2016/02/29
Shift│第12回 「おおさか☆みらいシティ」から考える、「10年後になくなる職業」の意味 -小学生がつくる未来の街を歩いて- [1/4]
2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らが発表した論文がずっと話題になっている。「米国の総雇用者の仕事のうち、47%が10~20年後には機械によって代わられる」と予想した論文のことだ。米グーグル社の創業者、ラリー・ペイジも「人工知能の急激な発達により、現在日常で行われている仕事のほとんどはロボットが行うようになり、近い将来、10人中9人は今とは異なる仕事をしているだろう」と言っている。
これらの話は、ロボットに代替される仕事がたくさんあると言っているだけで、ほとんどの人間が失業すると言っているわけではない。人工知能やロボットが発達すると、世の中の価値観が大きく変わり、人々が社会に貢献する意味合いや方法も変わってくる。つまり、そういう時代に合わせて人間がやるべき仕事も大きく変わるということなのだ。
そんな人類史の節目となるような時代に社会へ旅立つ子どもたちは、仕事というものをどのように捉え、どのように付き合っていけばいいのだろうか。仕事が変われば、学びも変わっていくはずだ。取材班は、「おおさか☆みらいシティ」というキャリア教育イベントに、そのヒントを見出した。今回は、イベントに関わる人たちへの取材を通して、未来の仕事、未来の学びのあり方について考えたい。
【取材・執筆】 ジャーナリスト・林 信行
【企画・編集協力】 青笹剛士(百人組)
【企画・編集協力】 青笹剛士(百人組)
ゼロから子どもたちがつくる「おおさか☆みらいシティ」
2015年の12月5日土曜日、大阪市天王寺区の真田山公園内に位置する大阪市立天王寺スポーツセンターを訪れた。小学生が仮想の街の住人になって、仕事をしたり、仕事で得た仮想通貨を使って購買活動をしたりすることで、お金や社会の仕組みを学ぶ体験型のイベントを取材するためだ。会場に入ると、約500人の子どもたちの活発な話し声が聞こえてきた。
会場は、バスケットボールコート2面ほどの広いスペースが中央で区切られ、2つの仮想の街を形成していた。2つの街をつくった理由は、「市」くらいの規模の街は大抵の場合、複数の街で構成されているからだという。片側の街をのぞくと、正面に子どもたちが長い行列をなすブースが目に入った。そこには手書きで「銀行」と書かれたプレートが掲げてある。その他にも「とけい屋」や「おもちゃ屋」、「お寿司屋」といったお店もあれば、「市役所」もある。また、本物の街にはないであろう「折り紙屋」といったお店も目についた。
お寿司屋で握り寿司を買う筆者
「折り紙屋」の軒先には千羽鶴が飾ってあり、店の商品として動物や乗り物、頭にかぶるカブトなどの折り紙が陳列されている。値札には「100ミライ」という仮想通貨の価格が書かれていた。次に「お寿司屋」を見るとダンボールの切れ端に、いろいろな寿司ネタの絵柄と名前が書かれて売られている。
「おおさか☆みらいシティ」の第一印象は、社会をモデルにした大規模なお店屋さんごっこ。通常、このような大がかりなイベントは企業スポンサーがついていて、店舗やそこで体験できる職業などは、あらかじめ用意されていたり、一見リアルなものが多い。
「おおさか☆みらいシティ」の様子
しかし、「おおさか☆みらいシティ」のお店は、体育館にあるイスや机に模造紙などで装飾した手づくり。並んでいる紙細工の商品、そこに描かれた絵、流通している通貨もすべて手づくり。子どもたち自身の想像力で、街すべてをゼロからつくっている充実感が漂い、参加者は大はしゃぎで楽しんでいる。
筆者は、子どもたちがつくるこの街を歩くと、いくつか発見や感動があった。 まず、2つの街はそれぞれ独立した街(区)になっていて、それぞれに「銀行」、「区役所」、「ハローワーク」、「テレビ局」など同じ役割の施設があった。それぞれの区を行政として統括する「市役所」にも子どもたちはいて、小学生の市長も存在していた。
銀行に並ぶ子どもたち
「銀行」には一番長い行列ができており、なぜこんなに人気なのだろうかと列に並ぶ子どもに聞いてみると、銀行はそれぞれのお店で働く子どもたちにお給料を渡す場所になっていると答えが返ってきた。そう、彼らは街に繰り出して、おもちゃや文房具を買いに行く前に、銀行で給料を受け取る必要があったのだ。
商品の値段を自分たちで調整していたことにも感心させられた。自分たちが扱っている商品同士の価格のバランス、また、隣の区にある同業の店と比較検討しながら価格を決めていたからだ。人気のない商品を容赦なく値下げしている様子には、思わず笑ってしまった。
B to Bモデルやエコシステムも
面白い事例をひとつ紹介したい。「おもちゃ屋」や「文房具屋」、「銀行」といった行列ができている人気のブースと違って、「テレビ局」の前にはほとんど人が集まっていなかった。よほど人気がなくて売り上げもないだろうと思ったら、そうではなかった。どう営んでいるのかと聞いたら、イベントの興味深い取り組みを撮影取材して、隣にある「映画館」(テレビが置いてある)で上映してもらっているのだ。つまり、このテレビ局はいわゆる「B to B」で、「映画館」から収益を得ていた。
一番、感動したのは「とけい屋」だ。他の多くの店舗は、机の上にランダムに商品を置いている店が多かったが、「とけい屋」は、折り紙でつくったひとつ一つ異なる色とデザインの時計をきれいに陳列して売っていた。そのディスプレイは美しく、他の店とは違う「おもてなし」を感じられた。
広さは十分だが、それ以外は何の変哲もない体育館で、子どもたちによって多種多様な営みが行われていることに、ただただ圧倒された。
会場でゴミ拾いをする菊池さん
ちなみに、子どもばかりの街に大人がひとり参加しているなあと見ていると、アーティストでありコミュニティデザイナーでもある筆者の友人、菊池宏子さんだったことにはビックリした。彼女は清掃人の青い制服を着て、子どもたちとトングを使ってゴミ拾いをしていた。
本人によれば、ゴミを集めて子どもたちと一緒に、このゴミをどうしたらいいかと話し合って、リサイクル品をつくったり、子どもたちにゴミを意識させるアート作品をつくったりしているという。単なるお店屋さんごっこではない、街づくり体験の奥深さを感じさせられる一面を見た。