2024/09/05

【学会発表報告】「5歳児の思考力発揮を促す保育者の援助について」日本発達心理学会第35回大会(会場;大阪国際交流センター)

1. はじめに

 ベネッセ教育総合研究所学習科学研究室 主任研究員の杉田美穂・小野塚若菜が,2024年3月6日から8日に行われた日本発達心理学会第35回大会(会場;大阪国際交流センター)において研究発表を行いました。以下、内容を簡単にご紹介します。
発表論文のダウンロード ※転載は日本発達心理学会の許諾を得ています
出典:杉田美穂・小野塚若菜(2024)「5歳児の思考力発揮を促す保育者の援助について」日本発達心理学会第35回大会論文集, P210

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2. 問題と目的

 子どもの発達や学びの連続性の保障のため、幼児期と児童期の教育の円滑な接続は極めて重要であり幼小の資質・能力の育成をつなぐカリキュラムの編成や実施が求められています。杉田・小野塚(2023)は、「比較する」「多面的にみる」など、小学校の学習指導要領から抽出された19の思考スキル(泰山ほか,2014)の発揮を、5歳児の遊びの事例においてみられることを明らかにし、幼児期の遊びと児童期の学びにはつながりがあることを示しました。また、先行研究では、幼児の論理的な思考力を育むためには、幼児の視点変化を促すことや自分自身の認知プロセスを意識化させる明示的なフィードバックが有効であること(大宮,2013)や、保育者や他の幼児の関わりのなかで培われる「人との関係性」が有効である(内田・津金,2014)という研究結果があります。これらのことから、幼児の思考力を育むためには、保育者の援助が重要な要素であると言えます。
 本研究は、5歳児の思考力を19の思考スキルの発揮と定義し、その発揮を促す保育者の環境構成や援助について明らかにすることを目的としています。

3. 方法

 保育者の環境構成と援助を明らかにし、保育現場で活用しやすいものにする方法として、①~③の手順で「観点リスト」を作成しました。
  1. 5歳児が思考を働かせていると想定できる35の活動例について、子どもの思考スキルの発揮が想定される場面における保育者の環境構成や援助を抽出した(杉田・小野塚,2023)。その際、保育者が19の思考スキルのうちどのスキルの発揮の促しを企図したかを想定し、タグ付け。
  2. タグ付けがされた環境構成・援助を思考スキル別に集約し、複数の個別事例から抽象度を高めた記述を行い、汎用的な環境構成と援助例を作成。
  3. 保育者と発表者により、保育現場における理解のしやすさを確認し「観点リスト」として一覧化。

4. 結果と考察

 「観点リスト」を作成することにより、5歳児の19の思考スキルの発揮が促される、保育者の具体的な環境構成や援助例を明らかにできました(表1)。この一覧に記述された5歳児の活動例や保育者の援助例をヒントに、実践計画やふりかえりを行った保育者からは「経験的に行っていたことの意味が明確になった」「保育計画の大切さが改めて理解できた」「経験の浅い保育者にとっては援助のヒントになる」といった意見が挙げられました。定性的な意見ではありますが、保育者が子どもの思考力を発揮する姿に気づき、さらに思考力の発揮を促すような援助を見出す一助になる可能性が示されたと言えます。
【表1】 5歳児の思考スキル発揮を見とる活動例と保育者の援助例の一覧(「観点リスト」一部抜粋)
思考スキル 5歳児の活動例 保育者の環境構成と援助例
【多面的にみる】
多様な視点や観点にたって対象を見る
  • 身近な人との関わりのなかで、「相手はどう思うだろう」とほかの人の思いを想像する。
  • 自らが経験し、興味をもったことについて、もっと詳しく知りたくなり、図鑑で調べる。
  • 子どもがこれまでの経験を思い起こして自分の気持ちを十分に話すなかで、自分とは異なる気持ちや考えがあることに気づくような声かけをする。
  • 子どもの興味や発想に気づき、それらを広げたり深めたりできるような環境を用意して見守る。

5. 研究の限界点

 本研究結果を活用した保育において、実際にその援助がどの程度子どもの思考スキルの発揮を促したのかについては明らかではありません。さらに、資質能力の育成を小学校段階にどのようにつなぐのかといった、接続に関する議論が十分ではありません。今後、ベネッセ教育総合研究所において実践を通した研究を進めていきます。

【参考文献】