2023/06/14

【新設予定大学インタビュー】コンセプトは、「ともに、文明をつくる大学」。課題先進地域で、人と地域との共創を軸に、世界をリードする学びをつくる

Co-Innovation University
(仮称、2024年10月文部科学省申請予定、2026年4月開学予定)
略称:CoIU(コーアイユー)
全国の各地域を学び場とする新たな大学が、2024年10月に予定している文部科学省への設置申請に向けて準備を進めている。提携した地域を拠点として、地域の課題に、地域の人々や企業などと連携しながら取り組み、新たな未来を、そして文明をつくり出すことを目指す「Co-Innovation University」(仮称)だ。インターンシップを進化させた「ボンディングシップ」をカリキュラムの軸に据えるなど、既存の学びの打破にもチャレンジしようとしている。新たな大学の構想や、そこにかける想いについて、学長候補の宮田裕章教授(慶應義塾大学)に話をうかがった。
お話を聞いた方
宮田裕章

宮田裕章

Co-Innovation University 学長候補
1978年岐阜県生まれ。2003年東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同分野保健学博士(論文)。早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座助教を経て、2009年4月東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授、2014年4月同教授(2015年5月より非常勤)、2015年5月より慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。専門は、データサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサーを始め、多様な社会活動に携わる。
【Co-Innovation University(仮称)概要】(予定)
設置学部 共創学部
入学定員 120人
拠点 15拠点の地域と連携(2023年3月末時点)、本部所在地は岐阜県飛騨市
図1 CoIUの学びの拠点。2023年3月末時点で15拠点ある。

時代の転換期だからこそ、「文明をつくる大学」が求められる

—CoIU(仮称)のウェブサイトでは、「いま、文明に問う」「ともに、文明をつくる大学」というメッセージが打ち出され、新たな大学設立への強い想いを感じました。どのような大学を目指しているのでしょうか。
宮田 私たちが目指すのは、人と人とが対話し、地域の可能性を再発見しながら、新しい未来をともにつくる、そうした人材を育むことです。
人類は、農業革命、産業革命と、大きな社会構造の変革を経験し、そして今、情報革命という時代の転換期にあります。情報技術の発達により、経済を動かす中心は「石油」から「情報」に置き換わりました。人と人とのつながりが変わり、さらに、一つの分野ではなく、多分野が融合することで、新しい未来が生まれようとしています。
そうした時代にあって、人々や地域がつながり、協力し合い、それぞれの可能性を見いだし、足りないところは補い合いながら、社会を構成していくことが重要です。私たちは、そうした「共創」によって、イノベーションを生み出し、新たな文明をつくっていきたいと考えています。
共創を意味する言葉には、「Co-Creation(コ・クリエーション)」がよく使われますが、多くは「ものづくり」の文脈において用いられています。もちろん、ものづくりは新たな未来をつくる上で重要ですが、あくまでも手段です。私たちが目指すのは、一人ひとりの未来、地域の未来、そして世界の未来を、ともにつくる、つまりイノベーションを生み出すところにあります。その決意と熱意を表すために、大学の名称を「Co-Innovation University」(仮称)としました。
—「共創」をどのように学びの場に落とし込もうとされているのでしょうか。
宮田 学生が地域に出て、地域の課題に向き合い、地域の人々や自治体、企業、NPOなどと対話しながら、その解決に取り組む経験を、繰り返し積んでいくカリキュラムを構想しています。その軸となるのが、地域で就業体験を行う「ボンディングシップ」です。これは、私たちのオリジナルな教育メソッドで、「地域との絆『ボンド(Bond)』」と「インターンシップ」を組み合わせて独自にネーミングしたもので、いわばインターンシップの進化形です。
インターンシップをカリキュラムに組み込み、初歩的なものから実践的な活動まで、段階的に取り組めるようにしています。内容や期間が様々な多数のプログラムを用意する予定です。そして、大学・学生と地域・企業を橋渡しするコーディネーターや、学生と大学の間に入ってキャリア支援を行うキャリアコンサルタントを配置し、教員や地域と連携しながら、学生一人ひとりに伴走して、学びを支援していきます(図2)。
学生が地域と密接につながり、絆を強めていく中で、自分が何を大切にして、どういうつながりをこの社会につくっていきたいか。こうした想いが研ぎ澄まされて、自身と社会の未来のビジョンにつながる、大事な学びになると捉えています。
図2 学生の学びに伴走するイメージ。教員や地域、キャリアコンサルタント、コーディネーターが連携して、学生を支援する。
—かなり実践的な学びですね。
宮田 背景には、子どもの学びを変えなければならないという強い想いがあります。インターネットの普及によって、知識・技能の習得よりも、知識・技能に効率よくアクセスし、いかに活用するかが重要になりました。最近では、チャットGPTが登場し、その動きは加速していくと予想されます。私たちの学び方や働き方は、大きく変わっていくでしょう。
そうした時代において、問いを立てる力がより大切になると考えています。問いがなければ、答えはありません。インターネットで答えを探すことはできても、その問いを立てるのは人間だからです。
しかし、これまでの教育では、問いを立てる力を学ぶことはあまり重視されてきませんでした。そこで、ボンディングシップなどにおいて、学生が地域の現実にある課題に向き合い、問いを立て、プロジェクトを実践する過程を通じて、問いを立てる力を育んでいきたいと考えています。リカレント教育の一貫として企業を巻き込んだり、既存の学問を融合させたり、アートを通じてものの見方を学んだりと、様々な学びに挑戦していきます。

