2015/09/30

Shift│第9回 プログラミング教育で地域創生、官民学が連携して地域人材を育成する島根県松江市の一大プロジェクト [5/7]

究極の自学自習を道場で

 高尾さんが理事長を務める「Rubyプログラミング少年団」は、子どもたちにプログラミングの喜びを伝え、地域の組織としてプログラミングを通じて子どもとネット社会との関わり方を考える任意団体だ。松江のオープンソースラボで、プログラミングの初心者である子どもたちに簡単なゲームのプログラミングができる「体験教室」や、子どもたちがプログラミングの技術をステップアップするための無料の「プログラミング道場」をそれぞれ毎月1回ずつ、開催している。
 実際に「プログラミング道場」をのぞくと、上は高専生から下は小学校の低学年まで幅広い年齢層の子どもたちが集まっていた。自分でつくりたいプログラムがある人はそれを自主的につくり、特にない人には、高尾さんがゲームのプログラムのアイデアを簡単に伝えていた。だから、基本的に作業は自由。さらに、プログラミングをするのもしないのも本人たちの自主性に委ねられていた。
取材班が訪れたプログラミング道場の一場面
 取材班が訪れたプログラミング道場の一場面
 道場には高尾さんのほかにもティーチングアシスタントはいるが、高尾さん同様、子どもたちに手とり足とり教えている様子は全くない。途中、子どもの一人が面白いプログラムをつくっていたのでみんなに紹介していたが、それ以外は子どもたちに任せっきりだった。
 そもそもプログラミングは、一人で学ぶものだ。Ruby以外にもiPhoneの普及とともに広がったアップル社のObjective-Cなど、時勢によって流行ったり廃れたりするのがプログラミング言語だ。IT系のエンジニアは、時代のニーズに応じてしばしば新しいプログラミング言語を習得しなければならない。当然、プログラマーによってもっている知識や、技術レベルも違うので、誰かに通り一遍のやり方を教えてもらっても役には立たない。
 だから、インターネットを検索してわからない部分の解説を読んだり、サンプルプログラムを解読してやり方を参考にしたり、個々がそれぞれ自ら学んでいくのが、プログラミング学習の本来の姿である。そうやって、学んだことを即実践していくのがプログラミングで、究極の自発学習でこそ身に付くのだ。

プログラミング道場に親子で参加

 この日、最年少の小学3年生で参加していたなお君は、TVで取り上げられていたこの教室を見て、母親に参加をねだった。将来はロボットエンジニアになりたいので、プログラミングに興味があるという。今日もスモウルビーと連携したロボットを動かすプログラミングに挑戦していた。
 「難しかったけど、自分でつくりたいものを考えながらできるのは楽しい」と次回以降もぜひ参加したいという、なお君。道場にはなお君の母親、松岡香里さんも来ていたので話を聞いた。
 「小学3年生なので、学校の勉強や読書を大事にしてきたのですが、本人がロボットエンジニアになりたいという夢をもっているので参加しました。これまでスクラッチは経験したことがありました。スクラッチがブロックコードから発展がないのに対して、スモウルビーはボタンを押すと、プログラムコードに変わりますよね。この違いは大きいです」と話す。
 松岡さん自身はエンジニアで、松江市内のIT企業に勤めている。また、Rubyのコミュニティにも属しており、初心者や女性向けのRuby勉強会をここオープンソースラボで開催していることから、Rubyプログラミング少年団のことは知っていたという。
 「一般の専門学校でプログラミングを学ぼうとしたら、相応の月謝が必要になります。ところが、この教室のようにスポンサーの協賛や行政の補助金、高尾さんのような方の存在のおかげで無料の講座が受けられるのはありがたいです。それもこれも松江市が政策としてRubyを掲げているからです」と松岡さんはいう。
 高尾さんは、地域社会全体としてプログラミングが重要だという方針を守りながら、プログラミングの楽しさを子どもたちに伝え、その周辺にいる大人にもプログラミングの教育的価値を知ってもらうために、あくまでもプライベートの活動としてRubyプログラミング少年団に取り組んでいる。