2017/06/26

あスコラ Vol.1 『僕たちが考える最高の授業!』

あスコラVol.1『僕たちが考える最高の授業!』

「あスコラ」とは

 さまざまな領域の専門家が一堂に会し、熱い議論を繰り広げる“一期一会の小さな学校”。それぞれの知見や経験、思いを語り合い、納得したり、刺激を受けたり、新しい発想が浮かんだり——。
教育に本気で向き合う大人の議論によって生まれる学びの場の様子をお届けします。
登壇者(五十音順)

木村健太氏

本格的な研究活動の導入・推進で学びの魅力化を実現した広尾学園中学校・高等学校医進・サイエンスコース統括長

倉成英俊氏

広告クリエーティブスキルの拡大応用を通じたプロジェクトプロデュースを実践する電通総研Bチーム及びアクティブラーニングこんなのどうだろう研究所リーダー

西居豊氏

全国の和食料理人とともに学校給食の和食化に取り組む合同会社五穀豊穣代表社員

林信行氏

最新テクノロジーが暮らしにもたらす変化を伝えるITジャーナリスト(「あスコラ」ボードメンバー)

黒木研史

教育環境変化に関するさまざまな情報収集・分析・予測を行うベネッセ教育総合研究所情報企画室長

社会が支える新しい教育課程

石坂 こんにちは。ベネッセ教育総合研究所ウェブサイトBERD編集長の石坂です。この新しい学びの場「あスコラ」の主宰者でもあり、司会もつとめます。どうぞ宜しくお願いします。
 さて、いよいよ始まった「あスコラ」ですが、いきなり第1回から各界でご活躍のすごい方々にお集まりいただきました。ありがとうございます! この「あスコラ」は、教育を「教育ムラ」だけに閉じずに、できるだけ多くの領域の人たちと熱く楽しく語り合って、よりよくしていきたいという私たちの願いを形にした場でもあります。
 今日のテーマは、「もし自分が日本中の子どもたちに授業をするとしたらどんな授業をしたいか」という着想から、教育への思いや実践のヒントをたくさんお聞きしたいと思っています。まず口火を切る意味で、当研究所から情報提供したいと思います。いま全国の自治体が教育政策をどのように位置付けているのか、というデータです。
ベネッセ教育総合研究所 黒木室長
黒木 私の所属しているベネッセ教育総合研究所の情報企画室で、2015年に都道府県を除く全国すべての自治体に対して教育政策や課題意識を伺う調査を行いました。そのなかで、「自治体の発展のためには子育て・教育施策を最優先するつもりだ」と回答した自治体のうち、首長だけに絞るとなんと約94%にも及んでいるのです。教育を大事に考えていらっしゃる自治体が非常に多いのだとあらためて感じましたね。さらに人口規模別にみると、人口の少ない自治体ほどその思いは強いのですが、一方で、そのような自治体は予算や人材が不足していたり、教育施策を施しても将来的に子どもたちが外に出て行ってしまったりという課題を抱えています。

子育て・教育施策に対する思い

子育て・教育に関する考えについて、「自治体の発展のためには、子育て・教育施策を最優先するつもりだ」と回答した首長は約94%
黒木氏投影資料
「明日の子育て・教育を考える」調査(ベネッセ教育総合研究所2015年)

