2023/08/08

論文掲載報告「教科横断的に育成される思考力の測定に向けたアセスメント開発」 (日本テスト学会誌)

概要

 ベネッセ教育総合研究所 学習科学研究室の渡邊智也・小野塚若菜・野澤雄樹と,鳴門教育大学准教授の泰山裕先生の共著論文が,日本テスト学会誌 第19巻に掲載されました。

渡邊智也・小野塚若菜・野澤雄樹・泰山裕(2023).教科横断的に育成される思考力の測定に向けたアセスメント開発—内容領域の設定ならびに項目の作成・評価— 日本テスト学会誌, 19(1), 155-176.
https://doi.org/10.24690/jart.19.1_155

研究の背景・目的・方法・結果概要

 平成29年告示の中学校学習指導要領の要諦のひとつである「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力とします)は,教科横断的に育成・評価することが重視されています。
 しかし,先行研究では,思考力の目標は各教科固有の見方・考え方からの捉えにとどまるものが専らであり,結果として,中学生の思考力の学習達成を教科横断的に評価する手立てが十分に存在しませんでした。
本研究では,先行研究を踏まえ思考力を「現実の問題状況や目的に合わせて,思考スキルを活用し,問題解決や意思決定を行う力」(泰山, 2014)とし,将来的にそのアセスメントを開発することを見据えて,以下3つの研究課題に取り組むこととしました。
 これにより,まず思考力の達成状況を把握するために妥当な問題項目が開発できるかどうかの可能性を検討することとしました。

①問題項目の作成

 各教科の中学校学習指導要領・その解説から抽出された教科共通の「思考スキル」(泰山, 2014; 小野塚・泰山, 2021a)という理論的枠組みに基づく思考力の学習目標の枠組みである,思考力Can-do statements(小野塚・泰山, 2021b)を用いて,アセスメントの問題項目の試作版を作成しました。この問題項目は,特定の教科に依存しない文脈において思考力が発揮されるかを測るものとして作成されました。

②思考発話法による質的調査

 それらの問題項目が,作問時に意図した中学生の思考過程を引き出せているかどうかを調査するため,少数の中学生を対象に思考発話調査(think-aloud interview)を行いました。解答している際の思考過程に関する中学生の発話プロトコルデータから,問題項目の妥当性の証拠と,問題項目を改善していくための手がかりの収集を試みました。この結果,①で作成した問題項目は概ね意図した思考過程を引き出していると推測されるものの,設問文の欠陥などにより中学生がうまく設問に答えられない問題項目があり,改訂の方向性が議論されました。

③量的データに基づく項目分析

 問題項目の統計的性能に顕著な不備がないかどうかを調査し,改善の方向性を議論するため,中学生百数十名を対象に問題項目群に解答してもらい,要約統計量などから問題項目(群)単位で統計的性能を評価しました。一部,正答率・識別力がやや低い問題項目があったため,問題項目内容や選択肢選択率の分析を通して,その要因と改訂の方向性を考察しました。

研究の意義と今後の展開

 これまで各教科での指導を通じて教科横断的に育成される思考力の学習達成を評価するための標準的な手立ては具体的には示されてきませんでした。本研究は,その思考力の妥当な評価を実現するアセスメント開発研究の先鞭をつけるものであるといえます。
 今後は,思考力の目標を示す思考力Cdsからアセスメントの目的に応じて適切な能力記述文を選択し,テストの仕様・問題項目の仕様を策定するプロセスの課題について検討することが求められます。
詳細については,以下の論文(日本テスト学会誌)をご覧ください。
渡邊智也・小野塚若菜・野澤雄樹・泰山裕(2023).教科横断的に育成される思考力の測定に向けたアセスメント開発—内容領域の設定ならびに項目の作成・評価— 日本テスト学会誌, 19(1), 155-176.
https://doi.org/10.24690/jart.19.1_155
※本記事中の引用文献
泰山裕(2014).思考力育成を目指した授業設計のための思考スキルの体系化と評価 関西大学審査学位論文
小野塚若菜・泰山裕(2021a).中学校新学習指導要領における思考スキルの抽出 日本教育工学会論文誌, 44(Suppl.), 121-124.
小野塚若菜・泰山裕(2021b).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会講演論文集, 369-370

関連研究

① 中学校の学習指導要領解説の記述にある学習活動を,教科間で共通する思考の方法である「思考スキル」と対応させ,各教科の思考力の特徴を定量的に比較・分析した研究です。本研究が依拠した思考力Cdsが示す思考力は,この思考スキルを起点に分類・整理を行っています。
小野塚 若菜・泰山 裕(2021a).中学校新学習指導要領における思考スキルの抽出 日本教育工学会論文誌, 44, 121-124.
1. 論文掲載に関するご報告と概要の説明
2. 論文本文(J-STAGE)
② 本研究が依拠したCdsの開発・提案を行った研究発表です。学習指導要領においてすべての学習の基盤となるとされている資質能力のひとつに言語能力がありますが,言語能力の側面から思考力全体を整理したフレームワークとしてCdsを開発しました。その開発手続きを説明し,各教科専門家の意見に基づきCdsの位置づけや内容について考察しています。
③ ②で提案されたCdsの妥当性の検証を行った研究発表です。この研究では,以下2つの問を検討しています。
1. Cdsが各教科等で育成を目指す資質・能力をカバーしているのか。
2. Cdsは各教科等の指導や評価を担当するものにとって了解性のあるものかどうか。
 全国学力・学習状況調査の調査問題に基づく分析や,教員・教材等作成者に対するアンケート調査から,各教科等の指導の実態を捉えるための枠組みとして妥当なものになっていることが確認されました。
④ これまでの思考スキル・思考力Cdsに関する研究成果を総合し,各教科での指導を通じて教科横断的に中学生の思考力を育むためのアセスメント教材(国語・数学)のプロトタイプを開発したうえで,中2生を対象とした思考発話調査により意図した思考力を引き出せているかどうかを調査しました。
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