2024/12/24

【学会発表報告】日本教育工学会2024年度秋季大会「思考力の形成的アセスメントの解答過程に基づく単元教材における思考スキルの明示的な指導の影響の考察」

1.はじめに

ベネッセ教育総合研究所学習科学研究室の小野塚若菜・渡邊智也と,中京大学教授の泰山裕先生が,日本教育工学会で共同発表を行いました。この研究は,中学生の思考力育成を目指したアセスメント教材の開発と,その効果の検証に焦点を当てています。
【当日発表資料(ポスターPDF)はこちら】

2.研究の背景と目的

学習指導要領においては,資質・能力の3つの柱の一つである思考力・判断力・表現力等(以下,思考力と略す)を教科等横断的に育成することが重視されています。そこで,小野塚・泰山(2021b)が開発したCan-do statements(以下,Cds)と呼ばれる能力記述文を教科横断的な思考力のフレームワークとし,教科の単元学習を通じて思考力を育成・評価するアセスメント教材を開発しました。本研究の主な目的は,以下の点を明らかにすることです。
  1. 開発したアセスメント教材における思考スキルの明示的指導の効果
  2. 教材で学習した思考スキルの他の文脈への転移可能性
<本教材の特徴>
開発されたアセスメント教材は,目標とするCds項目と,解答の際に適用する思考スキル(泰山・小島・黒上,2014)を冒頭(表紙)に提示しています(下図)。指導パートと確認テストで構成されており,指導パートは学力調査問題をベンチマークとして作成した思考力問題をゴールとして,基本的な知識や内容に関する複数の設問と解答解説が交互に示される形で足場掛けがされる設計です。
設問の段階で考える手段として思考スキルが表示されるため学習者はそれをヒントに解答し,また解答後の解説部分にも再び思考スキルが明示され,その問題の文脈に沿った考え方が示されます。このような構成の指導パートによって単元内容とともに問題解決に用いる思考スキルの適用方法の理解を促します。確認テストは指導パートの後に行い,思考スキルを適切に適用して設問に解答できるかを確認します。

3.研究方法

中学2年生17名の学習者を対象に,調査を行いました。学習者は以下の手順で教材に取り組みました。
  1. CBTシステム上で,1人につき国語または数学の2つの単元の指導パートに取り組む。
  2. 同じ教科の確認テスト2問に解答する。
  3. 数学受検者は,さらに,同じCds項目を測定対象とする他教科(国語,理科,社会)の確認テスト1問に解答する。
2および3では,解答中の思考過程を把握するため,思考発話法を用いて学習者の発話を収集し,データ化しました。

4.結果と考察

学習者の発話データの分析から,指導パートで取り組んだ教科と同じ教科・領域の場合は,学習した思考スキルとの関連性を意識して適用する傾向が見られましたが,別の教科の文脈では,意識的な適用が難しい傾向が示唆されました。
ただし,調査後のインタビューでは,多くの学習者が,思考スキルを他教科で活用する場面を想起していることがわかりました。
これらの結果から,思考スキルの教科横断的な転移を促すには,より明示的な指導と時間が必要である可能性が示唆されました。今後は対象者を増やし,より長期的な調査を行うことで,思考スキルの教科横断的な適用をどのように促すことができるかを明らかにしたいと考えています。

関連研究

※関連研究以外の本記事中の引用文献
泰山 裕,小島亜華里,黒上晴夫 (2014). 体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討:学習指導要領とその解説の分析から.日本教育工学会論文誌,37(4):375-386
https://doi.org/10.15077/jjet.KJ00009296323
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