調査概要

  1. 調査目的:地域の子育て・未来に関する施策や、首長の方々の思い・願いなどを調査し、今と未来を生きる子供たちのよりよい成長のあり方とその環境づくりを考える基礎資料とする。
  2. 調査方法:郵送法による自記式質問紙調査
  3. 調査時期:2015年1月
  4. 調査対象:全国すべての自治体(悉皆調査)※都道府県を除く
  5. 調査項目:子育て・教育に関する、施策や予算、取り組み意向や課題、民間活用意向、教育委員会制度の改革について、総合教育会議・幼保一体化について、他
※首長の回答のみで集計。(n=217) 回答数の多い項目のみ抽出して表示。
石坂 このように人口減少社会の課題を抱えながら、いま日本では戦後最大ともいわれる教育改革が起ころうとしています。これまで、大学受験や就職がゴールであるかのような知識詰め込み型・正解主義の教育がされてきたわけですが、それが『社会に開かれた教育課程』という理念のもとで大きく舵を切ろうとしています。社会というのは大人がたくさんいるところなので、これは我々大人も一緒に取り組むべき改革でもあるのではないか、という印象をまず私は受けたのですね。つまり、学校教育が社会に開かれるのだから、社会にいる大人の側もどのように積極的に関わればいいのか考える必要がある、と。そこで、今日は「この人だったらどんな授業をするんだろう」と思った皆さんと、その辺りのことについて語り合うことから始めたいと思います。
※中央教育審議会教育課程企画特別部会の論点整理(平成27年8月26日)などによる
石坂貴明 ベネッセ教育総合研究所 BERD編集長、「あスコラ」主宰
ベネッセ教育総合研究所 石坂編集長
 では、皆さん、ご自身の実践と、してみたい授業についてお話しください。まずは、日々最前線に立っていらっしゃる木村さんからお願いします。
木村健太 広尾学園中学校・高等学校 医進サイエンスコース統括
広尾学園中学校・高等学校 木村氏
木村 今回の教育改革、私のなかでは原点回帰だと思っています。これまで高校や大学の先生は皆「いまのままの教育ではいけない」と内心考えていたけれど、学校の仕組みやそれを取り巻く社会の仕組みがどこかおかしかったんですよね。教育改革を通じて何か新しいことをやろうというのではなくて、「教育ってなんだっけ?」とか「学校ってなんだっけ?」とか、そういった問いに立ち返って本来の目的を達成する教育をしようという、よい流れになっているように感じます。
 私自身の話をしますと、ずっと生命科学系の研究を志していて、実は先生になろうというつもりはあまりありませんでした。高校時代、好きな生物の成績は偏差値80だけれど、苦手な数学の偏差値は27。理系の学部って数学ができないと入れないから、本当は嫌いな勉強をしながら、すごく苦労して大学に入りました。大学入学後は、研究がめちゃくちゃ面白くて。夜も寝ないで、お盆も正月も研究ばかりしていたら、いろいろな研究成果が出てちやほやされるようになっていたんですよね。「なんで高校時代コンプレックスに感じていたアカデミックの世界でこんなにちやほやされているんだろう」とふと考えることがあったのですが、それは自分が好きなことを一生懸命できたからだとそのとき気付きました。「自分の好きなことを一生懸命やる」ってごく自然で大事なことなのですが、その楽しさをいままで教えてもらったことがなかったんです。その楽しさを中学生・高校生に伝えなきゃという気持ちに駆られ、先生になりました。

『教科書ってすごくないですか?』

木村 広尾学園では、先生方どころか世の中の誰もが答えを知らない問いを研究テーマとして立て、生徒たちに研究をしてもらいます。当然ながら、高校生には研究を遂行するための知識が足りないので、自分の知らないことに対してどういうアプローチで考え、取り組めばよいのかを先生が伝えながら、一緒に研究を進めていきます。テーマからブレイクダウンして必要な知識を身に付けていくわけですが、生徒が毎日一生懸命調べ物をするインターネットは、情報が体系的に整理されていない場合が多く、そもそも正しくない情報も溢れている。そんな経験を経て、手元の教科書に正しい情報だけが学びやすい順番でアーカイブされていることに気付いたある生徒が「先生、教科書ってすごくないですか?」と言ってきたことがありました。生徒自身に気付かせることの大切さをあらためて感じましたね。

生徒自身が、楽しみながら気付きを得られる授業を!

