【学び場ラボ】コロナ禍の学習を見据えた模擬授業「国語科編」 オンラインでの協同的な学び GIGA×『学び合い』×国語科
現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により全国的に臨時休業していた学校は、政府の緊急事態宣言の解除を受け、各地で再開した。現在、教育現場では、感染拡大防止に配慮しながら主体的・対話的で深い学びを実現させるという、難しい課題を突きつけられている。そこで、注目されているのが、ICTを活用した協同的な学びの実現だ。
東京都町田市立小山中央小学校の石井潤平先生は、ICTを活用した授業を3年前から実践している。2020年6月、石井先生による国語の模擬授業がオンラインで実施され、全国から20名以上の教師が参加した。その様子をレポートする。
1.第2波に備え、オンラインでの協同的な学びを模索
教職歴5年目の石井潤平先生は、「子どもとつながる、子どもをつなげる教育」をテーマにした授業研究及び学級経営に励んでいる。ICTを活用した授業に取り組み始めたきっかけは、勤務先の小学校で、ノートパソコン(Chromebook)が児童用に40台、全教員には1人1台ずつ導入されたことだ。
2019年度、4年生の担任を務めていた石井先生は、子どもが調べ学習をしたり、その内容をスライドにまとめて発表したりする際にノートパソコンを活用させていた。
また、臨時休業中には、子どもと担任とが日常的につながれるよう、学校と家庭をオンラインでつなぐ「オンライン朝の会」を企画。管理職への提案や校内研修などを行い、実現にこぎ着けた。
「今後、新型コロナウイルス感染症の第2波、第3波が来ると予測されており、オンライン授業についても研究したいと考えていました。そこで、『学び場ラボ』に参加し、オンラインで協同的な学びを展開する授業に挑戦したいと思いました」(石井先生)
2.物語文の読み取りに、Googleドキュメントのコメント機能を利用
今回の模擬授業は、オンラインで行われることを想定し、オンライン会議システム「Zoom」で実施。参加者同士がオンライン上で意見を交わし合うことで、対面授業でなくても学び合いが実現することを目指した。
石井先生が小学校5年生の国語「なまえつけてよ」(光村図書)で実施した4コマ分の内容を、模擬授業では、宮沢賢治の「注文の多い料理店」を教材文として、1コマ分に短縮して行った。模擬授業で子ども役となる参加者は、事前に教材文を読み、「おや?」「なんで〇〇なんだろう」「これはどういうこと?」など、各自で感想や疑問をメモしておいた。
模擬授業の展開は、以下の通りだ。
(1)事前にメモしておいた教材文の感想や疑問を書き込む
各自が用意していた感想や疑問をGoogle
ドキュメントに記入。Googleドキュメントは、多くのユーザーが同時にアクセスして編集ができるため、他の参加者がどのような記入をしているかリアルタイムで共有できる。
その特徴を生かして、石井先生は、参加者が書き込んでいるそばから、鋭い気づきや面白い見方を読み上げ、他の参加者の書き込みに注目させ、「文章でも単語でも気になったことを、どんどん書き込んでください」と更なる記入を促した。すると、参加者は「なぜクリームをつぼに入れたのだろう?」「若い紳士が、兵隊の格好をしていたのはなぜだろうか?」など、気になった点を気軽に書き込んでいった。
(2)グループに分かれ、ベストクエスチョンを決める
「Zoom」のブレイクアウトルームの機能を用い、3〜4名のグループに分かれ、各自の出した感想や疑問について共有した。書き込みされた感想や疑問に対して、感想を言ったり質問をしたりして、教材文の読み取りを深めた。
グループで、深めたいと思うベストクエスチョンを1つ決め、Google
ドキュメントに記入した。再度全員が集まり、各グループのベストクエスチョンを共有。「2匹の犬がどうして同時に死んで、また生き返ったのか」「なぜ1回の指示ではなく、1つずつ指示を出したのか」「なぜロシア式なのか」などがベストクエスチョンとして挙がった。
(3)ベストクエスチョンに対する答えを各自で考える
各グループから出たベストクエスチョンに対する自分なりの考えを、Google ドキュメントに書き込み、模擬授業は終了した。
3.読みを深めるためには、発問の工夫が必要
模擬授業終了後には、東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生の司会により、石井先生と参加者との質疑応答を中心としたリフレクションのセッションが行われた。
まず、蓑手先生が、石井先生に模擬授業の感想を尋ねた。
「この授業で一番のねらいとしていた、ICTを活用し、参加者から挙げてもらったたくさんの感想や疑問を一度に共有できたこと、そして他者の考えを知り、自分の考えを深めることができてよかったと思いました。ただ、グループで出した疑問を深める時間が少ないと思いました。また、実際の授業でも感じたのですが、子どもに疑問を深めさせるための、教師の発問や促し方が難しいと感じました」(石井先生)
すると、蓑手先生は、「今回の手法では、多様な意見が挙がりやすいですが、それだけでは子ども同士が意見交換をし、問いを深めることは難しいのではないでしょうか」と疑問を投げかけた。そして、今回の方法以外にも、教師が子どもに疑問を投げかけて話し合わせる方法、子どもの意見が二分されるような発問をして討論させる方法などがあり、蓑手先生自身は単元や教材によって手法を使い分けていると説明した。
蓑手先生の発言を受けて、参加者からは「今回の授業では、どのような能力の育成を目指していたのでしょうか。その目的にもよるのではないでしょうか」という質問が挙がった。
