2014/08/08
[第4回] 教育委員会や学校現場での調査結果の読み方・活かし方 [1/2]
佐和 伸明●さわ のぶあき
柏市立柏第二小学校・教頭。 柏市と松戸市での教員時代に、情報教育や情報モラル教育に関する先進的な実践事例を多数発表。柏市立教育研究所指導主事を経て平成26年度より現職。文部科学省委託「国内のICT教育活用好事例の収集・普及・促進に関する調査研究」「電子黒板を活用した教育に関する調査研究」「情報化の進展に伴う新たな課題に対応した指導の充実に関する調査研究」、文化庁「著作権教材開発協力者会議」、総務省「ICTメディアリテラシー育成プログラムの普及改善事業」、科学技術振興機構「IT活用型科学技術・理科教育基盤整備事業(理科ねっとわーく)」などの委員を歴任。また、文部科学省「メディア教育指導者講座」、文化庁「全国教職員著作権研修会」などの教職員研修講師を務める。
はじめに
今回の調査で、約9割の教員が、授業でICTを活用していきたいと思っていることがわかった(図1)。また、実際に授業でICTを利用している教員の95%以上が、ICT活用の効果を認識している(図2)。これまで、「使わなくても授業はできる」「デジタルよりアナログじゃなきゃダメ」「効果がはっきりしない」など、授業でのICTの活用に関して消極的な意見が多く聞かれた時代を思い出すと、ここ数年で教員の意識も大きく変化してきたことを感じる。
図1 授業でのICT活用の意向(一般校)
図2 授業でのICT活用の効果(ICT利用者のみ)(一般校)
そうはいっても、中学校で約4割、小学校で約2割の教員は、まだICTを活用した授業に取り組んでいない状況にある(図3)。その要因とも考えられる、ICTを授業で活用することに対する課題は、「授業の準備に時間がかかる」「自分のICTスキルが不足している」「授業の計画をたてるのが難しい」といった環境整備や教職員の研修に関わることが多い(図4)。
図3 ICTを活用した授業の取り組み年数(一般校)
図4 ICT活用における課題(一般校)
このことから、今、教育現場では、ICTを「すぐに使える(環境)」「いつでも使える(コンテンツ)」「だれでも使える(教職員研修)」ようにすることが求められていると考える。そこで以下では、学力向上をめざし、すべての教員に授業でのICT活用を推進している柏市の取り組みを紹介する。
「常設」することで利用頻度を高める(環境)
平成21年度、文部科学省『スクール・ニューディール構想』により、学校にあるICT機器の台数が急激に増加した。平成21年3月と平成25年3月を比較すると、実物投影機の台数は約2.4倍に、電子黒板の台数は約4.4倍に増加している(文部科学省 平成24年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果より)。本調査でも、普通教室でICT機器が利用できる割合について、「デジタルテレビ」「教員用パソコン」「実物投影機」は7~8割という結果であり、普通教室におけるICT機器の整備が進んできたと言える(図5)。
図5 ICT機器の整備状況(一般校)
しかし、普通教室で常に使える状態で整備されている割合を見ると、実物投影機は小学校が約3割、中学校では約1割と低い結果であった(図5)。全体としての台数は確実に増えているものの、各教室で日常的な活用ができる整備が整ったとは言い難い。まず、全ての普通教室にICT機器が一台ずつ整備されることが望まれる。 ただし、数が揃えばICT機器が利用されるとは限らない。「授業の準備に時間がかかる」ようでは、授業の流れに支障を来たすこともあり利用は敬遠されてしまう。使えば効果があることはわかっていても、「使わなくても授業はできる」になってしまいがちである。
そこで、ICT機器の常設化が求められる。
図6 柏市小学校普通教室仕様
柏市では、平成24年度より市内小中学校62校すべての普通教室にプロジェクタの常設化を進めている。小学校では、これまでは教卓の中に収納していたプロジェクタを黒板の上にレールを付けて設置した(図6)。これにより、プロジェクタを利用できるまでの時間が、常設前の約3分30秒から約30秒(7分の1)に短縮された。また、電子黒板については、学年で共有していたものを、全普通教室にプロジェクタ内蔵のものを導入した。このようなICT機器の常設化を図った結果、「ほぼ毎日」利用する教員の割合の増加が見られた。プロジェクタは約2倍となった(図7)、電子黒板については、これまでほとんど利用されていなかった状況であったが、約2割の教員が「ほぼ毎日」利用するようになっている(図8)。
図7 プロジェクタ使用頻度の比較(柏市 H25.3月)
図8 電子黒板使用頻度の比較(柏市 H25.6月)