2020/12/11
【学び場ラボ】主体的・対話的で深い学びのベースをつくる! コーチングを授業する 小学校・国語×コーチング
現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
2020.12.11 update
新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、グループワークやプレゼンテーションなど、授業で子どもたちが意見を交わす場面が増えている。対話的な学びを深いものとするために、子どもたちが本当に意見の交流をできるようにしたい。そうした課題意識から、成城学園初等学校の秋山貴俊先生は、目標達成を支援するコミュニケーションの手法である「コーチング」を子どもたちが学ぶ授業を実施した。今回の「学び場ラボ」では、その授業を再現し、学びのベースとなるコミュニケーションのあり方についてラボ参加者と語り合った。
1.小学3年生がコーチングを学ぶ授業を実践
授業での話し合いや休み時間でのやり取りなど、子どもたちの会話を聞いていると、自分が言いたいことを言うばかりで、相手の言葉を受け止められず、会話のキャッチボールが成立していないと感じる場面が少なくなかったという秋山貴俊先生。
他者の話をしっかり聞くことができれば、相手のことを知りたくなり、関心を持って相手の話を聞くようになる。その意欲を相手が感じ取れば、話す側も意欲的に話すようになり、子ども同士の考えのやり取りが充実するようになるのではないか。そう考えた秋山先生は、自身もその手法を学んだコーチングを子どもたちが学ぶ授業を、担任を受け持つ小学3年生で実施した。
[コーチングとは]
対話を重ねるコミュニケーションによって、新しい気づきをもたらしたり、視点を増やしたりして、目標達成に必要な行動を支援するプロセスのこと。企業では、人や組織の可能性を開くマネジメント手法の一つとしても、広く活用されている。
「学校向けにコーチングに関する書籍は数多く出版されていて、教員が子どもと接する際のスキルとしてコーチングが活用されるようになってきています。しかし、それだけにとどまらず、子ども自身がコーチングを経験することによって、教員がかかわらなくても、子ども同士の対話が充実するのではないかと考えました」(秋山先生)
目指すは、クラス全員が、授業や日常生活の中で、相手の思いを聞くことができ、聞いた上で相手に自分の思いを返せるようになることだ。
「学び場ラボ」の模擬授業では、秋山先生が小学3年生の国語で実施した単元の全4時間のうち、1時間目の「承認」の授業を行った。ラボ参加者は、教員に加えて、保護者や社会人など、コーチングに関心があるという人を含めて約20人。海外からの参加もあった。
■今回の「学び場ラボ」模擬授業の概要
①紙と筆記用具を用意。紙に縦横2本ずつ線を引き、9マスをつくる。
②中央のマスに「りんご」と書く。
③残りの8マスに、「りんご」からイメージした言葉を書く。制限時間は2分。
名詞や形容詞など、どんな言葉でもよい。ただし、書いた言葉の連想ゲームとならないよう、あくまでも「りんご」から思いついた言葉とする。
④4〜5人ずつのグループに分かれ、自己紹介後、自分が書いた言葉を発表。全員が発表したら、その言葉を書いた理由を伝え合う。
⑤再び9マスをつくり、中央のマスに「教育」と書き、その言葉からイメージした言葉を残りの8マスに書く。
⑥④と同じグループになり、書いた言葉を発表し合う。その際、聞き手側は、8つの言葉の中から一つ選んで「なぜ、そう思ったのですか?」と理由を尋ね、発表者はそれに答える。1番の人は4番の人、2番の人は3番の人に尋ねるというようにローテーションを組む。
②中央のマスに「りんご」と書く。
③残りの8マスに、「りんご」からイメージした言葉を書く。制限時間は2分。
名詞や形容詞など、どんな言葉でもよい。ただし、書いた言葉の連想ゲームとならないよう、あくまでも「りんご」から思いついた言葉とする。
④4〜5人ずつのグループに分かれ、自己紹介後、自分が書いた言葉を発表。全員が発表したら、その言葉を書いた理由を伝え合う。
⑤再び9マスをつくり、中央のマスに「教育」と書き、その言葉からイメージした言葉を残りの8マスに書く。