石井先生は、その質問に、「教師が子どもを誘導して問いを出させるのではなく、子どもが自分たちで文章を読んで疑問を見つけていく力を伸ばしたいと思いました。そして、答えのない問いに対しても主体的に取り組む能力を育成したいと考えました」と答えた。
すると、参加者から「教材文が長いので、場面ごとに問いを出させる方がよいのではないでしょうか。問いが少なければ、子ども同士の意見交換がしやすいと思います」「ベストクエスチョンをクラスで1つに絞れば、何を深めていくのか焦点化しやすいのではないでしょうか」といった意見が挙がった。
また、問いを全員で挙げる形式には肯定的な意見が集まったが、「多様な考えが出る問いをベストクエスチョンとして選びなさいという問いかけだけでは、どのような問いを深めれば良いのか子どもたちだけでは判断がつかないのではないでしょうか」「自分で問いを出す活動をしたので、その問いの解決に向かわせる活動をした方がよいのではないでしょうか」など、その後のプロセスは検討の余地があるという声が多数挙がった。
4. ICTツールを活用し、対面授業も進化が必要
ICTを活用した新しい学び合いの形に、参加者からは「自分も利用してみたい」という声が多数挙がった。
「これまでは、教科書をコピーしたプリントに、子どもに意見を書き込ませ、話し合いを行っていました。それをICTに頼ってよいのかという葛藤があり、まだ踏み込めていなかったのですが、今回の模擬授業に参加して、この学び合いの方法にとても可能性を感じました」
「子どもが、教科書の該当ページと行を言った上で発言をしても、周りの子どもたちがそれをすぐに理解して、該当箇所を見つけられるとは限りません。その点、ドキュメントに書き込まれた他の人の疑問を視覚的に理解できるのは、とてもよいと思いました」
石井先生は、Googleドキュメント活用の利点について、気軽に意見を書き込めるため、発言が苦手な子や勇気がなくて挙手できない子の意見を、たくさん拾えるようになったことを挙げた。そして、クラス全員の意見がドキュメントに集約されているため、グループでの話し合いが各自の発表で終わらず、考えを深める時間に費やすことができると説明した。
蓑手先生は、目的によってICTツールを使い分けていると、自身の活用法を説明した。
「今回は参加者の意見を、Google
ドキュメントを用いて、ツリー状に表示して共有しました。その他にも、多様な意見を共有するには、『Zoom』を用いて、考えを書いた紙を一斉に画面に掲示させるという方法や、『schoolTakt』というツールを用いて、子どものノートを共有する方法があります。また、意見交換を活性化させたい際には、『Jam
board』を活用しています。これは、ブレインストーミングなどに使われるツールで、付せんのように自分の意見を貼ることができます。意見の発散と集約、それぞれに合ったツールを選ぶとよいと思います」(蓑手先生)
ICTツールの活用は、オンライン授業に限らず、対面授業でも進めていきたい、と石井先生は語った。
「子ども同士が対面で疑問を出し合い、問いを深めていくことも大切だと思いますが、ICTを活用した疑問の共有は、一度に多様な意見を共有でき、議論を深めることに時間を費やすことができるため、話し合いの土台を作る上でとても有効だと感じました。通常の授業でも積極的に取り入れていきたいと考えています」(石井先生)
参加者からも同様の声が挙がった。
「今、話し合い活動が思うようにできていないので、自分もICTの活用を模索していきたいです」
「教材文を読み、与えられた問いに答える、と受け身に終始しがちだった国語の授業ですが、子どもたちが問いを発し、それにまた子どもたちが答えるという形式は、批判的に教材文を読む力を養うと思いました」
最後に、石井先生は今後の抱負を次のように述べた。
「授業でのICT活用は一人で頑張るよりも、学校全体で多くの先生が授業で取り入れていく方が、情報共有もできますし、進化しやすいと感じています。私は、国語や社会ではICTの活用を始めていますが、算数や理科ではまだICTを活用できていません。今年度、教材研究を進めながら、挑戦したいと思います」(石井先生)
プロフィール
石井 潤平
町田市立小山中央小学校 教諭
明星大学卒業後、現勤務校で教職に就く。市内各校に導入されているChromebookやICT機器を活用した協同的な学びを広めるため、日々奔走する5年目教員。臨時休業中にはオンライン朝の会実施に向けて、管理職への提案や校内研修などを行い、オンライン朝の会を実現させた。「子どもとつながる、子どもをつなげる教育」をテーマに、学級経営及び授業研究に励んでいる。
蓑手 章吾
教員14年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通う。特別支援2種免許を所有。ICT活用に関しても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT
CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。
現在「教育の鉄人」こと杉渕鉄良氏主宰のユニット授業研究会に所属。その他、多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上について理解を深めている。
セミナー登壇経験多数。共著に『全員参加の全力教室2』『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』などがある。
https://ict-enews.net/2017/10/27maehara-2/
https://edtechzine.jp/article/detail/1420