木村健太
 大人は「将来役に立つからやっておいた方がいいよ」と言いがちですが、自分の経験からしてもそういう言葉はなかなか生徒に届きにくいものです。いかに生徒自身で気付かせるか、そしてそれに至る過程をいかに先生も楽しめるかというのが教育の肝なのかなぁと個人的には思います。
だから、日本中の子どもたちに授業するとしたら、生徒自身が楽しく何かに気付ける機会を提供したいです。
小学生向けの進学説明会で木村氏が伝えたメッセージ

正しい答えが、振り返ってはじめてわかる時代に

 インターネットや3Dプリンタ、人工知能などさまざまな技術が発展しながら創られていくこれからの時代、木村さんがお話しされた広尾学園での授業のような、答えがない時代にどんどん突入していくと感じています。資本主義とかこれまでの価値観もだんだん変わっていく気がしますし、そんな世の中で何が正しいかなんて、大人も分からないことはもちろん、22世紀くらいになって振り返ってみないと誰も分からないでしょう。
ITジャーナリスト 林氏
 私自身、未来に興味があって、どういう風になったら素敵な未来ができるのだろうと考えながら、テクノロジーとデザインを軸とした活動をしています。具体的には、素晴らしいデザインやテクノロジーを発見したら、SNSで発信したり、記事に書いたり、講演をしたり、デザインエンジニアの育成に関わったり…。小さい頃から、素敵なことがあったり、素晴らしいものを知ったりすると、それを発信せずにはいられない性分なので、特にソーシャルメディアは、まさに自分のためにできたようなものだと思いながら日々活用しています。
林信行

世界中にある「素敵なもの」を、1つでも多く知ってほしい!

 そんな活動をするなかで、教育は未来をつくるうえで一番大事なものだと思っています。人というのは、結局自分に響いたものや環境でしか本気で動けない。裏を返すと、教育を通じて子どもたちの興味のトリガーさえ引くことができれば、いくらでも主体的に学んで発展させてくれるのではないでしょうか。だから、私がもし授業をするとしたら、学校の教室に閉じこもっていたら見えないような素敵なものや、驚き溢れるものをとにかくたくさん見せます。それを見た子どもたちが、自分の興味あるものに気付いて、その後も学び続けるきっかけにしてくれたらよいなぁと。

好奇心を掻き立てる「宿題」って、なんだろう

電通総研 倉成氏
倉成 20年前、電通のクリエーティブ塾(クリエーティブ局のインターン)に応募したときの課題が「1週間が8日に増えたら、その1日何をしますか。800字で書きなさい」というものでした。僕はカレーが好きなので、煮込めば煮込むほどおいしくなるからカレーを1日余分に煮込みたいと書きました。ただ、書いた後に、もっと面白くできるはずだと思って、冷蔵庫にあったカレールーを刻んで用紙に貼り付けて香り付きの回答を出しました。結果は、合格。
 そのときの経験が、僕に2つの大事なことに気付かせてくれたんです。1つは、それまで学校で学びながらすべてのことには答えがあると思い込んでいたけれど、実は答えなんてないということ。作文だって、数学の証明だって、本当は何通りも答えがあるんじゃないかって思うようになりました。もう1つは、楽しい大人がいるんだということ。僕が提出した課題を合格にしてくれたように、自分が面白いことをやれば、キャッチしてくれる大人が世の中にはいっぱいいるんだと気付いて嬉しくなりました。
 そんな経験を基に現在行っているのが、「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」です。僕がインターンの応募時に課されたような答えのない問いを、『変な宿題』と題して提示し、学校現場で学びをアクティブ化するお手伝いをしています。生徒や学生を前に話すときに必ず冒頭で見せるスライドがあるのですが、そのスライドがこれです。
冒頭で必ず見せる「本日は自習です。」というスライド
 自習というのは、自分で選び取って自分で学ぶ、まさに生徒や学生自身がアクティブになれる学び方のひとつだと思っています。「やりたいことを自分で見つけて、実際やれるようになる教育はどうすればよいのか」を日々模索しながら、僕たちが受け持つ授業で何か1つでも学生に引っかかるものがあればよいなと思い、いまは「自習」と大きく書いたスライドを見せて授業や講演を始めています。

もらった授業時間をプレゼントするから、好きなことをしておいで!

