2013/12/04
学校外教育活動に関する調査【第2回】母親の「習い事経験」は子どもの「活動選択」に影響するのか?~スポーツ活動・芸術活動の世代間伝承に関する検討~[3/4]
5.母親の経験の影響の強さ
しかし、ここまでの分析では、他の変数を統制したときにも母親の経験の影響は残るのか、また、その強さがどの程度なのかまでは分からない。そこで、片岡(2010)が分析で用いた「子どもの性別」「世帯年収」「父母学歴」「子どもへの進学期待」「親の文化的嗜好」に、「母親の習い事経験」の変数を加えてロジスティック回帰分析を行った。母親の経験の有無は、子どもの習い事の選択にどれくらいの影響を与えているのだろうか。
用いた変数は、以下の通りである。
【従属変数】
スポーツ活動については「現在、何らかのスポーツ活動をしているケース」を「活動あり」、芸術活動については「現在、何らかの芸術活動をしているケース」を「活動あり」として、それぞれ活動に独立変数がどのように影響しているのかを分析した。
【独立変数】
- 子どもの性別……男子、女子(女子を基準)
- 世帯年収……年収800万円以上、600~800万円、400~600万円、400万円未満(400万円未満を基準)
- 父親の学歴……大卒(短大卒、大学院卒を含む)、大卒以外(大卒以外を基準)
- 母親の学歴……大卒(短大卒、大学院卒を含む)、大卒以外(大卒以外を基準)
- 子どもへの進学期待……大卒以上希望(短大卒、大学院卒希望を含む)、それ以外(それ以外を基準)
- 母親の嗜好(母親自身が活動を好きかどうか)
- 身体を動かすこと……好き、好きではない(好きではないを基準)
- 歌を歌ったり、楽器を演奏したりすること……好き、好きではない(好きではないを基準)
- 絵を描いたり、ものを作ったりすること……好き、好きではない(好きではないを基準)
- 母親の習い事経験(小学生時代に経験したかどうか)
- スポーツ系習い事……経験あり、経験なし(経験なしを基準)
- 文化系習い事……経験あり、経験なし(経験なしを基準)
表1は、スポーツ活動を規定する要因について分析した結果である。p値から、いずれの変数も有意であることがわかる。次に、オッズ比から影響の強さ見ると、やはり「子どもの性」が活動の有無を強く規定していることは明らかだ。オッズ比は、基準のカテゴリーに対する事象の起こりやすさを示すが、子どもの性については「男子」が「女子」(基準)の2.181倍の確率でスポーツ活動を行っている。
また、「世帯年収」については、「400万円未満」の世帯に対して、「400~600万円」世帯では1.422、「600~800万円」世帯では1.772、「800万円以上」世帯では1.842と、年収が上がるにつれてスポーツ活動を行う確率が高まる。さらに、「母親の運動嗜好」も身体を動かすことが「好き」と答えているケースで1.663と高いオッズ比が出ている。これらは、先の片岡(2010)の分析結果と同様だ。
では、「母親のスポーツ系習い事経験」の影響はどうだろうか。オッズ比は1.310で、「子どもの性」「世帯年収」「母親の運動嗜好」よりも強くはないが、一定の影響を与えていることがわかる。親の習い事経験が、子どもの活動に継承されていく様子が示されている。その影響は、「父親の学歴」や「母親の学歴」よりも強い。
表1. スポーツ活動を規定する要因(小学生)(ロジスティック回帰分析)
表2は、芸術活動の規定要因について分析した結果である。こちらは、「子どもの性」について「女子」(基準)に対して「男子」が0.286となっており、「男子」であることが芸術活動を抑制する要因になっていることが示されている。この点はスポーツ活動とは反対の結果だが、それ以外の変数についてはほぼ同様の結果が得られた。やはり、「世帯年収」や「母親の音楽/芸術嗜好」などの影響が強く、「母親の文化系習い事経験」がそれらに続く。芸術活動については、「子どもへの進学期待」の影響も強い。
表2. 芸術活動を規定する要因(小学生)(ロジスティック回帰分析)