課題先進国だからこそ、世界をリードする可能性に満ちている

—学びの拠点として既に15地域との連携を発表されています(図1)。地方を拠点とする意図を教えてください。
宮田 日本は、「課題先進国」であり、中でも地方はその先端を進んでいます。例えば、今、地方が直面している少子高齢化と人口減少、それに伴う生産年齢人口の減少、都市への人口集中などは、今後、世界各国が取り組むことになる課題です。東アジアやヨーロッパでは、日本から10年〜15年遅れで日本と同じ状況になると言われています。
アメリカのシリコンバレーや中国の深センといった世界の最先端都市が持つ勢いはすさまじく、その分野での日本のプレゼンスは低いと言わざるを得ません。しかし、少子高齢化・人口減少などの課題について最も危機感を抱いている日本の地方で、その課題に真剣に取り組み、ソリューションを創造し、まちづくりを進めた人材は、世界をリードする可能性があると考えています。
—課題が山積しているからこそ、速いスピードで進まなければならないと言えそうです。
宮田 日本でも一部の都市ではまだ人口増にあり、実感できていない面があると思いますが、地方では、既存の社会構造が限界にきて、弊害が顕在化し、既に課題に取り組んでいる地域が多々あります。待ったなしの課題を抱えている地方だからこそ、新しい価値の創出が必要とされており、その点では未来をつくる力が強いのではないでしょうか。例えば、飛騨市では、森林面積が市の面積の約9割を占めます。林業を再構築し、エネルギー産業をかけ合わせて、木質バイオマスなどの再生可能エネルギーといった新しいビジネスを、地域づくりに生かそうとしています。
一方で、東京などの大都市も、突き詰めれば地域の集合体であり、地方とは異なる課題に直面しています。そうした意味で、大都市にもいろいろな可能性があり、15拠点の中には東京、京都、福岡などの都市部も含まれます。
学生は、自分の関心ややりたいことに応じて拠点を選んでボンディングシップに取り組みます。場合によっては、1か所にとどまらず、ボンディングシップごとに拠点を移動することも想定しています。地域によって、環境や課題は異なり、それに対応したソリューションは違います。様々な地域を学びの拠点にすることで、多様な人材が輩出することを期待しています(図3)。
図3 学びのフィールドとして想定される分野。
—飛騨市は本拠地という位置づけでしょうか。
宮田 飛騨市には校舎を建設予定ですが、本拠地というより、象徴としての場所となります。大学名に「飛騨」を表現しなかったのも、すべての拠点がフラットに未来をつくることができる大学にしたいと考えたからです。
具体的な方法は検討中ですが、1年次に飛騨のキャンパスに学生が集まり、ともに学ぶ仲間として交流し、座学で基礎を学び、最初のプロジェクトを実践し、2年次以降は、学生が自分の関心やキャリアの展望に応じて拠点を選び、プロジェクトやボンディングシップを行います。各拠点に分散するので、同学年が少なくなりますが、地域や企業など、年齢も立場も異なる様々な人たちとの学びが、学生の成長を促すことでしょう。