倉成英俊
 とある大学で、「この3時間をプレゼントするから、『人生でやりたかったけど、やってなかったこと』をやってきて。その写真を撮ってきて。」というワークショップをしたことがありました。すると、みんなそれぞれ囲碁教室に通ってきたり、校舎の屋上で飲み会をしてきたり、告白してきたり…。この授業はものすごく盛り上がって、授業の最後に何を学んだのか学生に問いかけたところ、一人の女子学生がこんなことを言ったのです。
「先生、〆切りってすごいですね。毎日3時間なんていくらでもあったのに、なんで私はやりたかったことをやってなかったんだろうって思って。今日から頑張ります」
 これを聞いた瞬間、成功したなと思いました。変な宿題は、全部背後に教えたいことがあって、その投げかけの問いを面白くすることで好奇心を掻き立て、いつの間にか身近なこととして学んでいる、という仕組みなんです。人の好奇心を掻き立てるという仕組みは、実は、電通がやっている広告のやり方を応用しています。教育は人類全員のもので、誰が考えてもいいし、誰がメソッドをつくってもいい。やってみたものを世の中に発信して、良し悪しが議論されたり、試してみたりしながら、じゃあこんなのどうだろう? っていろいろな人からどんどん提案されたらいいんじゃないかなぁって思いますね。
 そういうことを目指して「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を立ち上げて、教育のプロとコラボレーションしながら、みんなで、いろいろな授業プログラムを開発して、実施しています。人類初、世界初のいままでにないとにかく面白い授業プログラムを生もうと日々トライしています。

1回の特別授業で変わるほど、教育って簡単なものじゃない

西居 私は、大阪の堺で工務店を営む父親の下に育ちましたが、そのときの影響をすごく受けていると思います。父も職人さんも、「みんなに喜んでもらって、ちゃんとお金ももらわなあかんで!」というのが口癖で。大学時代は、要らなくなった教科書を集めてリサイクル教科書として売るなど、キャンパス内でできるビジネスを数えきれないほどやっていました。
五穀豊穣 西居氏
 その後東京で就職したのですが、数年後に専業農家である母方の実家に久々に帰省したときに、田畑が荒廃し、屋根が崩れ落ち、神社の神主さんがいなくなっている状況を目の当たりにして…。そこで農山漁村を核にしたビジネスがつくれないかと考えて、26歳のときに五穀豊穣という会社をつくりました。五穀豊穣では、当初農業の技術指導やコンサルティングをしていたのですが、東日本大震災で取引が一時停止しまして、それをきっかけに各エリアの生産者の方と一緒に小中学校へ農業の大切さを伝えに行くような食育事業を始めたのです。それが私と教育との接点ですね。
 いま、作物を作るのにどんなに手間がかかっているかご存知でない方が多く、市場では「もっと安く、もっと安く」という厳しい要求があるのが現実です。それをなんとか変えようということで、20年後に調理・購買をするであろう子どもたちに、SkypeやFacebook等の映像で伝わる方法を使って、農業や漁業の現場と教育現場をオンラインでつなげています。これは、もし日本の子どもたちに授業をさせてもらえる機会があれば、ぜひ提供したいですね。
 活動のなかで、お米農家さんに実際学校へ足を運んでいただくこともあったのですが、お米農家さんにパン給食を食べさせてしまったという苦い経験がありまして。献立を眺めてみると、実際ほとんどが洋食でした。その理由を献立を立案する栄養士さんに伺ったところ、栄養士さん自身に和食献立のレパートリーが不足していることが浮き彫りになりました。それならばと、料理人さんにご協力いただいて、学校給食への和食献立の提供も行っています。
西居豊

子どもだけでなく、周りにいる大人も巻き込み、農業/漁業について考え続けてもらうきっかけにしたい!

 倉成さんもそうだと思いますが、我々が特別授業を通じて子どもたちに接することができるのはせいぜい1日。きっかけはつくれますが、それだけで大きく変えられることができるほど、教育は簡単なものじゃないと思っています。だから、私たちは、日常的に子どもたちに関わる人、つまり栄養士さんや食育の担当教員さんにも興味関心を持ってもらいたいと考えて活動しています。