⑥④と同じグループになり、書いた言葉を発表し合う。その際、聞き手側は、8つの言葉の中から一つ選んで「なぜ、そう思ったのですか?」と理由を尋ね、発表者はそれに答える。1番の人は4番の人、2番の人は3番の人に尋ねるというようにローテーションを組む。
小学3年生に行った授業では、一つめの言葉は同じ「りんご」だが、二つめの言葉は「牛」だった。模擬授業の参加者には教員が多かったため、「教育」とした。
2.「聞きたい」と自然に思える活動にする
各自が書いた言葉を共有するグループワークでは、自分と同じ言葉が出てくると共感し、自分がイメージしなかった言葉には驚くなど、参加者がそれぞれの発表を楽しむ様子が見られた。
チャットには、「人の気づきに気づくという時間が楽しかった」「言葉には、その人が見えている世界が宿っていると感じられた」などのコメントが寄せられた。
模擬授業後は、参加者から様々な質問が秋山先生に寄せられ、司会の東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生がそれらの質問を一つずつ取り上げながら、意見交換が行われた。
蓑手先生がまず着目したのは、「相手の話を聞きたい」と思わせるマインドづくりの工夫だ。活動では、参加者全員が同じ言葉について思いを巡らせるため、同じことに関心を持つという対話の土台ができていた。グループワークでは、相手の話を聞きたくなったり、自分が話したくなったりと、対話への意欲が自然に持てるようになっていたといえる。
そうした相手への関心こそ、対話では何よりもまず持つべきではないかと、蓑手先生は指摘した。
「国語の授業で『話す・聞く』を学習課題とする場合、『静かに聞く』『分かりやすく話す』『順序を決める』など、まず型を取り上げることが多いと思います。しかし、対話は、型だけで成立するものではありません。相手の話を聞く姿勢や相手に伝わる話し方を、他者との会話の経験を通じて獲得していくのだと思いますが、コーチングには相手の話に関心を持って聞く仕組みがあり、対話のマインドを育みやすいのではないかと感じました」(蓑手先生)
秋山先生は、子どもがまず「聞く」楽しさを感じられるよう、活動を工夫したと語った。
「例えば、質問の型を学び、質問できたとしても、相手に関心を持っていなければ、型をなぞるだけで、知りたいと思っていないことを質問するのは相手に失礼になります。そこで、相手の話に自然と関心が持てるようになれば、聞くことが楽しくなり、もっと聞きたいという意欲につながると考えました」(秋山先生)
その工夫の一つは、お題となる言葉選びだ。
「身近なものでありつつ、様々な捉え方があるものにすると、グループワークで話が弾みます。『牛』は、食べ物や生き物など、様々な側面があるので、小学3年生でもイメージする言葉に違いが出やすいと考えて選びました」(秋山先生)
3.まずは「違いがある」ことを感じさせる
次に話題となったのは、小学生がコーチングを学ぶことができるのかという点だ。秋山先生は、他校でこの授業を紹介すると、「都心部にある私立学校の子どもだからできるのではないか」と言われることがあるという。
蓑手先生は、授業の目的がスキルの習得ではないため、学年に応じた活動にすれば、低学年でも実践できると説明した。
「コーチングを学ぶ授業ですが、いちばんのねらいは、子どもが『聞いてもらう楽しさ』を感じ、『他者の話を聞きたい』という姿勢の醸成にあります。イメージする言葉を『単語』としているので、どの学年の子どもも書けるはずです。あとは、子どもたちの対話が成り立つよう、教員がしっかり支援すれば、学年や学力にかかわらず、この授業を実施できると思います」(蓑手先生)
一方、発達段階に関連して、「大人は『違い』を楽しめますが、小学3年生では『違い』を受け入れられない場合があるのではないでしょうか」という疑問も出された。それに対して、秋山先生は「そうした子どもを支援するとともに、活動の工夫では、やり取りを深めないことがポイント」と語った。
「本来、コーチングでは、対話をしながら考えを深めてきますが、違いを受け止められない子どもにとっては、他者とのやり取り自体が詰問に感じられる場合があります。そこで、授業では、あえて8つの言葉の共有にとどめ、子どもが『同じ言葉でも、人によってイメージする言葉は違う』と感じられればよいとしました」(秋山先生)
