部と都市部以外の状況の差が一層明確になります(図3)。とくに都市部以外の国公立幼稚園の定員割れは95.4%にもなっています。このような定員割れは、平成27年(2015)から開始される「子ども子育て支援新制度」の中で、幼稚園と保育所を一体化させて認定こども園を設立する動きに発展していくでしょう。
図2 0~2歳児の定員充足率(保育所・地域別)
0~2歳児の定員充足率(保育所・地域別)
図3 3~5歳児の定員充足率(園の区分別・地域別)
3~5歳児の定員充足率(園の区分別・地域別)
*図1・2共に、各年齢の定員数と実員数に記入のあったサンプルのみを分析。(  )内はサンプル数。
*「都市部」は、首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)と近畿圏(京都府・大阪府・兵庫県)。
*定員割れ率(暖色部分)は「50%未満」+「50%以上75%未満」+「75%以上100%未満」の%
出典:「第2回幼児教育・保育についての基本調査」(ベネッセ教育総合研究所 2012年)

地域による教育格差を生まないために

さらには学校の統廃合も問題になります。すでにこの10年間で小学校の総数は2003年の23,633校から2012年の21,460校へと約10%(2,173校)減少しています。地域によっては、幼稚園・保育所と小学校、場合によっては中学校も統合した施設を作るところも出てきています。こうした将来的な人口減少を見越して、文部科学省では新しい義務教育モデルの研究をスタートさせています(注3)。
10年後、20年後といった長期視点で見ると、通学圏の拡大はスクールバス(タクシー)などの交通手段を用意することで解消し、児童生徒の減少は分校での複式学級のような授業や、教科によっては小中一緒の授業、ICTを使って他校の児童と交流できるようにするなど、学校教育を維持するために柔軟な対策を打たざるを得なくなるでしょう。
都市部と地方で教育格差が生じないよう、どのような工夫ができるか、将来に向け今から知恵を絞る必要が出てきます。格差拡大を防ぎ、教育の質をどのように維持していくのか、まだ議論される機会は少ないのですが、教育を受ける子ども一人ひとりの立場に立つと、とても重要なテーマであると考えます。
注1)国土交通省国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」(中間とりまとめ)
注2)「子育て同盟」の加盟県は宮城・長野・三重・鳥取・岡山・広島・徳島・高知・佐賀・宮崎の10県(2013年4月)
注3)国立教育政策研究所「人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究」

著者プロフィール

後藤 憲子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、教材・書籍の編集を経て、育児雑誌「ひよこクラブ」創刊にかかわる。その後、研究部門に異動し、教育・子育て分野に関する調査研究を担当。これまで関わったおもな調査、発刊物は以下のとおり。
関心事:変化していく社会の中で家族や親子の関わりがどう変わっていくのか、あるいは 変わっていかないのか

調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員