【話題提供1】夫婦関係と育児への参加 ~ゲートキーピングに焦点を当てて~
大久保圭介●おおくぼ・けいすけ
東京大学大学院教育学研究科博士課程在学中。日本学術振興会特別研究員。修士(教育学)。専門は教育心理学・発達心理学。アタッチメント理論の視座から、親子関係や夫婦関係などの二者関係におけるケアギビングの機能と発達について研究している。2018年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトに参加。
ゲートキーピングを経験する父親も
ゲートキーピングというのは、「門番」という意味があり、図1に示したように、家事や育児を手伝おうとしたときに、パートナーから「下手にあなたがやるくらいなら、私がやった方がましだから、あっちに行って」と言われるような行動のことを指します。つまり、家事や育児に関わろうとしているパートナーの前に門番のように立ちはだかり、そこに入らせないようにしている行動のことです。もちろん、父親が母親の関わりをゲートキーピングすることも大いにあります。しかし、父親による家事・育児が十分に進んでいるとはいえない日本の現状においては、まずは父親の家事・育児が抑制されたり促進されたりする要因に着目する必要があると考え、今回の調査では母親から父親へのゲートキーピングに焦点を当てて取り上げました。
図1
日本で「イクメン」という言葉が聞かれるようになる以前から、海外では心理学の分野などでそうした行動についての研究が行われていました。対義語として、ゲートオープニングという言葉があり、こちらは父親の家事や育児を促進するような母親の行動を指します。
ゲートキーピングについては、2020年(3歳児期)調査から測定を始め、ゲートキーピングされている父親が、どのような影響を受けているかを考察しました。東北大学の先生が作られた尺度を用いて抑制行動(ゲートキーピング)と促進行動(ゲートオープニング)を測定しました。具体的な質問項目は図2に挙げているとおりです。
父親がどのくらいそうした経験をしたかを調べた結果、母親について、例えば、「あなたがやっていることを取り上げて、自分のやり方でやる」ことがある(いつも+よく+少し)と回答する父親が37.3%いるなど、母親からゲートキーピングされている(家事や育児の手伝いを抑制するような言動を母親からされている)と感じる父親が少なからずいることがわかりました。母親が忙しい生活をスムーズに進めるために、育児や家事に不慣れだと感じる父親をゲートキープせざるを得ない状況もあるのかもしれません。一方で、ゲートキーピングをまったくされていない父親、また完全にゲートオープニング(家事や育児の手伝いを促進させる行動を母親からされている)されているという父親も存在することがわかりました(図3)。
図2
図3
次に、ゲートキーピング(抑制)とゲートオープニング(促進)の相関を見ていきます。ゲートキーピングされている父親が、どのぐらいゲートオープニングされているのか、その関連を見てみると、弱い負の相関があり、ゲートキーピングされている父親もゲートオープニングされており、ゲートオープニングされている父親もゲートキーピングされていることがわかりました(図4)。
図4
父親の育児参加には、妊娠期の子育てに関する話し合いが重要
次に、夫婦関係および子育て肯定感との関連を分析しました。母親自身が「夫婦関係はよい」と思っている世帯は、父親はゲートキーピングされておらず、ゲートオープニングされていることがわかりました(図5)。
それに関連して、2018年(0歳児期)の調査では、妊娠期に夫婦で子育てについてどれくらい話し合ったのかを聞いたデータがあります。そのデータと今回の調査の関連を分析した結果、妊娠期に子育てについてよく話し合った世帯は、ゲートオープニングされている父親が多いことがわかりました。また、それほど多くはありませんが、父親が「女性は家で仕事をして、男性が外で働くべきだ」といった伝統的な価値観を持っている父親ほど、母親からゲートキーピングされているという正の相関があることもわかりました(図6)。
図5
図6
次にゲートキーピングされていることが、父親にどのような影響を与えたか見ていきます(図7)。父親の子育て肯定感(子育てに対する効力感や自信、楽しさ)や精神的健康との相関を見たところ、ゲートキーピングされていると、そうした項目と負の関連が見られることが明らかになりました。ゲートキーピングされていることが、子育てに向かう気持ちや父親自身の精神的な健康を阻害している可能性が、本調査で示されました。
図7
ここまでの内容を踏まえると、ゲートキーピングという現象は一部の家庭に限った話ではなく、それなりに多くの人(今回は父親のみを分析対象としましたが)が経験していることだと言えます。そして、そうした言動は父親が家事や育児に向き合う前向きな気持ちと関わっていることがわかりました。
夫婦の形は多様です。家事や育児をしたいと思っていても、どうしても時間がとれない人もいますし、苦手だからできない人もいます。パートナーに中途半端にされるくらいなら自分がした方がいいと思う人もいるかもしれません。しかし、それでもなお、少しでも家事や育児に関わろうとするパートナーに対しては、その芽を摘まないように協力して取り組むことが重要かもしれません。また、父親が母親とともに家事や育児のスキルを高めていけるように工夫したり、お互いの好きなことや得意なことをいかした分担や協働について話し合ったりすることも大切でしょう。家事や育児にあまり関われないパートナーに対しても、できるときに、得意なことから関われるように「門を開けておく」ことが重要だとも言えます。これから子育てを始める方は、妊娠期から夫婦でこうした言動について話し合っておくのはいかがでしょうか。