【話題提供3】父親・母親の養育スタイルと子どもの発達
唐 音啓●とう・おんけい
東京大学大学院教育学研究科博士課程在学中。修士(教育学)。専門は教育心理学・発達心理学。養育行動や子どもの非認知能力の発達等に関心を持って研究に携わっている。2019年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトに参加。
父親・母親のお互いのネガティブな養育行動は影響しあう
最初に、0歳児期から2歳児期の調査結果より、乳幼児期の親の養育行動について見ていきます。本調査における養育行動とは、大きくわけて以下のように「温かく優しい声で話しかける」といったポジティブなものと、「何か失敗するときつくせめる」といったネガティブなものに分けて測定しています(図1)。
乳幼児期における父親と母親のポジティブな養育行動とネガティブな養育行動は、子どもの年齢とともにどのように推移するのでしょうか。ポジティブな養育行動は、母親の方が父親より少し高い数値を示していることがわかりますが、いずれも横ばいに推移していることがわかります。一方、ネガティブな養育行動は、母親、父親ともに年を追うごとに全体として高くなるという結果になりました(図2)。
図1
図2
乳幼児期にみられる養育行動は、子どもが特定の大人との間に築く情緒的なつながりであるアタッチメントとも関連しています。2歳児期の調査結果ですが、母親と父親のポジティブな養育行動とアタッチメントは正の関連があり、ネガティブな養育行動とアタッチメントは負の関連があることがわかりました(図3)。
次に、パートナーの養育行動から受ける影響、自分の養育行動がパートナーの養育行動に与える影響について分析しました(図4)。ポジティブな養育行動もネガティブな養育行動も、0歳児期から1歳児期にかけては、互いの影響を受けあっていることが読み取れます。また、ネガティブな養育行動のほうがポジティブな養育行動の数字よりも高くなっていることから、お互いのネガティブな養育行動の方が影響しあう可能性が考えられます。
図3
図4
養育スタイルが、子どもの社会情動的発達に影響
ここまで0歳児期から2歳児期までの養育行動は、お互いに影響しあっている可能性を示しましたが、子どもの発達にあわせて、親の養育行動も変化しています。2020年の3歳児期の調査では、幼児期における親の養育スタイルとして、以下の4つの項目(温かい応答性、攻撃性、許容的で甘い養育、統制)を追加し、それぞれに具体的な子育てシーンを挙げ、そうした養育をどの程度行っているのか調査しました(図5)。
全体的な特徴として、幼児期における養育スタイルとして「温かい応答性」の得点が一番高く、「許容的で甘い養育」が一番低いことが読み取れます(図6)。
図5
図6
最後に、親の養育スタイルと子どもの発達の関連について紹介します。今回の調査では、「自己主張」「自己制御」「協調性」「好奇心」「頑張る力」の5つの概念を含む、子どもの社会情動的発達との関連を分析しました。そして、父母の養育スタイルの組み合わせによって、子どもの社会情動的発達に影響があるのか分析しました。
全体の中から特徴の見られた4つのグループのうち、「応答性」に注目すると、グル—プ3は父母ともに「応答性」が高く、グループ2は父母ともに「応答性」が低い養育スタイルを持っていることがわかります(図7)。子どもの社会情動的発達の得点については、グループ3の得点が最も高く、グループ2の得点が最も低いことがわかりました(図8)。グループ3の養育スタイルから、父母ともに子どもに対して温かく関わるという土台があったうえで、ほどよいしつけのような関わりをどちらかの親(この分析では父親)が担うことが、子どもの発達によい影響をもつ可能性が示唆されました。(ただし、子どもの社会情動的発達は、親の関わりだけでは説明できない部分もあり、ほかの介在要因を検証する必要があります)。親の養育スタイルの組み合わせによって、子どもの社会情動的発達の得点に差があることがわかりました。
図7
図8
本調査からは、父親と母親の養育行動がお互いに影響しあっていること、子どもの発達は、父母の養育スタイルの組み合わせによっても影響を受けていることが示唆されました。こうした結果をふまえると、親に対する支援においては、ポジティブな養育行動を促したり、ネガティブな養育行動を低減したりするような取り組みが求められるでしょう。同時に、父親と母親のどちらかだけを対象にしたものよりも、父母両方を対象にした支援をしていくことが必要であると考えられます。