2023/07/26

学会発表報告「遊びのなかの言葉をてがかりにした5歳児の思考力発揮の分析」日本保育学会第76回大会 熊本学園大学(オンライン開催)」

1. はじめに

 ベネッセ教育総合研究所学習科学研究課研究員の杉田美穂・小野塚若菜が,2023年5月13日から14日に行われた日本保育学会第76回大会 熊本学園大学(オンライン開催)において研究発表を行いました。以下、内容を簡単にご紹介します。
発表論文のダウンロード ※転載は日本保育学会の許諾を得ています
出典:杉田美穂・小野塚若菜(2023)「遊びのなかの言葉をてがかりにした5歳児の思考力発揮の分析」日本保育学会第76会大会発表論文集, P957—958

発表ポスター(スライド)のダウンロード

2. 研究の背景

 子どもの発達や学びの連続性の保障のため、幼児期と児童期の教育が円滑に接続されることは大変重要です。平成29年告示の幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領においても、育みたい資質・能力が接続期に現れる様子について「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(以下、10の姿)として具体的に示され、教育課程に生かすことが求められました。しかし、接続期の連携が交流的なものにとどまり、資質・能力をつなぐカリキュラムの編成や実施が十分ではないという課題が指摘されています。また、日本の保育者が社会情緒的なスキルの育みを重視する一方で、それらに比べると言葉や思考力に関わるスキルの育みへの意識は高くないという報告もあります。
 本研究では、5歳児の思考力を、泰山ほか(2014)の19の思考スキルの発揮と定義し、小学校以上の教育課程で育成を目指す思考力について、5歳児の遊びのなかの言葉を手がかりに思考力の芽を見とる観点として整理を行いました。これにより、保育者が言葉や思考力に関わるスキルの育みへの意識を高めること、そして、幼児教育と小学校教育それぞれの立場から、思考力が一貫的に育まれていることの理解の促進につながるのではないかと考えました。

3. 目的

次の2点を明らかにすることを目的としました。
① 言葉を手がかりとして、5歳児の遊びのなかにどのような思考スキルの発揮を見とることができるか。
② 見とることができた場合、どのように整理することで、保育者の言葉や思考力に関わるスキルの育みへの意識を高めることに貢献するか。

4. 方法

① 幼稚園教育要領等に見出せる思考スキルの確認

10 の姿および小学 1,2 年の国・算・生活の学習指導要領解説の記述内容を対象に,その活動で子どもの発揮が想定される思考スキルを19の枠組みから判断し、対応付けました。
n=子どもが発揮していると見とった思考スキルの数
表1:幼稚園教育要領等に見出せる思考スキル (当日発表資料より抜粋)

② 5歳児の遊びにおける思考スキルの検証

5歳児が思考を働かせていると想定できる具体的な遊び(35事例)を対象に、遊びのなかの言葉を手がかりに発揮している思考スキルを想定し、対応づけを行いました。
表2:5歳児の遊びにおける状況と言葉(当日発表資料より抜粋)
表3:思考スキルの発揮を想定できる5歳児の具体的な言葉と活動例(当日発表資料より抜粋)

5. 結果・考察

① 幼児期の遊びと児童期の学びのつながりを確認

 思考スキルの枠組みを用いて10の姿と学習指導要領を分析し、共通のスキルが見いだせました。また、思考力の枠組みである19の思考スキルに基づいて、5歳児の遊び35事例を分析した結果、すべての思考スキルの発揮を見とることができました。このことにより、児童期以降の学習活動で育成が目指される思考力の芽生えが5歳児の遊びのなかに現れていることが示唆されました。

② 保育者が子どもの「考える」を見とり育む意識への効用

 思考スキルの観点を意識することにより、子どもの姿や言葉に様々な「考える」があることに気付き、小学校の学習活動への見通しをもちながら、子どもの思考を深める環境構成に生かすことに寄与できる可能性が示されました。
 但し、表出する子どもの言葉は、保育者や友だちとの関係性や全体の文脈から捉えられるものであり、画一的に捉えられず、人ひとりに応じた丁寧な見とりが必要となります。また、今後の課題として、思考の発揮を促す養育者の援助や環境構成のありかたを明らかにすることや、これらの枠組みや観点を用いることにより、小学校教師が幼児期の遊びを通した学びの理解や入門期のカリキュラム編成に活かせるかについて検証していきたいと思います。

本記事の参考文献

・文部科学省(2010)「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/11/22/1298955_1_1.pdf(2023.7.11アクセス)

・文部科学省(2022)「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会(審議経過報告)」
https://www.mext.go.jp/content/20220405-mxt_youji-000021702_2.pdf(2022. 7.11アクセス)

・国立教育政策研究所(編)(2020)「幼児教育・保育の国際比較 OECD 国際幼児教育・保育従事調査2018報告書 質の高い幼児教育・保育に向けて」明石書店.

・泰山裕,小島亜華里,黒上晴夫(2014)「体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討:学習指導要領とその解説の分析から」日本教育工学会論文誌,37(4):375-386.