2021/03/03
【学び場ラボ】模擬授業 5教科を学ぶ意義を言語化する
現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
2021.03.03 update
学校では、国語、数学(算数)、理科、社会、英語をはじめ多くの学問を学ぶ。しかし、「学校での勉強は、大人になったら本当に役に立つのだろうか」という疑問を持つ子どもは少なくない。今回の「学び場ラボ」では、そうした問いについて参加者と考えるオンラインの模擬授業を、一般社団法人Japan
Education Lab代表理事の古谷龍二さんが実施した。模擬授業後は、参加者らによるディスカッションを行い、学校での学びの意義について語り合った。
1.「何のために勉強するの?」子どもの質問に答えるために
古谷龍二さんが代表理事を務める一般社団法人Japan Education
Labは、小学校や中学校、高校にキャリア教育のプログラムを提供している。今回の模擬授業を行おうと考えた発端は、とある高校で進路について考える授業をしていた際、生徒から「何のために勉強するのか」と質問されたことだった。
「中学校や高校でキャリア教育に加えて、塾講師や家庭教師のボランティアなども経験してきましたが、指数関数や力学、漢詩、英語のイディオムがなぜ社会で役に立つのか、現状の学校教育では教科学習の意義を子どもたちに伝えきれていないと感じています。今日は、キャリア教育の一環として、5教科をなぜ学ぶのか、その意義を感じてもらえる授業の内容について、『学び場ラボ』の模擬授業を通じ、皆さんと一緒に考えたいと思っています」(古谷さん)
今回は、教員に加え、社会人や学生、約20人が参加した。
2.仕事と教科の結びつきを考える
■古谷さんの模擬授業の概要
①古谷さんから下記の問いかけがあり、参加者はそれぞれの問いに対する回答を、「Flying
ClassRoom(フライングクラスルーム)」(スマートフォンでも使用可能で通信量を抑えながら意見交換ができるオンライン授業ツール)に入力した。
・最近、どんな勉強をしましたか?
・なぜ勉強をするのですか?
・嫌いな科目はありますか?
・最近、どんな勉強をしましたか?
・なぜ勉強をするのですか?
・嫌いな科目はありますか?
②特定の教科と結びつきの強い職業を考え、参加者が回答した。
③4つのグループに分かれて、4つの職種や業種(弁護士、ホテルスタッフ、保険会社、ファッションデザイナー)がどの教科と結びつきがあるか話し合った。
④子どもから「なぜ学校で勉強するのか?」と聞かれたら、どう答えるかをグループで話し合い、学校での学びを社会で役立つものとするために、大人ができることはなにか話し合った。
古谷さんは、模擬授業のサブテーマが「5教科の学びは、仕事につながるのか」であると説明し、参加者に教科と仕事のつながりを考えてもらう導入として、「最近、どんな勉強をしましたか?」「なぜ勉強をするのですか?」「嫌いな科目はありますか?」の3つの質問をした。
「嫌いな科目はありますか?」という問いには、参加者からは「算数」が一番多く挙がった。古谷さんは、「子どもも嫌いな科目に『算数』を挙げる場合が多く、その理由を聞くと、『何のために勉強しているのかわからない』と言われることが多い」と述べた。しかし、古谷さんは、「5教科の学びは仕事との結びつきがある」とし、次のように語った。
「例えば、ゲームクリエイターは、子どもから大人まで楽しめるシナリオを考えることが重要なので、国語の力が問われます。また、保育士は、子どもに社会のルールを教える必要がありますので、社会が大切ではないでしょうか。このように、特定の科目と結びつきの強い職業は、世の中にはたくさんあります。そこで、特定の科目と結びつきの強いと思う職業を挙げてください」(古谷さん)
古谷さんは、「Flying ClassRoom」に記入した参加者の回答の中から2つを取り上げ、そう考えた理由を発表してもらった。
「私は、営業と数学は、関係が強いと思います。営業は対人業務と思われがちですが、目標をどのようにクリアするか数字的な戦略を立てられる人が活躍しやすいと感じました」(参加者)
「作家と社会です。世間が沈んでいるときには、明るい内容の本が売れるなど、社会情勢と本の結びつきが強いと思いました。そのため、作家の方は世の中の流れを知っている方がよいと考えました」(参加者)
次に古谷さんは、「仕事によっては、1つの教科に限らず、多くの教科とつながりがある職業もあると思います」と話し、弁護士、ホテルスタッフ、保険会社、ファッションデザイナーの4職種を挙げ、それらがどの教科との結びつきが強いか話し合うグループワークを行った。「Zoom」のブレイクアウトルームの機能で4つのグループに分かれ、「Google
Jamboard」を用いて、各グループの考えをまとめた。
「ソクラテスやプラトンの時代に、人はどう生きるのかを考え始め、今の学問がかたちづくられていきました。『どのように生きていくか考えたら、5教科を学ぶことにつながった』と思えるとよいという意見が挙がりました」(Aグループ)
「インターンシップなど、学校で学んだことを実践できる場を用意すればよいのではないかという意見が出ました。また、将来の目標から逆算して、自分に必要な勉強を調べていくべきだという話も挙がりました」(Bグループ)
「社会で活躍する人の話を聞いて、今の勉強が将来どのようにつながるかイメージできるとよいのではないかという意見が出ました」(Cグループ)
