【企画趣旨】保育や教育の実践現場にも活用できる長期縦断研究

遠藤利彦●えんどう・としひこ

東京大学大学院教育学研究科教授。同研究科附属発達保育実践政策学センター(Cedep)センター長。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。博士(心理学)。専門は、発達心理学・感情心理学。著書に、『赤ちゃんの発達とアタッチメント』(ひとなる書房)などがある。

世界中で行われている長期縦断研究

 今回のオンラインシンポジウムでは、私ども東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(以下、Cedep)とベネッセ教育総合研究所の共同研究である「乳幼児の生活と育ちに関する調査」の概要とその中間報告をさせていただくとともに、その知見に基づきながら「乳幼児期の社会情動的発達を支える子育てとはどのようなものなのか」という問いに対して参加者の方と議論を深めたいと思います。
 本調査のような乳幼児期の子どもから調査を継続する長期縦断研究は、世界中で行われています。例えば、イギリスでは、第二次世界大戦が終わった直後である1946年生まれの方、1万人を追跡する調査が現在も継続されており、様々な領域において極めて貴重な知見が得られています。
 日本でも縦断研究への関心は非常に高く、例えば、環境省が実施している子どもの健康と環境を調査する「エコチル調査」や、文部科学省を実施主体とする厚生労働省との共管調査として2001年から「21世紀出生児縦断調査」などが行われています。

夫婦の関係性などが子どもの社会情動的発達に影響

 本調査は、できるだけ先端の発達心理学や発達科学、教育学、保育学の知見と理論に基づきながら学術的に意義があり、かつ子育て、保育や教育の実践現場にも幅広く活用される研究になるよう計画され実施されたものです。2017年より3,200組の親子を対象に調査を開始し、現在も十分に高度な分析に耐えうる形で維持しています。
 本シンポジウムでは、本調査で得られた知見の中でも夫婦の関係性、親の養育態度が子どもの社会情動的な側面の発達にいかに関わるかについての結果の概要と考察をお伝えできればと思います。日本においては、母親だけでなく父親の育児参加の必要性が強く叫ばれていますが、父親の育児参加は十分に進んでいないと指摘されています。そうした中、今回紹介する知見は、夫婦連携の重要性、そして子育てにおける相互理解、相互尊重、あるいは子育てに対する前向きな態度や適切な養育行動が、子どもの社会情動的発達に大きな影響力をもたらしていることを示唆する内容になっています。
 本日は、発達心理学会の代表理事を務められ、子どもの集団発達に造詣が深い放送大学愛知学習センター特任教授、名古屋大学名誉教授の氏家達夫先生にもご登壇いただき、参加者の皆さんとよい議論ができればと思っています。