学びのログを丁寧に見取り、入学後の学びとマッチングを図る

—学生の学びの変革に向けて様々なチャレンジをされますが、どこがポイントになるとお考えでしょうか。
宮田 新しい学びを行う意欲的な教育機関が増えてきていますが、子どもの学びを変える重要なポイントの一つは、大学入試にあると考えています。既存の大学入試制度である限り、知識習得型の学びが主流にならざるを得ないからです。
私たちは、受験生のそれまでの学びのログを私たちと受験生が一緒に見て、本学での学びがその受験生の将来をどのように開くのか、そのマッチングをするという選抜方法を構想しています。例えば、地元の商店と一緒に新しいサービスを開発した、地域のお祭りを運営した、高齢者施設で高齢者を支える取り組みをした、あるいは、部活動でチームビルディングに貢献したなど、中学校や高校で何にチャレンジしたのかを見て、本人に大学入学後や将来像を聞き、本学がその受験生のキャリア形成にどのように貢献できるのか、入学後の学びにどう伴走できるのかを検討するのです。
—受験生一人ひとりの学びを丁寧に見取っていくのですね。
宮田 以前は、そうした学びのログを見取ることは難しかったのですが、今では、キャリア・パスポートを始め、テキストや画像、音声など、学びの成果を記録できるツールが様々にあります。本人の振り返りに加えて、教員や同級生などからのフィードバックも記録しておけば、本人のひとりよがりではなく、客観的な評価も容易に共有できるようになりました。サマーキャンプやワークショップ、アイディアソンを一緒に行い、ともに時間を過ごす中で、受験生の生き様に触れるといった方法も検討中です。
中学生や高校生の多感な時期に、いろいろな可能性に触れてほしいと思っています。一定レベルの知識は必要となりますが、そうして精一杯チャレンジしてきた記録を私たちも読み、道を開くパートナーとして寄り添っていきたいと考えています。

高等教育のスタートアップとして、未来への問いを立て、向き合っていく

—2022年度には、ボンディングシップの実証実験を行われましたが、どのような手応えがありましたか。
宮田 北海道、石川県、福岡県、岐阜県などで、計7つのボンディングシップの実証実験を行いました。例えば、静岡大学の学生が、出身地の飛騨市役所で、飛騨市ファンクラブの中のキャンプクラブの創設と、市内のキャンプ場の活性化に、6か月間取り組みました。コロナ禍で、市役所職員とのコミュニケーションはほぼオンラインという苦労がありながらも、イベントの企画・運営や情報発信などを行いました。
ボンディングシップでは、自治体や企業から提示された課題に取り組むことを想定していました。実証実験が終わって、学生に「次にどんなプロジェクトに取り組みたいか」と尋ねると、「自分でプロジェクトを立てて実行したい」という答えが返ってきました。主体的に取り組むうちに、様々な考えが湧き起こったのでしょう。その言葉を受けて、学生が自分で立ち上げたプロジェクトを支援することも検討しています。学生の主体的な取り組みを単位認定する方法もありますが、ネットワークを活用すればチャレンジの幅が広がり、資金面での支援も可能かもしれません。アントレプレナーシップにつながる学びにもなりますし、私たちも一緒によりよい形を探っていきたいと考えています。
—設置申請に向けて様々な検討をされていくと思いますが、今後の展望をお聞かせください。
宮田 私たちが意図する学びが実現するかの検証や、教員のKPIの設定など、新たな学びへのチャレンジに向けて準備を進めていきます。また、地域と結びついて社会人のリカレント教育を実施することも、重要な役割と捉えており、その形も模索しています。
今までの取り組みを大きく変えることは、組織が大きくなればなるほど難しいものです。スタートアップがチャレンジをしながら、実現可能なことを見つけ、実践して、成功例をつくり、それを広めていくことで、大きな組織が変わり、社会が動いていきます。高等教育でも、それは同じであり、私たちがスタートアップとして、新しい学びの可能性を追求し、学生の成長を支える学びをつくり、それを他大学にも広めていくことが、高等教育全体の改革につながると考えています。
1学年120人の学生一人ひとりと向き合い、彼ら・彼女らの未来を開くために多様な問いを立て、ともに考えて、答えをつくり出していく。それを軸に、社会構造の転換期にあって、ともに未来をつくる大学を目指していきます。
取材日:2023年3月14日