2014/09/26

【第4回】座談会 学習者用一人1台情報端末時代への展望 ~学習内容の所有感に関する研究を振り返って~[1/3]

 ベネッセ教育総合研究所グローバル教育研究室では、小学6年生を対象に一人1台のタブレット端末(以下、タブレット)を用いた協働学習を実施し、実証研究を行った。今回は、研究に携わった先生と研究者に集まっていただき、実証研究から見えてきたこと、そしてこれからの課題について話を聞いた。
参加者:
東京都世田谷区立砧南小学校 菊地 秀文 主任教諭(授業者)
宇都宮大学教育学部 久保田 善彦 教授
茨城大学人文学部 鈴木 栄幸 教授
創価大学教育学部 舟生 日出男 准教授
ベネッセ教育総合研究所 理事長 新井 健一
司会進行:
ベネッセ教育総合研究所グローバル教育研究室(中垣・土屋・住谷)

一人1台タブレット使用により、人との関わりが可視化

今回の実証研究から、協働学習によって価値づけされた情報や成果を個人のタブレットに所有することによって、学習者が自尊感情を高め、学習意欲を向上させる可能性が見えてきました。実証研究と過去2回の検討会を振り返って、改めて見えてきたことや今後の課題について、お聞かせください。
 鈴木:協働学習では、自分の意見を他の児童に話したり、他の児童の意見への理解を深めたりするなど、人との関わりのなかで学びを深めていきます。今回、一人1台タブレットを用意し、「XingBoard(クロッシングボード)」というアプリケーションを用い、協働学習を行いました。すると、従来型の一斉授業では目立たなかった児童が、他の児童に自分の意見が承認されることで自尊感情が高まるなどの様子が見られました。学習内容の所有感が人との関わりのなかで生まれるとすると、タブレットなどを活用することにより、今まで見えていなかった人との関わりが可視化され、学習内容の所有感が高まり、児童の学習意欲向上につながったのだと思います。
 菊地:実証研究時、クラス内での関係性は固定化しつつありましたが、タブレットにより従来は見えていなかった、もしくは薄かった人との関わりを、よりはっきりと子どもたち自身が感じることができました。学習への苦手意識がある子どもが、「友だちの学びに貢献できた」「話し合いをリードできた」と言っているのを聞くと、全ての児童に学びの場面での喜びを増やす可能性も感じました。
 久保田:友だちとの関係性はもちろんですが、従来型の一斉授業では見えなかった子どもたちの個性が見えるようになったのは、タブレットを一人1台用いたからこそ得られた大きな収穫です。例えば、タブレットの操作能力や情報編集能力などの個性が、今回の授業では発揮されていました。これからの課題は、子どもたちの多様性を前提とした教育をどのように設計するかということです。
 舟生:実証研究では、アイデアを考えるのが得意な児童ばかりでなく、タブレットの操作が得意な児童、意見をまとめるのが得意な児童など、それぞれの関わり方で、一つの成果を作りあげていました。「学びはみんなでつくるもの」という良い経験ができました。学びへの貢献の仕方は様々ですが、成果物への所有感をより高める要因になったのではないかと思います。「XingBoard」の開発者の一人としては、前の単元や前学年で学んだ知識やアイデアも継続的に所有し、振り返ることができれば、さらに活用の場が広がるでしょう。
グループで付せんに書いた意見を交換し合う。
 菊地:人との関わりが可視化されるということは、負の面も見えてくることがあります。例えば、紙環境での学習が得意な子が、タブレットを使った協働学習では十分に力を発揮できず、そのことを本人が自覚すると学習意欲を失います。我々教員は、そうした負の面も意識して活用していくことが重要です。ただ、タブレットは、子どもたちの学びをより豊かにするためには、有効なツールです。現在は3年生の担任ですが、小学校の中学年位からタブレットを用い、「学びはみんなでつくるもの」という経験を積み重ねられれば、より効果が高まると感じています。



[第4回] 座談会 学習者用一人1台情報端末時代への展望 ~学習内容の所有感に関する研究を振り返って~