「個人の興味を中心に学ぶことが大事だと思います。そして、学んだ後に、それはこの教科だったのだと気づけるようにするのが理想だと思いました」(Dグループ)
各グループの発表を受けて、古谷さんは次のように授業を締めくくった。
「小学生や中学生に、学びの意味に気づかせるのはとても難しいと思います。学校現場でも学びとその場のキャリアをつなげて考えるような授業を取り入れてほしいと思い、今回のような模擬授業を提案しました。今後も、学びの意味を問いかけるキャリア教育のプログラムを深めていきたいと考えています」
3.社会に出る前に、学び方の練習を
模擬授業後は、東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生の司会で、古谷さんと参加者によるディスカッションが行われた。
蓑手先生は、古谷さんも感じているように「現状の学校教育で子どもに学ぶ必然性を十分に教えきれていないと感じることがある」と述べ、このプログラムを開発した背景をもう少し詳しく教えてほしいと質問した。
古谷さんは、高校などからキャリア教育として、大学進学や将来のキャリアを考えさせてほしいという依頼をよく受けるが、将来を考える前に、現在の勉強がキャリアにつながることを子どもたちに考えさせたいと常々感じていたという。
「『将来はコンサルタントになりたい』と思い、そうした学びができる大学に進学しても、必ずしも大学卒業後にコンサルタントになるとは限りません。大学で様々な学問を学ぶうちに、就きたい職業が変わる可能性があるからです。将来の職業を考える前に、まず目の前の勉強を大切にしてほしいと考え、今日の授業を考えました」(古谷さん)
蓑手先生自身は、「なぜ勉強をするのですか?」という問いに対して「楽しいから」と回答したうえで、古谷さんが考える勉強の意義を尋ねた。
「小学校から大学までの勉強は、大人になったとき学びたいことが出てきたときのための練習だと考えています。国語の考え方と算数の考え方は異なり、それを自分で体得しておくことが重要です」(古谷さん)
蓑手先生も、学校で学び方を学ぶという自己調整学習の大切さに共感した。一方で、「なぜ勉強をするのですか?」という質問の際に、参加者から「学ばなくてもいい」という意見があったことに触れ、そう回答した参加者に理由を聞いた。
「憲法では教育は義務とされていますが、その義務を負っているのは保護者と行政であり、学ぶ環境をつくることが必要です。子どもにとって、学びは権利であり、勉強したらどういったよいことがあるのか、それを子どもにイメージさせることができれば、子どもは自分が何を勉強すべきか見えてくるのではないでしょうか」(参加者)
それに対し、蓑手先生は、今の子どもたちは忙しくて、自分が何をしたいのか、考える余裕がないという実態を示し、自身の学習観を話した。
「最終的に、学びとは、生きることを味わいつくすためにする行為だと思っています。ですから、子どもが『学ぶことは楽しい』と気づくように導きたいと考えています。子どもには、自分の興味のある分野から勉強を深めてほしいと感じています。最初は狭い分野であっても、その分野を起点に学びが一般化していけばよいと思っています」(蓑手先生)
古谷さんは、蓑手先生の提案に賛成しつつも、教科をしっかり学ぶことが、職業につながるという道も持ち続けてほしいと語った。
「例えば、スポーツを好きな子が、アスリートになれないとわかったときに、数学を普段から意識的に勉強していたら、スポーツアナリストという仕事を見いだせるかもしれません。学校では、5教科だけでなく実技教科も含めて、幅広く学ぶ。100%でなくても、意義を言語化し、少しでも頑張ってみることが、将来につながるのではないでしょうか」(古谷さん)
プロフィール
古谷 龍二
東京理科大学を途中退学。その後、ソーシャルベンチャーで働きながら、民間のシンクタンクにて教育の研究に従事。2016年からは沖縄県久米島町にて地域おこし協力隊として着任し、高校魅力化事業の一環として学習環境整備・生徒のモチベーション開発のため中学校に勤める。2年後に東京へ戻り、トビタテ!留学JAPANの事務局にて個人寄附周りや地調査関係を担当。また、個別指導塾にて「読解力」のプログラム開発や講師育成を手掛ける。現在は一般社団法人Japan Education Labの代表理事を務めながら、トビタテ!留学JAPANのほかに複数のEdTech企業に関わっている。https://japan-education-lab.com/
蓑手 章吾
教員14年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心を持ち、教鞭を執る傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。ICT活用についても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上についても理解を深めている。セミナー登壇経験多数。共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。教育雑誌『授業力&学級経営力』(明治図書出版)では、プログラミング教育に関する連載を持っている。2021年2月13日に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)を出版。