キーワードは、『自分ごと』

石坂 皆さんがさまざまな形で全国をご覧になっていて、「うまくいってる」学校や授業の特徴ってあると思いますか?
西居 和食給食の関係でいろいろな学校を訪問していて、給食の質は、献立を立案する栄養士さんにどれだけ権限が委譲されているかに正比例すると感じます。現場にどれだけ権限移譲しているかは自治体によって異なるのですが、担当する栄養士を信頼して権限を委譲している自治体はすごくよい方向に動くのが見えるんですよね。権限が委譲されているからこそ、担当の方々はオーナーシップを持って活動するんですよ。我々が行う授業でそれまでのやり方が打ち砕かれるようなアイデアを得ると、「そうすればよかったのか」とさっそく翌週から調理の仕方を変えてしまう方も珍しくありません。
木村 西居さんがおっしゃる権限委譲という考え方、これは教育に携わる大人も生徒も同じだと思うんです。当事者意識を持っている、自分ごととして捉えている人ってよい意味で勝手に動いちゃう。教育ってすごく崇高なものとして考えられがちだけど、実はこうやって自分ごととして考え動きたくなる欲求が大切だということに、もっと注目すべきだと個人的には思うんですよね。
西居 「欲求」という視点は、面白いですね。私自身も、もともとは「みんなに必要とされたい」とか「活動した分は対価を得たい」という根源的な欲求があって、それが現在の活動につながっていると思うんです。この欲に気付かせてくれたのは、欲に正直な父やその周りにいた職人さんだったなぁと。
倉成 つい生徒が眠くなっちゃう授業もまだまだある一方で、広尾学園のように、面白いものを見つけると名刺まで作って大人の輪の中に入ってきちゃう子が育つ授業もある。多様なジャンルでいろいろな子どもが興味を抱けるような、「欲求」に応える機会をマッチングするって、もっともっとできますよね
 世に蔓延している資本主義の価値観から儲かるものを目指す人はいるかもしれないけれど、多くの場合、それは一時的な動機に過ぎないでしょう。自分ごととして響く価値観でしか、結局人って動かないですからね。そういう意味では、西居さんがされている和食給食の活動や、木村さんや倉成さんがされている答えのない取り組みを通じて、資本主義で重視されているとは限らないいろんな価値観に触れることは非常に重要だと考えています。
石坂 教育現場としては、ついつい学力や能力開発に目がいきがちですが、「君たちの欲求、つまり学びたいことはなんだい?」と問うて、生徒自身が考えるきっかけを与えることも大切ですね。日本の学校では、先生や周囲の大人たちと面と向かってそういう議論をする機会がほとんど設けられていないという現状もありますし。
木村 学校の先生は、生徒の学校生活を楽しくするサポーターであり、自らも学校生活を楽しむプレイヤーであるべきだと思っています。先生がなんでもできるわけではないし、できる必要もない。学習指導要領の内容は担保しなければなりませんが、教科学習もそれ以外の学校生活も、生徒と一緒になって楽しめる環境が一番大切だと思うのです。そのためにも、繰り返しになりますが、大人と子どもの双方が当事者意識を持って日々過ごすことが重要だなぁと。
倉成 木村さんは学術的な研究、林さんは世界最先端の技術やデザイン、西居さんは和食給食。領域はバラバラだけれど、実は皆さん自身も、欲求に従って好きなものを自分ごとにされていると思うんですよね。だから、当事者意識も持てるし、楽しんで活動できる。先生である木村さん以外、世間では教育に携わっている人として認識されづらいですが、それぞれの業界で背後にある文脈やスキルを応用して学びを提供しているという点も、共通しています。こうやって、いわゆる教育業界に限らない人が集まって、それぞれの知識やスキルを出し合いながら新しい、すごく面白い教育をつくっていくことが大事だなぁとあらためて感じました。
石坂 うまくまとめていただいところで、続きは懇親会で!
一同 賛成!