なお、授業では、活動前に友だちの発言を「批判しない、否定しない」というルールを伝えた。子どもが言葉を自由に発想して、発言できるように、また、8マスを埋められなくても、子どもが恥ずかしい思いをしないようにしている。
4. アイデアは宝!子どもに自由な発想の場を
実際の授業では、2時間目の「傾聴」で、1時間目の各自の気づきを共有し、その気づきから、自分がまた別の気づきを得るという場を設けた。その際、聞き手役の子どもが「うなずきながら聞く」「うなずくなどの反応をしないで聞く」という2種類の場面を設けた。「反応をしないで聞く」場面では、多くの子どもが不安そうな表情をしていたという。
「子どもたちは、話を聞いてもらえないことはつらいのだと身をもって感じ、しっかり話を聞く大切さを理解していました」(秋山先生)
また、秋山先生は、小学3年生が理解できるように言葉の意味を説明した上で、「コーチング」「承認」といった専門用語を意図的に使った。子どもにとって理解が難しそうな専門用語だからこそ、子どもは「新しいことを学んでいる」というワクワク感を感じ、学習意欲が高まっていくからだと、秋山先生は説明する。
「大人が使う言葉を自分たちも使っているという背伸びを楽しむ雰囲気が、子どもを前向きな学習姿勢させるようです。学級会などで話し合いが行われた際に、子どもたちから『ここはちゃんと傾聴しようよ』『承認しないとだめだよね』といった発言があり、学んだことを活用していました」(秋山先生)
そのような子どもたちの様子を聞いた参加者からは、次のような声が上がった。
「授業中に『しっかり話を聞きましょう』と何度も言えば、子どもたちは聞くようになるのではなく、まずは『聞きたい』という思いを育むことが大切なのだと感じました。そうした意欲の醸成であれば、学年に関係なくコーチングの授業ができるというのも納得です」(参加者)
新学習指導要領の趣旨に照らし合わせると、今後、教員にはティーチングよりも、コーチングやファシリテーションの役割が求められるといわれている。それについて、蓑手先生と秋山先生は次のように語った。
「他者とやり取りする力は、自問する力にもなります。なぜ自分がそれをやりたいと思うのか、自問自答を繰り返し、自分の内面と向き合っていくことは、自律的な成長にもつながるのではないでしょうか」(蓑手先生)
「子どもが考えて取り組む活動が増える中、教員には子どもがやりたい方向に進めるよう支援することが求められ、コーチングのマインドやスキルが必要になると考えています。それは子どもにとっても同じで、聞く・話す・質問するといった対話のマインドやスキルが、学びのマインド・スキルとして必要になるでしょう。それらを育む授業を今後も続けていきます」(秋山先生)
プロフィール
秋山 貴俊
1984年東京都生まれ。文教大学教育学部卒業。株式会社帝国データバンク、西武学園文理小学校を経て、現在、成城学園初等学校教諭。成城学園情報一貫推進検討委員、日本スクールコーチ協会認定スクールコーチ。編著に『ゼロから学べるオンライン学習』(明治図書出版)、『誰でもできる!オンライン学級のつくり方』(東洋館出版社、2020年12月24日発売予定)がある。蓑手 章吾
教員14年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心を持ち、教鞭を執る傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。ICT活用についても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上についても理解を深めている。セミナー登壇経験多数。共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。教育雑誌『授業力&学級経営力』(明治図書出版)では、プログラミング教育に関する連載を持っている。
https://ict-enews.net/2017/10/27maehara-2/
https://edtechzine.jp/article/detail/1420