主宰者より御礼

 初回なので企画の生まれた背景を書きます。「あスコラ」は実験的な学びの場です。実験なので結論はやってみないと分からない、ましてや体系立ったものではありません。ですから、当研究所の企画会議でも、「オチがない議論になったらどうする?」という慎重派もいましたが、それを押し切ってのスタートです(笑) 。だからといって、絶対失敗できないなどとは考えずに、あくまで楽しく。だって、実験って楽しかったし、ドキドキワクワクしましたよね。発想が異なる他者との対話がベースにあるので、毎回予想もしない発見があり、また内省がある。それを積み重ねることこそが学びのエッセンスの1つだと考えています。
 今回は領域は違えど、教育改革へ込めた期待や、よい学校や組織に共通する思考や態度の捉え方が見事にシンクロする展開になりました。「最高の授業」とは、子どもたちが自ら学びたくなって、実際に学んでみたら、それぞれにもっと学びたくなっている授業なのではないかと思いました。ご参加いただいた皆さまに感謝です。でも、実は記事で表現できたのは全体の10分の1程度の分量でした。実に多くの事例や意見が出され、ホントに面白いので機会をみて公開収録したり、ライブ放送したいなあとも思いました。「あスコラ」は開講する場所も日時も自由ですから。今後も開かれた教育を目指して記事を公開していきますので、学びのヒントにしていただければ幸いです!

石坂 貴明
ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰

アメリカでホテル開発に従事後、ベネッセコーポレーションへ移籍。ベネッセ初のIRT(項目反応理論)採点の検定試験開発、社会人向け通信教育事業ユニット長など主に新規事業に多く関わる。その後、移住・交流推進機構(JOIN)に出向し、総括参事として総務省「地域おこし協力隊」制度などを立ち上げ、2013年より現職。「シリーズ・未来の学校 」、「SHIFT」、「CO-BO」、「まなびのかたち」などをプロデュース。 グローバル人材のローカルな活躍、日本の伝統と学びのデザインに関心。

登壇者プロフィール

木村健太(広尾学園中学校・高等学校医進サイエンスコース統括長)

生命科学の研究分野から、学術の楽しさを伝えるために中等教育の世界へ転身。ITべンチャーでの経験も生かしながら、社会や大学へと繋がる本質的な力の育成を行い、廃校に瀕していた順心女子学園を御三家に次ぐ入試偏差値にまでに押し上げた広尾学園再生の立役者。
現在は、JST(科学技術振興機構)等で広く科学教育推進にも尽力中。

倉成英俊(電通総研Bチーム及びアクティブラーニングこんなのどうだろう研究所リーダー)

1975年佐賀県生まれ。小学校の時の将来の夢は「発明家」。 電通クリエーティブ局に入社。自称21世紀のブラブラ社員。APEC JAPAN 2010や東京モーターショー2011、IMF/世界銀行総会2012日本開催の総合プロデュース、佐賀県有田焼400周年事業などさまざまなジャンルのプロデュースに携わりつつ、「変な宿題」というメソッドを開発。研究所のメンバーとともにさまざまな教育のプロとコラボし、新しい学びについて、日々実験中。

西居豊(合同会社五穀豊穣代表社員)

1982年大阪府堺市生まれ。2009年合同会社五穀豊穣を設立。2011年より学校給食のごはん食化、和食化に取り組み、2014年、和食料理人と共に和食給食応援団を設立し、学校給食の和食化を進める。全国各地の小中学校に訪問し、和食給食献立作成や食育授業、栄養士向けセミナーを実施している。2012年、朝日新聞社『AERA』が選ぶ「日本を立て直す100人」選出。2015年、和食給食応援団が「グッドデザイン金賞」を受賞。2016年、和食給食応援団が「第10回 キッズデザイン賞 経済産業大臣賞」を受賞。

林信行(ITジャーナリスト)

最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。「あスコラ」ボードメンバー。

黒木研史(ベネッセ教育総合研究所情報企画室長)

教育関連の出版社において書店営業や商品企画、またインターネットサービスプロバイダにおいて教育関連コンテンツの配信業務などに従事し、2004年に(株)ベネッセコーポレーションに入社。教育におけるICT活用の効果について外部機関との共同研究や、WEB教材用の動画コンテンツの制作支援などを経て現職。現在は、教育行政動向等をはじめとする教育環境変化についての情報収集・分析、予測等を行う。全国各地の教育委員会や学校での講演実績も多数。
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 高藤さおり、柳田善弘、山藤諭子